原子力損害賠償法・第三条の天災「地変」免責規定が被害を増大させた

 

 


[ 注意 ]:4月19日に、原子力損害賠償法の天災免責規定による東京電力への免責適用の可否についての法的考察部分を、[ 福島第一原発事故で東京電力が免責されるか? ] というタイトルの記事にして分離しました。


参考資料

(総務省の運営するe-Gov・法令データ提供システム・原子力損害の賠償に関する法律・参照)

[ 原子力損害の賠償に関する法律・第三条第一項 ]

原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。

ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。

 


要旨

東京電力は、「原子力損害の賠償に関する法律」(略称:原子力損害賠償法)・第三条第一項但し書きの「異常に巨大な天災地変」による免責を期待して、最善の防災対策を採らず、自社の経済的便益を防災より優先させたのです。

たとえば、気象庁の緊急地震速報を利用するか、自社もしくは電力各社で共同してJR各社共同のユレダス(UrEDAS)のような地震早期警戒システムを構築し地震波到達前に原子炉停止のための制御棒の早期挿入を実現すべきだったにもかかわらず福島第一原発敷地内の地震計のみに依存し地震波到達後に原子炉停止のための制御棒の挿入をしたのです。(ただし、これについて東京電力は今回の地震では制御棒挿入の遅れによる被害はないと主張しています。)

さらに、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による大津波で福島第一原発の安全上重要な設備に重大な損傷が発生した後も、原子炉の再使用の容易さを優先し、中性子を吸収し核分裂連鎖反応を抑えるホウ酸の注入を速やかにせず津波到達後に核分裂連鎖反応発生させ被害を拡大させたのです。

しかも、免責されるとの期待から原子炉建屋爆発後に事故拡大を防止せず撤退を画策したのです。これは、撤退して被害拡大させても拡大した被害についても免責されると考えたからだと推測されます。(ただし、菅首相に一喝され実際には撤退していません。)

尚、使用済み核燃料プールが原子炉建屋上部にある構造の危険性は以前から指摘されてました。使用済み核燃料プールを原子炉建屋上部に造ったのは異常に巨大な天災地変」による免責を前提にした経済的理由を安全対策に優先させた結果ですが、異常に巨大な天災地変」による免責が法定されてなければ大地震発生時に重大事故を引き起こし巨額の損害賠償の原因となるような設計はなされなかったはずです。そして、使用済み核燃料プールを原子炉建屋上部に設置した構造が今回の福島第一原発事故の被害を拡大させているのです。


文部科学省幹部の「異常に巨大な天災地変」とは「隕石の落下」発言の大嘘

尚、上記の原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの条文での「異常に巨大な天災地変」について、政府は「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」とは「隕石(いんせき)の落下や戦争などを想定したもの」(文部科学省幹部)として、政府は2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震後に起きた福島第一原発の事故への原子力損害賠償法の免責規定の適用について否定的見解を表明しています(注1)

ところが、原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの条文が「天災又は社会的動乱」とはなっておらず、天災地変又は社会的動乱」となっており、わざわざ「地変」という語句を付け加えている事から、第三条第一項但し書きの「異常に巨大な天災地変」には巨大地震が含まれるのは字義の上から明白です。「異常に巨大な天災地変」とは「隕石(いんせき)の落下や戦争などを想定したもの」(文部科学省幹部)(注1)という発言は真相隠しのためのその場しのぎの大嘘です。(goo辞書の「地変」には[火山の噴火や地震、土地の陥没や隆起など、地上に起こる変異。地異。「天災―」]とあります。)文部科学省幹部がわざわざ天災地変」となっている意味を知らないはずはありません。だまされてはいけません。  文部科学省は地震後に核分裂連鎖反応が起きていた証拠となるキセノン133のデータを隠そうとしていたのです。彼らは、油断させといて、後でドンデン返しをするつもりなのです。

