2005年10月8日時点では、沖ノ鳥島に排他的経済水域なし

2005年10月8日時点では沖ノ鳥島沖に関して「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」は国際法違反である。

 

1. 国連海洋法条約における「岩」とは?

国連海洋法条約・第121条3項(注1)によれば、「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。」のである。 しかし、国連海洋法条約は何をもって「岩」とするかの定義を与えていない。そこで、通常の用語で規定されたと考えるべきである。だとすれば、高潮時に海面上にある陸地と連続する平均海水面以上の海抜の定まった場所に恒常的に砂泥等の土砂が堆積せず高潮時に海面上に存在する陸地が岩ならば、国連海洋法条約・第121条3項の「岩」と考えるべきである。(尚、平均海水面以上の海抜の定まった場所に恒常的に砂泥等の土砂が堆積する「島」でも小さい「島」は「岩」と考える国際法学者がいるが大きさの基準が定まっていない。)

2. 東京都小笠原村の「沖ノ鳥島」は単一の「島」でなく、北小島と東小島の2個の「島」からなる。

「沖ノ鳥島」という名称から「沖ノ鳥島環礁」全体が「島」だと誤解している日本人が多いと思われるが、「沖ノ鳥島環礁」全体が「島」ではない(注2)。現在、東西約4500m南北約1700mの沖ノ鳥島環礁において自然に形成された陸地で高潮時に海面上にあるのは北小島(登記簿上の面積・7.86平方メートル)と名づけられた岩でできた「島」と東小島(登記簿上の面積・1.58平方メートル)名づけられた岩でできた「島」の二つの岩だけである(注3)。それらは平均海水面上の恒常的な陸地では連続していない。(実際、国土地理院HPの2万5千分の1地形図「沖ノ鳥島」には「干潟」すら存在しない。)よって、北小島と東小島は別個の「島」である(国連海洋法条約・第121条1項参照)(注1)。すなわち、「沖ノ鳥島環礁」全体は「島」ではない。

尚、現在においても北小島と東小島とは連続はしていないものの沖ノ鳥島環礁では低潮時に北小島と東小島以外に海面に露出し「低潮高地」(注4)となる岩がある(注3)

「沖ノ鳥島」が単一の「島」でない事は排他的経済水域の有無を考察する上で極めて重要な事である。「沖ノ鳥島」に排他的経済水域が存在すると主張する者の多くは「沖ノ鳥島」を東西約4500m南北約1700mの沖ノ鳥島環礁からなる単一の島と考え誤解していると思われる。しかし、もし仮に沖ノ鳥島環礁の大部分が低潮時に海面に露出する(注5)としても、それは国連海洋法条約上の「島」である北小島とも東小島とも平均海面上の陸地で連続していないので環礁の外海側(注6)の低潮線が領海の基線(注7)にはなりえても、平均海面より下の環礁が一体として「島」にはなりえないのである。

3. 北小島と東小島のいずれも国連海洋法条約・第121条3項の「岩」である。

北小島と東小島という別個の2つの「島」からなる。それらは、現在は、それぞれ波浪等による侵食・倒壊防止のため特殊な形状のコンクリートの人工島で周囲を囲まれている(注7)が、そのコンクリートの防護用人工島が造られる以前には北小島と東小島のいずれもが平均海面上で恒常的な土砂による陸地とは連続していなかった。そして、現在は、それぞれ波浪等による侵食・倒壊防止のため特殊な形状のコンクリートの人工島で周囲を囲まれているので自然状態の平均海面上にある恒常的な土砂による陸地とは連続できなくなっている。よって、北小島と東小島のいずれも上記1における基準を適用すれば国連海洋法条約・第121条3項の「岩」である。(尚、「岩」か否かを大きさを基準に分類する方法によっても沖ノ鳥島環礁の北小島・東小島は非常に小さいので「岩」である。)

また、沖ノ鳥島環礁には高潮時でも海面上に露出している東小島と北小島はそれぞれ岩の本体を波浪から護るため特殊なコンクリート防護壁の人工島(注8)で周囲が囲われている。そして、それ以外に昔、観測所を造ろうとして基盤のみ造って未完成で放置されている「観測所基盤」という人工島と、環礁内の低潮時にも海面下にある海底の上に建てられた高床式の居住可能と思われる「観測施設」がある。しかし、観測施設は海上に建てられてるのでたとえ居住者がいても海上なので沖ノ鳥島に居住者がいる事にはならない。また、2005年10月8日時点では、その高床式の観測施設は無人だった(注9)。もちろん、北小島と東小島の岩の本体上には人間が居住できないのは明白である。

4. 無人で独自の経済的生活を維持することのできない岩である北小島や東小島には排他的経済水域は認められない。

日本の海上保安庁は2005年10月8日、沖ノ鳥島沖12海里外200海里内(注10)において「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律(漁業主権法)」(注11)違反容疑で台湾漁船を拿捕した。そこで根拠となったのは日本の全ての島に例外なく一律に排他的経済水域を設定している日本の「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」(注12)である。

