[台北政府への提言]:沖ノ鳥島12海里外200海里内での不当拿捕に抗議すべき
1. 国連海洋法条約によれば、2005年10月8日時点では沖ノ鳥島に排他的経済水域設定できない。
国連海洋法条約・第121条3項(注1)によれば、「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩(注2)は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。」のである。
ところが、日本政府は2005年10月8日時点で2つの岩のみからなる無人で独自の経済生活を維持できていない沖ノ鳥島(注3)に国連海洋法条約・第121条3項に違反して違法な「排他的経済水域」を設定しており、それを根拠に2005年10月8日に台湾漁船を日本の海上保安庁が不当にも拿捕した。
2. 昨年から日本は国際的立場の弱い台湾漁船を狙って拿捕している。
2005年10月8日沖ノ鳥島領海12海里外200海里内(注4)での台湾漁船不当拿捕は海上保安庁によるものであったが、日本は海上保安庁とは別個に水産庁も外国漁船を拿捕している。そして、水産庁による外国漁船の拿捕件数の推移(注5)から日本の水産庁による台湾漁船拿捕が2004年から急増しているのがわかる。逆に、中国本土の漁船の拿捕数は2004年から減っている。2004年から急に中国本土の漁船のマナーが向上し、台湾漁船のマナーが2004年から急に悪くなったとは考えにくいので、これはウルサイ北京政府の管轄下にある中国本土の漁船の拿捕より国際的立場の弱い台北政府の管轄下にある台湾漁船を狙って拿捕して法的に争いのある海域で実績確保する方針に変更されたからと私は推測する。(念のため、水産庁に電話で質問したが納得のいく理由は示されなかった。)尚、海上保安庁の拿捕数の推移ではそのような傾向は見られなかった(注6)が、これは憲法で武力行使の禁じられている海上自衛隊の自衛艦に代わって武力行使するコワモテの海上保安庁巡視船の業務に非難が向かわないように弱い者イジメの汚い仕事をソフトなイメージの水産庁取締船に任せたためと私は推測する。
3. 国連海洋法条約締約国でない台湾が沖ノ鳥島に排他的経済水域がないとの主張は可能か?
公海自由の原則は昔から確立している国際法である。逆に、排他的経済水域は国連海洋法条約の採択にともなって国連海洋法条約の内容に従って慣習法としても確立した(注7)国連海洋法条約に由来する新しい国際法の概念であって国連海洋法条約・第121条3項の制限とは一体をなす概念である。よって、台湾が国連海洋法条約の締約国(注8)になる資格がないために国連海洋法条約の締約国でなくとも、(台北政府が日本と同様に無人で独自の経済生活を維持できない岩に排他的経済水域を設定していない限り)、台北政府は公海自由の原則を主張すれば足り、逆に日本が排他的経済水域の概念援用する場合においては国連海洋法条約・第121条3項をも含めてセットで援用する義務が日本にある。(もちろん、台湾から国連海洋法条約・第121条3項を国際慣習法として援用もできる。)
よって、(台北政府が日本と同様に無人で独自の経済生活を維持できない岩に排他的経済水域を設定していない限り)、台北漁船は沖ノ鳥島12海里外で自由に操業できる権利があるのである。
4. 民主人権体制の台湾では台北政府は必然的に台湾の民衆保護の義務を負う。
台湾は民主人権体制であり、(危機的緊急事態の場合を除いて)台北政府は原則として民衆保護を外国との関係より優先させる義務を負う。つまり、台北政府は、(台北政府が日本と同様に「無人で独自の経済的生活の維持できない岩」に排他的経済水域を設定していない限り)、2005年10月8日の沖ノ鳥島日本領海外200海里内での台湾漁船不当拿捕について日本政府に対して抗議する義務がある。
5. 台北政府が日本に対し抗議と共に要求すべき事柄
台北政府は、(台北政府が日本と同様に「無人で独自の経済的生活の維持できない岩」に排他的経済水域を設定していない限り)、日本に対し台湾漁船不当拿捕に対する抗議と共に、下記のいずれかに応じるよう要求すべきである。
(1)不当拿捕の謝罪および担保金の返還と、国際法違背の沖ノ鳥島沖の「排他的経済水域」の取消しのため「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」の一部改正
(2)国際海洋法裁判所に「中華台北」を相手方当事者として2005年10月8日の沖ノ鳥島沖における拿捕の件について付託する合意(注9)
6. 日本がいずれの要求にも応じず、北京政府も日本を国際法廷に提訴しない場合に台北政府のすべき国際的声明