また、枝野官房長官は福島第1原発の事故を巡る東京電力の損害賠償責任について「安易に免責の措置が取られることは、この(事故の)経緯と社会状況からあり得ないと、個人的な見解として思っている」(注2)と、あたかも部外者であるかのごとき内容を社会的状況のようなあいまいな基準まで持ち出して個人的見解として公の記者会見で述べています。「社会状況」というのは国民・納税者が東京電力に対して憤っている状況等を指すのだと思いますが、要するに、ほとぼりが冷めたら社会状況の変化として免責の容認もありうるという主張につながる布石でしょう。訴訟になれば政府・国は当事者として東京電力の免責を不可とすべきと国民・納税者を代表して確固たる主張として述べる義務があるにもかかわらず、楽観的観測を部外者のごとく無責任に述べているのです。彼が官房長官でなく弁護士として法律相談を受ければ、そのような無責任な楽観的発言はしないでしょう。尚、弁護士である枝野官房長官の発言は訴訟の実際において、被害者側の訴訟代理人・弁護士にとっては損害賠償が東京電力から支払われようが国(要するに増税)から支払われようが職務上問題とならない点を熟知した上での発言と思われます。

枝野官房長官や上述の文部科学省幹部の発言は、その場しのぎの世論対策のうわべだけの強硬発言にすぎず、東京電力が大津波後に福島第一原発の原発施設に重大な損傷が生じたのに免責規定を奇貨として最善の防災対策をせず被害を拡大させた真相の解明を回避し、後日に東京電力を有利にさせる計略の疑いが濃厚です。後日の訴訟で通用しない口先だけの強硬発言をして国民を安心させ、政府・民主党は原発推進してきた自民党と結託して特別立法し、「当面の肩代わり」として原発事故被害者に数兆円支払い、結局は、東京電力が数十年かけても裁判で決着をつける方針をちらつかせ、数年後に原子力損害賠償紛争審査会が東京電力に甘い和解案を示して決着し、数兆円の損害賠償の大部分が国の負担として増税で賄われる結果になる公算が高いと私は危惧します。(ただし、出荷停止・出漁禁止・作付け禁止させた農産物・水産物の対価については出荷停止の実効性を確保するため「当面の肩代わり」もやむをえないと考えます。)政府の強硬発言は、その場しのぎに納税者をごまかす方便にすぎないのです。強硬に見えても実は世論を納得させ政府による「当面の肩代わり」を容易にする東京電力に甘い茶番劇・狂言の可能性が高いと私は推測しています。日本人は政治的な事柄に関しては物忘れが激しいので数年後に原子力損害賠償紛争審査会が東京電力に甘い和解案で決着させても大きな問題にならないからです。また、訴訟になっても法的に国民・納税者を代表して東京電力の免責阻止をするのは政府・国であるため、元々、東京電力と共に原発推進してきた政府・国は国民・納税者の監視が緩まれば馴れ合い訴訟で手抜きをする危険があります。

政府は福島第一原発事故について、原子力損害賠償法であらかじめ予定されている「賠償措置額」の1200億円を超える支出をする場合、原発推進政策継続のために、東京電力が倒産も国有化もされないうちに福島第一原発周辺の福島県民だけを津波で壊滅的被害を受けた岩手県民や宮城県民より優遇したり、地震と無関係の他の公害被害者より優遇したりすべきではありません。(ただし、出荷停止・出漁禁止・作付け禁止させた農産物・水産物の対価については出荷停止の実効性を確保するため「当面の肩代わり」もやむをえないと考えます。)福島第一原発周辺の住民の大半はたとえ消極的にせよ、また、政府と東京電力の原発安全広報にたとえ騙されたにしても、原発建設を容認したり、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)発生以前に福島第一原発に関連して何らかの経済的便益を受けている者が相当数いるからです。東京電力が倒産も国有化もされずに不当に免責された場合、政府が福島第一原発事故について原子力損害賠償法であらかじめ予定されている「賠償措置額」の1200億円を超える支出をすれば、増税として納税者の負担となるのみならず、岩手県・宮城県の被災者支援や復興支援が手薄になるという不公平な結果をもたらすでしょう。福島第一原発事故被害者は安易に国から賠償を受けずに、東京電力が免責されないように監視して東京電力から満額の損害賠償を勝ち取っていただきたいです。

 

注意東京電力の免責の可否の法的考察については、別記事 [ 福島第一原発事故で東京電力が免責されるか? ] 参照。(注意4月19日に、別記事として分離しました。)


免責規定悪用によって被害拡大させた分は免責されない

しかし、東北地方太平洋沖地震直後に東京電力が防災を最優先にして対策をすれば、放射性物質の放出・流出が少なくて済んだ事から「異常に巨大な天災地変」が起きた事をもってただちに免責とするのは不合理なのです。