しかし、国連海洋法条約・第121条3項(注1)は、「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。 」としており、2005年10月8日時点で無人で独自の経済的生活を維持する事ができないのが明白な沖ノ鳥島には国際法上、排他的経済水域の設定が認められない。つまり、日本は国連海洋法条約に違反して沖ノ鳥島沖に違法な排他的経済水域を設定し、それを根拠に台湾漁船を拿捕したのである。台北政府は国連から追放されているため国連海洋法条約を締結できないでいるが台北政府が日本と同様に「無人で独自の経済的生活の維持できない岩」に排他的経済水域を設定していない限り(注13)台湾漁船の拿捕は不当・違法である。

尚、日本人の国際法学者の中には排他的経済水域の設定が無理でも慣習法の200海里漁業水域の設定は可能だとの説(芹田健太郎著・有信高文堂・「島の領有と経済水域の確定」p.241参照)というのもあるが、そもそも200海里漁業水域は慣習法として確定する以前に排他的経済水域の概念に吸収されたのであり、実際、日本も暫定的に制定した「漁業水域に関する暫定措置法」を国連海洋条約の発効にともなって廃止し、「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」を発効させたのである。また、漁業水域に関する暫定措置法」は廃止されてるので200海里漁業水域を根拠に台湾漁船の拿捕はできない。

日本政府は沖ノ鳥島に排他的経済水域を確保するため、灯台の建設を予定し「独自の経済的生活を維持」していると主張する準備をしている。しかし、その場合でも問題点が二つある。まず、第一に、灯台を高床式の観測施設上に建設する予定だそうだが、その高床式の観測施設は低潮時でも海面下にある場所に建っており「低潮高地」ですらない。つまり、いくら灯台を造っても海上に造ったのでは独自の経済的生活を維持できる島とは認めがたいのである(注14)。さらに、灯台だけでは「独自の経済的生活を維持」しているとは言いがたい。しかし、灯台建設後も長期にわたって日本の拿捕に抗議する国がなければ慣習法に依存する面が大きい国際法では国連海洋法条約の「島」の範囲の解釈が将来において環礁全体に変更される可能性がないとまでは断言できない。もし、国連海洋法条約の解釈が将来において変更され、低潮時においても全体が海面上に出ない環礁の全体にまで「島」の範囲が認められれば、環礁内に灯台と共に暴風時の漁船用退避施設(注15)も合わせて造れば「独自の経済的生活を維持」しているとの主張が将来においては国際法廷においても認められるかもしれないし、常勤職員の宿舎付きの海洋研究所を造れば人が居住していると認められるかもしれない(注16)。しかし、それは将来の話であって、2005年10月8日時点での沖ノ鳥島12海里外200海里内での台湾漁船拿捕は明白に国連海洋法条約・第121条3項に違反した不当な拿捕であったのは明白である。


(注1) 海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)

第121条 (島の制度)

1 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。

2 3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。

3 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。

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尚、下記の国連HPに海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)の英文がある。

http://www.un.org/Depts/los/convention_agreements/texts/unclos/closindx.htm

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(注2) 国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所・HP [防護コンクリート建造直前の北小島と東小島の本体の写真有り]

http://www.keihin.ktr.mlit.go.jp/okinotori_island/

(すてら氏)沖ノ鳥島写真館HP [2001年時点の沖ノ鳥島環礁の写真があるが北小島と東小島の本体は防護コンクリートに隠れて見えない]

http://homepage2.nifty.com/shot/okinotori.htm

(ND氏)沖ノ鳥島写真集HP [海図と2001年時点の沖ノ鳥島環礁の写真と防護コンクリート内の「島」本体の写真有り]

http://www.kikanbu.com/album/okitori/okitori.php

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(注3) 沖ノ鳥島を維持管理する国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所に電話で問い合わせたところ、低潮時には北小島と東小島以外に海面に露出する岩もある旨の回答を得た。

尚、下記の(長谷川亮一氏)沖ノ鳥島の謎・【資料集】1930年代の沖ノ鳥島と観測所工事HPに引用されている20世紀前半の沖ノ鳥島環礁の写真を見ると、海面水位が低かった20世紀前半には、低潮時の環礁内に非常に多くの(サンゴと思われる)露出岩があったようである。(ただし、下から2番目の観測所の基礎工事の様子の写真の砂地は観測所基盤の人工島建設のための人工の砂地の可能性が高いと思われる。)しかし、2005年時点では海面上昇のため低潮時でも海面上表われる露出岩は20世紀前半よりはるかに減っていると思われる。

http://homepage3.nifty.com/boumurou/island/sp01/observatory.html

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(注4) 国連海洋法条約・第13条 (低潮高地)

1 低潮高地とは、自転に形成された陸地であって、低潮時には水に囲まれ水面上にあるが、高潮時には水中に没するものをいう。低潮高地の全部又は一部が本土又は島から領海の幅を超えない距離にあるときは、その低潮線は、領海の幅を測定するための基線として用いることができる。