日本がいずれの要求にも応じず、北京政府も日本を国際法廷に提訴しない場合で、台北政府が国際慣習法として国連海洋法条約に従う意思があれば以下の声明を国際的にすべきである。
「台北政府は国連から追放されたため国連海洋法条約の締結はできないでいるが、国連海洋法条約の大部分は国際慣習法化しているし、台北政府は国連海洋法条約を国際慣習法として受け入れて従う意思がある。」
「台湾は国連及びその機関において単独では国家として扱われていないため、台湾は国連海洋法条約・第286条によって日本を国際法廷に強制提訴できず不当拿捕による台湾の漁民の人権侵害は回復されないので、台湾にも国際海洋法裁判所に強制提訴できるように国連海洋法条約・第305条を改正して欲しい。2004年から日本の取締当局は国際的に立場の弱い台湾漁船を狙い打ちで拿捕しており、このままでは台湾漁民の人権侵害が続く。」
「日本による2005年10月8日沖ノ鳥島領海外200海里内での台湾漁船不当拿捕の件は日本による国連海洋法条約・第121条3項に違背して純然たる公海に違法な排他的経済水域設定した事が原因なので、将来において当該海域で漁業を予定する国家なら第三国でも日本を提訴できるので日本を提訴して欲しい。」
6. 台北政府が抗議しても日本は基本政策を台湾の不利に変える心配はない。
日本に沖ノ鳥島の排他的経済水域設定で抗議したり、その件で国際法廷で争ったり非難声明したりする事は、そもそも日本の国連海洋法条約・第121条3項に違背する違法な排他的経済水域設定が原因なので、日本人の一部が台湾に怒っても、それによって日本の台湾に対する基本政策が台湾の不利な方向に変更される心配はない。西欧では友好国同士でも国際法廷で争っている。また、国際法廷の利用による平和的解決は武力威嚇が横行する東アジアに平和的解決の機運をもたらすキッカケともなるので望ましい事である。
7. 上記の対応は台湾の漁民の人権保障に役立つばかりでなく、台湾の国際的地位向上にも役立つ。
台湾が国際法における主体として行動する事は台湾の国際的地位向上に非常に役立つ。国際的に国際法における主体として認知されるからである。
尚、上記の国際的声明によって北京政府が日本を提訴した場合、台湾が中華人民共和国の一部として判決される事が心配なら、台北政府と外交関係があり国連海洋法条約締約国であるナウル共和国に訴訟参加してもらい「現時点では台湾は中国の一部であっても中華人民共和国に時効支配されていないので中華人民共和国の一部ではないし、将来において中国は分裂国家としての認識が国際的に定着する可能性もある」と国際法廷で表明してもらえば良い。日本の行為は純然たる公海に対する侵害なので将来において当該海域で漁業を予定する国家なら第三国でも日本を提訴・訴訟参加可能だからである。
第121条 (島の制度)
1 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。
2 3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。
3 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。
(注2) 国連海洋法条約は何をもって「岩」とするかの定義を与えていない。そこで、通常の用語で規定されたと考えるべきである。だとすれば、高潮時に海面上にある陸地と連続する平均海水面以上の海抜の定まった場所に恒常的に砂泥等の土砂が堆積せず高潮時に海面上に存在する陸地が岩ならば、国連海洋法条約・第121条3項の「岩」と考えるべきである。(大きさを基準に分類する国際法学者もいるが大きさの基準が定まっていない。)
(注3) 沖ノ鳥島は東西が約4.5km、南北が約1.7kmの環礁内にある北小島(7.86平方メートル)及び東小島(1.58平方メートル)と名づけられた国連海洋法条約・第121条1項の「島」から構成され、それらは互いに平均海面以上の陸地では恒常的には連続していないので互いに別個の「島」である。つまり、「沖ノ鳥島」は単一の「島」ではない。(実際、国土地理院HPの2万5千分の1地形図「沖ノ鳥島」には「干潟」すら存在しない。)
ただし、沖ノ鳥島の環礁は高潮時には北小島と東小島のみが海面にあるだけであるが、沖ノ鳥島を管理する国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所によれば低潮時には北小島と東小島以外にも海面上に露出する岩もあるそうである。