問題は、東京電力が原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きによる免責を期待して防災より自社の経済的便益を優先させたために被害を増大させたのです。法的には、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きは不可抗力を明示していないので単に「異常に巨大な天災地変」が起きれば即免責されるのか、それとも「異常に巨大な天災地変」によってだけでなく重過失によって被害を拡大させ場合には不可抗力では無いので免責されないのかが問題となるでしょう。経済的には巨額の損害賠償を税金で負担するのか東京電力の株主が負担するのかの問題になります。東京電力が原子力損害賠償法・第三条の免責規定を奇貨として防災より原子炉の再使用の容易性を優先(注3)させ、被害を大幅に拡大させたなら免責されないと解釈すべきです。

最大の問題は事実認定です。東北地方太平洋沖地震発生当日の2011年3月11日に各原子炉に中性子を吸収し核分裂連鎖反応を抑えるホウ酸を注入しなかった(注3)事によって核分裂連鎖反応停止が遅れ発熱大幅増加を招いたか否かです。免責規定がなければ巨額の損害賠償を恐れ、安全最優先で大地震と大津波で安全上重要な設備に重大な損傷が生じればすぐにホウ酸を注入したはずです。ところがホウ酸注入が遅れたのです。そのホウ酸注入の遅れが被害増大したかの事実認定がポイントなのです。

私は3号炉について3月13日・14日に核分裂連鎖反応が起きた事を別記事[3月14日爆発時放出キセノン133は前日の弁開放後の連鎖反応で生成]で示しました。それによって、3月14日に起きた3号機建屋爆発で大気中に放出された放射性物質によって引き起こされた被害については東京電力が損害賠償責任を負うべきでしょう。

しかし、重大な漁業被害を引き起こすであろう海水への放射能汚染水流出の最大の原因が2号機の損傷と現時点では推定される事から、2号炉で核分裂連鎖反応が起きて損傷を引き起こしたか否かの事実確認が重要になります。私は2号炉でも核分裂連鎖反応が起きた可能性があると考えていますので、私は政府に対し確実な証拠を得るために福島第一原発2号機タービン建屋地下で核分裂連鎖反応で生成される気体のキセノン133の放射能濃度測定を早急に実施する事を強く要求します。(また、ついでに福島第一原発1号機タービン建屋地下でもキセノン133の放射能濃度測定を早急に実施する事を要求します。) ちなみに、私は4月11日に東京電力に福島第一原発1号機・2号機タービン建屋地下の床付近のキセノン133の放射能濃度を早急に測定・公表する事を要求しましたが、東京電力はそれに難色を示しています。

また、使用済み核燃料プールを原子炉建屋上部に造ったのは異常に巨大な天災地変」による免責を前提にした経済的理由を安全対策に優先させた結果ですが、異常に巨大な天災地変」による免責が法定されてなければ大地震発生時に重大事故を引き起こし巨額の損害賠償の原因となるような設計はなされなかったはずです。よって、たとえ国の審査で長年にわたって許容されていたとしても国の審査は最低基準である事を考慮すれば、使用済み核燃料プールを原子炉建屋上部に造った事による被害拡大も免責の対象とはなりえないでしょう。

さらに、国際原子力機関(IAEA)元事務次長でスイスの原子力工学専門家であるブルーノ・ペロード氏から電源と水源の多様化や水素爆発防止対策等をとるようにアドバイスされたのに、その忠告を無視して東京電力は対策をしなかったため今回のような重大事故を招いており 、ブルーノ・ペロード氏の弁によれば犯罪的人災(注14-1)(注14-2)との事だそうです。これは東京電力が、原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きによる免責規定を奇貨として防災より対策費節減したのが原因と思われます。

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尚、東京電力の免責の可否の法的考察については、別記事 [ 福島第一原発事故で東京電力が免責されるか? ] 参照。(注意4月19日に、別記事として分離しました。)


天災地変免責規定の危険性

尚、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定が上記の被害拡大を招いただけでなく、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定を奇貨として、東京電力は福島原発の被害拡大防止対策をせずに作業員全員の撤退(注4) をしようとして、たまたま大学時代に応用物理を専攻し「僕はものすごく原子力(分野)は強いんだ」と自負する菅首相(注5)に「撤退したときは東電は100%潰れる」(注6)と免責規定不適用を以って脅され撤退を思い止まり被害拡大防止対策をしたのです。被害拡大防止せず放置撤退しても免責されたなら撤退していたのです。

この撤退の画策も、東京電力が異常に巨大な天災地変発生なら即免責されると考えたのが原因でしょう。撤退して被害拡大させても拡大した被害についても免責されると考えたからだと推測されます。

