パルマス島事件判決はオランダに冊封された大酋長による間接的支配を有効とする (詳細版)
尖閣諸島日本領論者には、中国の琉球王国に対する冊封を中国独自の茶番で国際法上の効果が無いと考える者もいるようだが、「パルマス島事件」判決はオランダの植民地支配を代表する ( オランダ ) 東インド会社 (注1) によるパルマス島の近くの大きな島であるサンギ島の二人の大酋長に対する「冊封」と冊封された近隣の大島であるサンギ島の大酋長によるパルマス島に対する間接的支配を有効と認めている (注2) (注3-1) (注3-2) (注4-1) (注4-2) 。この事を、尖閣諸島領有問題に当てはめると、中国は冊封使船だけでなく琉球王国の進貢船 (朝貢船) 等を含めて尖閣諸島について数百回の利用 (実質的に巡回を兼ねる) があった事になる。
問題は、最後の二回の冊封使に対して琉球王国から派遣された案内役の看針通事が「黄尾嶼」を「久場島」、「赤尾嶼」を「久米赤島」として意図的に琉球名で紹介し「黄尾嶼」と「赤尾嶼」を横領しようとした疑い (注5) (注6) (注7) がある事である。単に琉球名で紹介しただけで業務上横領の故意が無い場合 (注8) には琉球王国の進貢船 (朝貢船) による洋上からの実効的占有をもって清朝中国は間接的に実効的占有を取得する。ところが、もし仮に、琉球王国の看針通事等の水先案内人や通訳が業務上横領の故意をもって、「黄尾嶼」を「久場島」、「赤尾嶼」を「久米赤島」と冊封使に紹介したのであれば、最後の二代の琉球王である尚育・尚泰の時代の進貢船による「黄尾嶼」と「赤尾嶼」の実効的占有は清朝中国に帰属しないと考えるべきである。しかし、これは琉球王国の業務上横領未遂であり、たとえ琉球国王が直接に関与してなくとも忠誠義務違背である。そのため、琉球王国はその不正な占有の返還義務を追う。問題は日本の琉球王国併合によって琉球王国が消滅しており日本が「黄尾嶼」と「赤尾嶼」の不正占有の返還義務を追うかであるが、第二次世界大戦終結までは日本は台湾の附属島嶼として尖閣諸島の割譲を受けており琉球王国による「黄尾嶼」と「赤尾嶼」の不正な占有の返還義務を負わなかった。しかし、日本は第二次世界大戦の敗戦によってポツダム宣言を受諾しカイロ宣言の条項の履行義務を負った。そのため、日本は琉球を独立させ中国は琉球に対する宗主権を回復させる権利を有しているはずだったのであるが、沖縄戦を遂行し沖縄を占領したアメリカが沖縄の民衆の日本復帰要求によって日本領としてしまった。ただ、第二次世界大戦後の国際法では属領住民に自決権が認められたため、アメリカが沖縄を日本に返還した事がポツダム宣言・カイロ宣言無視の国際法違反とまでは断定できない。しかし、もし仮に琉球王国による「黄尾嶼」と「赤尾嶼」の琉球名での紹介において不正占有 (業務上横領) の故意があったならば、その不正な占有の返還義務は日本帰属前に清算されるべきであった。(ただし、単に占有権の返還であって、この事だけから直接に黄尾嶼と赤尾嶼の領有権が中国に帰属するとは論理的には結論できない。) 尚、琉球が民衆の自決権によって日本の一部になる事を選択しても、琉球の民衆がアメリカ軍の撤退を望んでおり中国としては琉球を低武装・武力緩衝地帯にする歴史的権利もあるためアメリカ軍の沖縄からの撤退を要求できる。
2018年1月26日 (2016年9月20日・当初版は こちら 。)
御意見・御批判は対応ブログ記事・[ パルマス島事件判決は冊封による間接的支配を有効とする 浅見真規のLivedoor-blog ] でコメントしてください。(注1) 植民地経営に関してオランダを代表する事がオランダ成立時の条約で認められている。
(注2) 『判例国際法』 [ 第二版 ]・松井芳郎 編・東信堂・(2006年5月20日初版第1刷発行)中の「パルマス島事件」解説p.126-130参照。
>首長はその領国を宗主権者である会社またはオランダ国家から封土として授与されるとする。
(注3-1) [ 島の領有と経済水域の境界画定 ] ( 芹田健太郎 著・有信堂高文社・1999年6月3日初版第一刷 ) の「補章 島の領有権をめぐる仲裁判決の研究」 ( p.291-292 ) 参照。