高潮時に海面上にある東小島と北小島は国連海洋法条約上の「島」であっても(2つ合わせても3坪にも満たない面積の)岩のみであって、東小島及び北小島のいずれもが平均海水面以上で恒常的な砂地とは連続しておらず、構成からも大きさからも「岩」であるのは明白である(注2)。また、北小島と東小島は無人で独自の経済生活の維持はできないので国連海洋法条約・第121条3項により排他的経済水域を持てない「岩」にすぎない。また、北小島と東小島の周りを波浪等による侵食や倒壊から岩を防護するため非常に特殊なコンクリート防護壁の人工島が取り囲んでいるが、それらのコンクリート防護壁の人工島は国連海洋法条約での「島」ではない(国連海洋法条約・第121条1項参照)。
環礁内にある浅い海面上に(海底油田のプラットフォームに似た)高床式の構造物である観測施設は居住可能であるが、その基盤は海面下にあるため平均海面上の恒常的陸地で北小島・東小島のいずれともつながっておらず、(沖ノ鳥島を管理する京浜管理事務所に問い合わせたところ)低潮時にも海面下にある海底の上に建設されてるとの事なので低潮高地(国連海洋法条約・第13条参照)上にすらなく、しかも、2005年10月8日時点で無人であった。それゆえ、高床式の構造物である観測施設のある場所は現在の国際法では「島」の一部とは認められないので、たとえ高床式の構造物である観測施設に居住者がいても沖ノ鳥島の北小島と東小島は無人島である。しかし、今後も長期にわたって日本の拿捕に抗議する国がなければ慣習法に依存する面が大きい国際法では国連海洋法条約の「島」の範囲の解釈が将来において変更され、「島」の範囲が環礁全体となる可能性は否定はしない。その場合には高床式の構造物である観測施設に灯台が建設され環礁内に暴風時の漁船退避施設や常勤職員の宿舎付きの海洋研究所が造られれば、国際法廷も沖ノ鳥島に排他的経済水域を認める可能性がある。しかし、2005年10月8日時点では沖ノ鳥島が無人で独自の経済生活を維持できない「岩」にすぎないのは明白であり、日本が沖ノ鳥島沖に排他的経済水域を設定したのは明白に国連海洋法条約に違背するもので台湾漁船拿捕は不当なものである。
尚、日本人の国際法学者の中には排他的経済水域の設定が無理でも慣習法の200海里漁業水域の設定は可能だとの説(芹田健太郎著・有信高文堂・「島の領有と経済水域の確定」p.241参照)というのもあるが、そもそも200海里漁業水域は慣習法として確定する以前に排他的経済水域の概念に吸収されたのであり、実際、日本も暫定的に制定した「漁業水域に関する暫定措置法」を国連海洋条約の発効にともなって廃止し、「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」を発効させたのである。また、「漁業水域に関する暫定措置法」は廃止されてるので200海里漁業水域を根拠に台湾漁船の拿捕はできない。
これについては下記↓の別項にまとめておいた。
(注4) 電話で海上保安庁に問い合わせたところ、実際には沖ノ鳥島北方約240km(約130海里)沖合いで拿捕した旨の回答を得た。
(注5) 水産庁プレスリリース・水産庁による外国漁船の拿捕件数の推移表によれば、
http://www.jfa.maff.go.jp/release/17/17.1004.01.htm
(↑のページを下までスクロールすると水産庁による外国漁船の拿捕件数の推移表がある。)
2000年に拿捕された漁船は、中国本土漁船5隻、台湾漁船0隻、
2001年に拿捕された漁船は、中国本土漁船3隻、台湾漁船1隻、
2002年に拿捕された漁船は、中国本土漁船12隻、台湾漁船0隻、
2003年に拿捕された漁船は、中国本土漁船12隻、台湾漁船0隻、
2004年に拿捕された漁船は、中国本土漁船5隻、台湾漁船7隻、
2005年(10月2日まで)に拿捕された漁船は、中国本土漁船1隻、台湾漁船4隻、
となっており、2003年までほとんど拿捕されてなかった台湾漁船の拿捕数が2004年から急増し中国漁船の拿捕数を上回って逆転している。
(注6) 海上保安庁HPにある下記PDFファイル(184KB)にある「外国漁船の国籍別検挙隻数」の表参照
http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/h17/k20050223-2/main.pdf
(注7) 国際司法裁判所のリビア・マルタ事件判決(1985)参照。
(注9) 国連海洋法条約・附属書VI・国際海洋法裁判所規程・第20条2項参照。ただし、付託合意においては北京政府が異議を唱えないように「中華台北」名義にするのが無難であろう。
2005年10月23日 (当初版・2005年10月19日)
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