危険を伴う作業を社員や協力企業社員にさせれば短時間の作業に対して人件費を大幅に割り増しせねばならず、死傷したり後遺障害が出れば高額の補償せねばならないからです。(外部の住民に対しては免責されても内部の従業員等に対しては免責されないとの計算が働いたものと思われます。)もし、東北地方太平洋沖地震が起きた3月11日以前に支持率低迷していた菅首相が辞めていて後任の首相が原子力に疎ければ東京電力に丸め込まれていたと思うと空恐ろしい事です。

今回の福島第一原発事故で原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの天災免責規定がいかに危険で廃止すべき規定かという事が明らかになったのです。

ちなみに、福島第一原発担当の原子力安全保安院の検査官7人全員は福島第一原発事故後に福島第一原発から約60km離れた福島市まで実際に避難していたそうです。原発の専門家は原発事故の危険性を認識しているので「敵前逃亡」するのでしょう。


外洋に面したタービン建屋地下に非常用発電機を設置した事について

東京電力は、今回の福島第一原発の事故は、東北地方太平洋沖地震によって生じた大津波によってタービン建屋が浸水し、タービン建屋にあった非常用発電機が使用不能になった事が原因と主張しています。

しかし、非常用発電機はタービン建屋の地下にあり、海に面した建物の地下に原発の安全上重要な機器を設置したのは過失です。特に、たとえ瞬間的に標高15mまで浸水したとしても、(標準的構造の検潮所が原発用の港の岸壁の中央付近の原発敷地内に存在し機能していたと仮定した場合の)津波の潮位が周囲の地面の標高10mより低かった場合、重大な過失です。なぜなら、そのように浸水しやすい構造なら、大津波より発生頻度がはるかに高い大型台風の直撃を大潮満潮時に受けても浸水した可能性があるからです。ちなみに、原発の安全対策上重要な非常用発電機を外洋に面した建屋の地下に置くという日本ではシロウトですら気付く欠陥設計は、原発プラントをアメリカ企業から導入したため、大津波がなく巨大竜巻が発生する北米大陸中部以東の地域を念頭に置いた設計が原因だったそうです(注13)

しかも、産業技術総合研究所の活断層・地震研究センターの岡村行信センター長が福島第一原発の想定津波の見直しを迫ったが聞き入れられなかった事実(注7)や現行の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」で「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」が求められている事も考え合わせると極めて重大な過失です。

重過失が存在する場合には天災地変による免責は適用されないと考えるべきです。


事前の過失について

尚、原子力損害賠償法第三条第一項本文が過失の有無にかかわらず責任を規定している事から、原子力災害の場合には通常の災害の過失責任より重い無過失責任を要求しているため、上記のような原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定を奇貨として悪用し事後的に被害を拡大させた場合のみならず、事前の過失によって被害を発生させていない事が要求されるでしょう。

まず、東京電力は事前に耐震対策が不十分である事を知りながら、東京電力が他の電力各社と共同で設立した電力中央研究所の研究員・井上大栄が不正な論文を発表(注8)した事により、東京電力が低い耐震性を正当化して耐震性が低いまま操業し、それが原因で大津波被害だけの場合に比べてより大きな被害を発生させた疑いがあるのです。東京電力は地震後に発生した大津波による電源喪失が事故の原因のすべてであるかのごとく公表していますが、実は地震発生時の地震動によって大津波到達以前に1号機の配管が破損(注9)しており、それによって1号機の冷却水の水位が低下(注10)し、電源喪失のみの場合より大きな被害を発生させた疑いがあります。

また、大津波が想定外だったと東京電力は主張していますが、産業技術総合研究所の活断層・地震研究センターの岡村行信センター長が福島第一原発の想定津波の見直しを迫ったが聞き入れられなかった事実(注7)があり、もし仮に、この事実が過失と認定され事故の被害との因果関係が認定されれば東京電力は全面的な損害賠償責任を負うでしょう。

尚、3号炉について3月13日・14日に核分裂連鎖反応が起きた原因の特定は困難ですが、もし仮に原因が制御棒不完全挿入だとすれば、安全最優先なら緊急地震速報を利用して地震波到達前に原子炉停止させるべきところ誤報で停止させると経済的損失発生するので利用せず、福島第一原発敷地内の地震計で地震波到達を感知してから停止させていた事も東京電力が原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの免責規定を奇貨として防災より自社の経済的便益を優先させたために被害を増大させた事になります。


