[注意]:この記事は東日本大震災に伴う福島第一原発事故以前の2006年に日本地球惑星科学連合大会での[発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(昭和56年原子力安全委員会決定)の欠陥](日本地球惑星科学連合HP予稿S107-P029参照)のポスター発表に際して解説として書いた記事です。(2012年5月14日)
尚、2006年当時、2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)掲示板に私が建てたスレ [【原発大震災】誰が放射能封じ込め工事するのだ?] 参照。(2018年2月12日追記)
震災原発事故での放射能封じ込め工事の困難性も考慮すべき
日本の商用原子力発電所の軽水炉はチェルノブイリ原発の黒鉛炉と異なり、暴走事故が起きにくいと言われている。たしかに、濃縮度4%以下(注1)のウラン燃料の場合には大地震で冷却水流出事故が起きても(重大なミスや重大な欠陥が重ならない限り)全面的な暴走事故にはならないと思われる(注2)。しかし、軽水炉でもスリーマイル島原発事故のようなメルトダウン事故は起きうる。しかも、スリーマイル島原発事故より深刻な事故は起きうるのだ。なぜなら、(1)スリーマイル島原発事故では制御棒が挿入できたが日本での大地震での事故では制御棒システムが機能不全になる可能性があり、(2)日本での大地震での事故では原子炉建屋も地震で損傷する可能性があり、(3)当時使われていた核燃料より現在の標準的核燃料の濃縮度が高くなっており、(4)沸騰水型原子炉の場合には原子炉建屋上部に使用済み核燃料保管プールがあるからである。
ここで注意すべきは、日本での大地震での大規模事故の場合の問題は事故後の放射能封じ込め工事の困難性である。原発で大事故が起きるほどの地震の場合には工事の資材・重機の搬送が困難であり、余震のためチェルノブイリ原発事故後に応急工事で造った放射能封じ込めの「石棺」のような耐震性の低い放射能封じ込め施設は造れない。さらに、共産主義体制下の旧ソ連では強制的に放射能封じ込め工事に作業員を動員できたが許容線量を守って放射能封じ込め工事するのは非常に困難である。そのため、放射能封じ込め工事が早急にできたなら国際原子力事象評価尺度(INES)の基準(注3)でレベル6程度の事故であっても、放射能封じ込め工事が難航し、長期間放置され、豪雨の水で再臨界(注4)になったり、強風で放射性物質が撒き散らされたりするだけでなく、最悪の場合、津波で原子炉圧力容器が海に転落すれば結果としてチェルノブイリ原発に匹敵するレベル7の事故になってしまう危険がある。
結局、日本での大地震での大規模事故の場合の放射能封じ込め工事の困難性を考えれば厳しい耐震基準を採用すべきなのは明白である。
(注1) 濃縮度4%以下のウラン燃料では減速材がなければ中性子が低速になってウラン235が核分裂しやすくなる以前に中性子はウラン238にほとんど吸収されてしまう。
(注2) 吸収剤のホウ酸を含まない冷却水が流れ込めば日本の原発でも小規模な暴走事故は起きうるが、ウラン燃料の大部分を占めるウラン238は中性子が低速だと核分裂しないため冷却水が存在する場合には高速中性子が少ないので核分裂しにくく、また、冷却水が流出して中性子が減速されにくくなっても、高速中性子でウラン238の非弾性散乱が起きてウラン238を核分裂させるのに必要なエネルギーを失う確率が高速中性子で核分裂が起きる確率より数倍高いため、濃縮度4%以下のウラン燃料では全面的な暴走事故や核爆発の危険はない。
(注3) 国際原子力事象評価尺度(INES)の基準は↓の文部科学省・原子力安全課HP参照。
http://www.bousai.ne.jp/visual/bousai_kensyu/glossary/ko18.html
(注4) 水があると中性子が減速されてウラン235が核分裂しやすくなる。
2006年5月14日
(談話室)「オクトパスアイランド」 (お気軽にどうぞ)