>当該領主(prince)が宗主国である東インド会社またはオランダ国家の封土として自己の領地(principarity)を受領しているという観念に基づいている。
(注3-2) [ 島の領有と経済水域の境界画定 ] ( 芹田健太郎 著・有信堂高文社・1999年6月3日初版第一刷 ) の「補章 島の領有権をめぐる仲裁判決の研究」 (p.295-296) 参照。
>このようにして原住民国家に対する宗主権は、国際社会の他の構成員に対する領域主権の基礎となる。
>一定の時期に主権の存在のための要件が満たされているかどうかの問題を決定するのは、
>このようにして原住民の当局者か殖民国家の当局者のいずれかに分配された機能の総和である。
http://legal.un.org/riaa/cases/vol_II/829-871.pdf
または、
(下記PDFファイルの26画面目)
https://pcacases.com/web/sendAttach/714
参照。
>they are all based on the conception that the prince receives his principality
>as a fief of the Company or the Dutch State, which is suzerain.
(注4-2) 「パルマス島事件」 判決原文 (p.858-859)
http://legal.un.org/riaa/cases/vol_II/829-871.pdf
または、
(下記PDFファイルの28画面目)
https://pcacases.com/web/sendAttach/714
参照。
>And thus suzerainty over the native State becomes the basis of territorial sovereignty
>as towards other members of the community of nations.
>It is the sum-total of functions thus allotted either to the native authorities
>or to those of the colonial Power which decides the question
>whether at any certain period the conditions required
>for the existence of sovereignty are fulfilled.
(注5) 最後の冊封使・趙新による著作で趙新の子や孫らによる自費出版と考えられる『續琉球國志略』には趙新の回の航路だけでなく冊封使録が出版されていない前回の冊封使の林鴻年の航路も記載されているが、それによれば最後の二回の航行で「黄尾嶼」が「久場島」、「黄尾嶼」が「久米赤島」として扱われており、琉球王国から派遣された案内役の看針通事が「黄尾嶼」と「赤尾嶼」を琉球名でのみ紹介したと考えられる。
(注6) 最後の二回の冊封使録が公費で出版されなかったと思われる原因は「黄尾嶼」と「赤尾嶼」の記載がなく、おそらくそれらの琉球名と思われる「久場島」・「久米赤島」で記載されていたからと私は推測する。
(注7) 鞠徳元 著 『日本国窃土源流-釣魚列島主権辨』 参照。鞠徳元教授は薩摩が黒幕になって琉球王国に横領をそそのかしたと考え、それが日本の釣魚列島 (尖閣列島) に対する窃盗の源流としているようである。
(注8) 最後の冊封使・趙新の遺族が自費出版した冊封使録・『続琉球国志略』に関して、原田禹雄 著・『尖閣諸島』(2006年1月17日発行)p.109では黄尾嶼と赤尾嶼が琉球名で書かれているだけでなく役所名でも漢名の「董舟所」を琉球名の「船手」と書いてあるとの指摘がある。そのため、琉球王国から派遣された水先案内人らが冊封使に黄尾嶼を久場島、赤尾嶼を久米赤島と琉球名で紹介したからといっても業務上横領の故意があったとは断定できない。