関連学会・原子力安全委員会委員への不正な働きかけの有無の調査の必要性

まず、東京電力によれば今回の福島第一原発事故は東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による想定外の大津波が原因とし、土木学会の指針に基づいて対策していたと主張していますが、この土木学会指針とは、環境エネルギー政策研究所 客員研究員・田中信一郎博士によれば、土木学会原子力土木委員会津波評価部会が2001年に取りまとめた報告書「原子力発電所の津波評価技術」であって、実は、その土木学会原子力土木委員会は電力業界関係者等が委員・幹事の大半を占めていた(注11)(注12)のです。かくも露骨な委員・幹事構成をしたのは、中立な委員が過半数を占めると既存の原発が将来発生する可能性のある大津波に耐えれないとの結論が出された場合に既存の原発を廃棄するか巨額の大津波対策工事をせねばならない事を危惧し、既存の原発でも津波に耐えうるとの結論が先にあったからと思われます。すなわち、大津波が「想定外」だったのではなく、電力業界が既存の原発が耐えれない大津波の発生を予見していたからこそ電力業界関係者等が委員・幹事の大半を占めるような露骨な委員・幹事構成をしたのでしょう。

また、電力中央研究所の研究員・井上大栄の不正な論文発表(注8)に関して東京電力の関与の有無の調査をすべきです。また、関連学会関係者や原子力安全委員会委員に何らかの不正な働きかけをしていなかったかの調査もすべきです。なぜならば、私が地学関連分野で知る範囲だけでも原子力安全委員会が制定した現行の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」にはマグニチュード7の原発直下地震対策が盛り込まれず、原発基礎岩盤に伝わる地震波到達のタイムラグによる(すなわち位相差による)基礎岩盤内での変位の差を考慮し冷却系・制御系も含めた全体としてのシミュレーションまで要求されておらず、さらには以前の昭和56年制定の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」にあった原発の重要な建物・構築物は岩盤に支持させなければならないという規定の消滅という条件緩和の改悪まであったからです。

東京電力等の電力各社は、地震が原因での原発事故では、土木学会の指針である「原子力発電所の津波評価技術」や原子力安全委員会の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の条件さえ満たせば、原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの条文での「異常に巨大な天災地変」としての免責が受けれると考えていた疑いがあり、土木学会の指針である「原子力発電所の津波評価技術」や原子力安全委員会の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の条件の緩和に関与したか否か調査すべきです。


東京電力が天災免責規定援用と権利の濫用

東京電力は、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定の存在に安心して、防災より自社の経済的便益を優先しており、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定援用するのは権利の濫用として許されない可能性があります。すなわち、免責規定悪用によって被害拡大させ部分のみだけでなく、不可抗力部分も免責されないとする考え方もありうるでしょう。

 

注意東京電力の免責の可否の法的考察については、別記事 [ 福島第一原発事故で東京電力が免責されるか? ] 参照。(注意4月19日に、別記事として分離しました。)


2011年6月14日 (2011年4月10日当初版)

別記事 [ 福島第一原発事故で東京電力が免責されるか? ] (注意4月19日に、別記事として分離しました。)

目次

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp


御意見はメールもしくは、外部リンクの★阿修羅♪掲示板における私の投稿記事[原子力損害賠償法・第三条の天災免責規定が被害大幅増大させた疑い] でコメントしてください。


(注1) 下記の毎日新聞社HP記事参照。

http://mainichi.jp/select/biz/news/20110324ddm008040086000c.html

>「異常に巨大な天災や社会的動乱」が原因の場合は、例外規定として電力会社の代わりに国が賠償するが、

>政府は「隕石(いんせき)の落下や戦争などを想定したもの」(文部科学省幹部)と例外規定は適用しない方針。

 

(注2) 下記の毎日新聞社HP記事参照。

http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110326k0000m020051000c.html

> 枝野幸男官房長官は25日の記者会見で、福島第1原発の事故を巡る東京電力の損害賠償責任について

>「安易に免責の措置が取られることは、この(事故の)経緯と社会状況からあり得ないと、個人的な見解として思っている」と述べ、

>原子力損害賠償法に定められた免責措置を東電に適用することには慎重な姿勢を示した。

 