2 低潮高地は、その全部が本土又は島から領海の幅を超える距離にあるときは、それ自体の領海を有しない。

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(注5) 下記の 財団法人 日本水路協会HP・「かいず〜WEB」の「沖ノ鳥島」の海図のサンプル画像からすれば、沖ノ鳥島環礁は低潮時に海面上に露出する低潮高地(注3)を形成するように描かれているようである。しかし、現在の本当に沖ノ鳥島環礁は低潮時に海面上に露出する低潮高地になるのか疑問がある。海図なので船の航行の安全を第一として座礁の危険性を考えて、海面水位の低かった20世紀前半の資料を基礎にしている可能性がある。

尚、領海の範囲を決定する基線は、沿岸国である日本公認の海図が(虚偽だと立証されない限り)根拠資料(注6)となる。

http://www.jha.jp/sample/w49.jpg

http://www.jha.jp/doc/use/yomikata03.html#01

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(注6) 国連海洋法条約・第6条 (礁)

環礁の上に所在する島又は裾礁を有する島については、領海の幅を測定するための基線は、沿岸国が公認する海図上に適当な記号で示される礁の海側の低潮線とする。

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(注7) かつて「箱入り娘」という言葉があったが、沖ノ鳥島環礁の北小島と東小島はそれぞれ周囲を防護コンクリートの人工島で囲まれ、チタン製の防護格子で上を覆われているので、「箱入り島」とも言うべき印象がする。高潮時の海面が現在より20cm(注17)上昇するだけで、高潮時には水没し現在の国連海洋法条約では「島」でなくなる。(ただし、将来、国連海洋法条約が海面上昇に対する救済のための改正がされる可能性もある。)面積も北小島・東小島合わせて3坪に満たない。一般人の島のイメージとは程遠い「島」である。これで半径200海里の経済水域を主張して台湾漁船を拿捕した日本政府にはあきれるばかりである。

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(注8) 人工島は国連海洋法条約の「島」ではない。(国連海洋法条約・第60条8項、第121条1項参照)

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(注9) 国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所に電話で2005年10月8日時点で無人だった事を確認。しかし、仮に高床式の観測施設内に居住者がいたと仮定し、さらに「島」の範囲を「低潮高地」(注4)まで含むとする無理な解釈をしても、高床式の観測施設は低潮時においても海面下にある海底の上すなわち純然たる海上に建設されているため、沖ノ鳥島は無人島である。

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(注10) 海上保安庁に電話で問い合わせたところ、実際には沖ノ鳥島北方約240km(すなわち約130海里)沖合いで拿捕した旨の回答を得た。

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(注11) 総務省・法令データ提供システムHP・排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H08/H08HO076.html

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(注12) 総務省・法令データ提供システムHP・排他的経済水域及び大陸棚に関する法律

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H08/H08HO074.html

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(注13) 万が一、仮に台北政府も日本と同様に無人で独自の経済生活を維持できない「岩」に排他的経済水域を設定しているならば、相互主義の観点から日本の台湾漁船拿捕の違法性は阻却される。 

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(注14) 本来は、北小島もしくは東小島の平均海水面以上の部分の上に設置せねばならないが、「島」の範囲を無理に拡大解釈して沖ノ鳥島環礁の低潮高地まで含むとしても灯台建設を予定する観測施設は低潮時にも海面下にある海底上に建っているので「沖ノ鳥島」が独自の経済的生活を維持できるとは言いがたい。

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(注15) 環礁内に漁船退避施設を造るというのは環礁に水路の出入り口を確保せねばならない。しかし、旧日本軍が水路の出入り口を造った事が原因で外海の潮の干満によって環礁内に潮流を生み出し環礁内の砂が外海に流出した疑いがある。それゆえ、環礁内に漁船用退避施設を造る場合には砂流出防止のため漁船用退避水域と他の環礁内部の水域を隔てる堤防も必要になる。しかも、国際法廷で立場を少しでも有利にするには漁船用退避水域はコンクリート堤防だけでなく環礁も利用せねばならない。しかし、それには巨額の建設費が必要であり、そのような工事をしても国際法廷で排他的経済水域が認められる可能性は低い。さらに、採算を度外視してそのような大規模工事をすれば余計に「独自の経済的生活の維持」から離れるとの批判も受ける可能性もある。

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(注16) 海面上昇が続いて、かつ、海面上昇に対する救済のための国連海洋法条約の改正が無人の「岩」でしかない沖ノ鳥島についても適用可能な形でなされなければ、今世紀中に沖ノ鳥島の北小島・東小島のいずれもが高潮時に水没する可能性が高いため国連海洋法条約での「島」でなくなり、200海里排他的経済水域どころか12海里領海すらも認められなくなる。そのため、巨額の投資が無意味になる可能性が高い。

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(注17)

 下記の日本財団HP(文章は共同通信社 京極恒太氏)参照。

http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2004/00004/contents/0025.htm

護岸に上陸し「東小島」を真下からのぞき込む。満潮時に数cm、もうの一つ「北小島」は10数cm、海面に出る程度だ。

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2005年10月23日 (当初版・2005年10月20日)

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

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