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 尖閣諸島日本領論が沖縄県にとって災いの種になる危険性について

 

 

  まず、最初に述べたいのは、たとえ最近の中国の経済成長が減速気味であっても2030年までには中国の経済規模がアメリカの経済規模を抜き、2050年にはアメリカのGDPが世界第3位に転落する可能性が高い事です (注1) 。この事は今世紀後半には中国の軍事力がアメリカの軍事力を抜く可能性が高い事を意味します。

  国際的に、領土紛争は小規模な軍事衝突を誘発しやすく、将来、経済成長によって兵器代金総額がアメリカを上回っても兵器の性能に自信の無い中国軍にとって尖閣諸島領有紛争を原因とする局地的戦闘は (たとえ負けてもアメリカ軍が本格的に中国本土に対して全面攻撃してくる可能性が低いので) 格好の兵器の性能実地試験が尖閣諸島周辺でできる事を意味します。しかも、アメリカにとっても尖閣諸島紛争は沖縄県に異常なほど大量で大規模なアメリカ軍の基地群保有を正当化する口実にできます。実際、常識的に考えれば、普天間基地の移転先は鹿児島県下の無人島の馬毛島が適当にも関わらず沖縄上陸戦で多数の死傷者を出したアメリカ軍は沖縄県下のアメリカ軍基地を実質的な租借地と考えているのか名護市辺野古に移転しようとしており、尖閣諸島領有問題によって沖縄県外移転の拒否を正当化している疑いもあります。 (今後、もし仮に、アメリカ軍が北朝鮮制圧作戦を実施するならば、北朝鮮からの核攻撃の可能性もあり、多数の民間人が居住する沖縄本島より無人島の鹿児島県・馬毛島が移転先として適当なのは明白でしょう。)

  また、もし仮に、尖閣諸島に大量の石油が埋蔵されていて技術的・経済的に採掘可能でも、軍事衝突の危険があるので日本側は石油開発できないでしょう。更に、万が一、もし仮に、日本が尖閣諸島周辺海域で石油開発できたと仮定しても、沖縄経済への寄与より本土企業や日本政府の利益の方が大きいでしょう。

  さらに、尖閣諸島周辺海域 (12海里内を除く) での漁業は、中国 (台湾を含む) 側の自由操業ができるようになっており、実質的に日本漁船が締め出されたも同然になっているのが現状でしょう。

  要するに、尖閣諸島日本領論は沖縄県にとってメリットがなく、近い将来、また沖縄が日本本土の捨て石にされる原因になりかねないのです。 (ただし、今度は日本本土もアメリカの捨て駒にされる可能性があります。)

 

  第二次世界大戦末期に日本本土の国体護持のための時間稼ぎで沖縄が捨て石にされ、戦後も十分な埋め合わせも無く、沖縄県の一人当たり県民所得は日本最低です。その昔、薩摩藩の進攻を受ける前の中国明王朝中期には、琉球王国は朝貢貿易で繁栄し日本の多くの場所より裕福だったはずです。それが、明治以降は、本土の都道府県は (旧) 国鉄・JR路線によって発展しているのに沖縄県だけ (旧) 国鉄・JR路線がなく、大量・大規模のアメリカ軍基地だけ押し付けられたままで経済発展に必要な用地が不十分なため経済発展が阻害されたままです。尖閣諸島日本領論は、その不平等状態を正当化したり隠したりする役目も担っていると私は考えています。

 

  もし、仮に、尖閣諸島日本領論が正しければ、沖縄県民が支持されるのは理解できますが、実は日本の不正が隠されていたのです。 (別記事・[ 魚釣島の事を「和洋島」という偽名で通知した日本政府 ] 参照。) また、冊封使録日本語訳者で京都出身者の原田禹雄氏が冊封使の陳侃 (ちんかん) が著した『使琉球錄』に、「福建の人々は、 (那覇への) 航路をそらんじていないので」、 琉球王国が冊封使船に同乗する水先案内をする看針通事 (通訳兼航海士) を派遣してくれた事を喜んだ旨の記述の存在をもって、あたかも琉球人が航路を開拓し尖閣諸島を最初に発見したかのごとき誤解を招く表現をしており (注2) 、沖縄県民の中には誤解をされた人もおられるでしょう。しかし、これは最初の進貢船が明王朝から贈られ、航海技術者や造船技術者も明朝中国から派遣された歴史的事実を隠した詭弁なのです。さらに、考古学的には中国銭の出土によって唐王朝以前から沖縄本島や久米島に中国民間船が来て交易していた事が推測され、石垣島等の八重山諸島でも10世紀末までに中国民間船が来て交易していた事が推測されています。当然、10世紀末までに中国の民間船が釣魚嶼 (魚釣島) を発見していたはずです。 (別記事・ [ 沖縄県下の遺跡からの中国銭出土は中国民間交易船による釣魚島発見を示唆する ] 参照。) 尖閣諸島日本領論者の多くによる尖閣諸島を発見したのは琉球人だったとの主張は歴史や考古学を無視した主張なのです。御注意ください。

 

   また、明・清の王朝中国は琉球王国に多大な富をもたらしました。しかも、明王朝は文明的にも沖縄に多大な寄与をしたはずです。そして、明・清の王朝中国は琉球人を信頼して冊封使船の運航を任したのです。その信頼を裏切って良いのでしょうか?

  注意すべきは、明治以前に琉球王府がアヘン戦争の前頃から黄尾嶼・赤尾嶼の領有を画策し始めた疑いが有り、最近、中国でも、鞠德源 (中国) 首都師範大学教授が著書の『日本国窃土源流钓鱼列屿主权辨』で指摘されています。今世紀後半に中国の軍事力がアメリカを凌駕すれば、中国のマスコミが鞠德源教授の『日本国窃土源流钓鱼列屿主权辨』や元・琉球王国役人だった大城永保が明治になって釣魚嶼・黄尾嶼・赤尾嶼の領有を内地から派遣された (非薩摩閥系の)沖縄県庁役人・石澤兵吾氏に働きかけた事を大々的に取り上げる可能性があり、その場合には中国人が沖縄県民の裏切りに激怒してカイロ宣言とあいまって中国軍による沖縄占領が起きないとも限らないのです。ズルイ事を画策して逆に沖縄が戦場になっても良いのですか?


目次

2016年9月2日

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp


(注1) 「ビジネス+IT」の記事 [ 2050年の世界、中国減速もGDPは1位に 日本は成長最下位で7位 米国はインドに次ぐ3位  ] 参照。

http://www.sbbit.jp/article/cont1/29363

 

(注2) 原田禹雄 著 『尖閣諸島は誰のものか』 榕樹書林 ( 2006年1月17日発行 ) p.29-p.31参照。