(注3) 中性子を吸収するホウ酸注入すると核分裂連鎖反応を抑えれますが、その後、(あのように原子炉が壊れなければ)原子炉を再使用するには中性子を吸収するホウ酸を原子炉から完全に除去しないと発電効率が落ちるので、原子炉へ早期のホウ酸注入をしなかったものと推定されます。

 

(注4) 下記の読売新聞ニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110317-OYT1T00148.htm

>14日夜、東電の清水正孝社長と枝野官房長官、海江田氏が電話で連絡を取り合った。

>政府側は「燃料棒露出を受け、東電側が作業員全員の撤退を申し出てきた」としている。

 

(注5) 下記の朝日新聞HPニュース記事参照。

http://www.asahi.com/politics/update/0316/TKY201103160463.html

>首相「僕はすごく原子力に強い」 内閣特別顧問に語る

 

(注6) 下記の読売新聞ニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110315-OYT1T00273.htm

>首相は、「(原発対応は)あなたたちしかいないでしょう。(原発からの)撤退などあり得ない。覚悟を決めてください。

>撤退したときは東電は100%潰れる」とまくし立てた。首相の叱責する声は、会議室の外まで響き渡った。

 

(注7) 下記の読売新聞HPニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110330-OYT1T00133.htm

>福島第一原発を襲った今回の津波について、東京電力は「想定外」(清水正孝社長)としているが、

>研究者は2009年、同原発の想定津波の高さについて貞観津波の高さを反映して見直すよう迫っていた。

>しかし、東電と原子力安全・保安院は見直しを先送りした。

>・・・・・(中略)・・・・・

>貞観津波クラスが、450〜800年間隔で起きていた可能性がある。

>産総研活断層・地震研究センターの岡村行信センター長は同原発の想定津波の見直しを迫ったが、聞き入れられなかったという。

 

(注8) 私のホームページ記事[原子力発電を支持する電力中央研究所論文のウソ]参照。尚、私は当該記事の存在を電力中央研究所に通告し、地球惑星科学2006年連合大会で指摘の発表をしており、東京電力は知っていた可能性が高く、仮に知らなかったと仮定しても知らなかった事は業務上の過失と認定されるべきです。

 

(注9) 下記の読売新聞HPニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110316-OYT1T00550.htm

 

(注10) 下記の4月8日NHKニュース記事参照。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110408/t10015172911000.html

>NHKが入手した資料には、地震当日の先月11日に福島第一原発の1号機から3号機で測定された原子炉の「水の高さ」や

>「圧力」などの値が示されていますが、東京電力などは、これまで地震の翌日以降の値しか公表してきませんでした。

>資料によりますと、1号機では、地震発生から7時間近くたった午後9時半に、原子炉の中で核燃料が露出するまでの水の高さが

>残り45センチとなり、通常の10分の1程度に減っていたことが分かりました。

>1号機から3号機では、地震と津波によってすべての電源が失われ、2号機と3号機では非常用の装置で原子炉を冷やし、

>水の高さが4メートル前後に維持されていました。

>これに対し1号機では、地震当日の夜までに、すでに安全のために最も大切な「冷やす機能」を十分に保てなかったことになります。

>また核燃料が水から露出するまで、2号機と3号機では、地震から1日半から3日程度かかっているのに対し、

>1号機では18時間ほどしかありませんでした。

 

(注11) 下記の環境エネルギー政策研究所HPにある田中信一郎博士(環境エネルギー政策研究所 客員研究員)の論考参照。

[「未曾有の津波」は東京電力を免責するのか―土木学会指針と電力業界の関係― ]

http://www.isep.or.jp/images/press/report_0322.pdf

 

(注12) 「原子力発電所の津波評価技術」(2002)作成時の土木学会原子力土木委員会構成については、下記の土木学会HPの資料参照

[ 「原子力発電所の津波評価技術」(2002)・巻頭言他 ]

http://committees.jsce.or.jp/ceofnp/system/files/TA-MENU-J-00.pdf

 

(注13) 下記の朝日新聞HPのニュース記事参照。

http://www.asahi.com/national/update/0611/TKY201106110146.html

 

(注14-1) 下記の産経新聞HPニュース記事参照。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/110611/erp11061120230007-n1.htm

>「東電の不作為は犯罪的」IAEA元事務次長

 

(注14-2) 下記の産経新聞HPニュース記事参照。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/110611/erp11061120200006-n1.htm

>IAEA元事務次長「防止策、東電20年間放置 人災だ」