台湾を理解するためのキーワード

 

 

T.言語・民族のキーワード

原住民 : 台湾先住民族のうち、現在も民族固有の文化を維持する先住民族を意味する。尚、「先住民」という表現は滅亡したような語感があるため使われていないようである。清朝領有時代には「生蕃」と呼ばれ日本領有時代には「高砂族」と総称されていた。台湾本島中央山岳地帯・東岸及び蘭嶼島が居住地である。

2000年までは、先住民族のうち、アミ族 ・ タイヤル族 ・ パイワン族 ・ ブヌン族 ・ ピュマ族 ・ ルカイ族 ・ ツオウ族 ・ サイセット族 ・ ヤミ族(タオ族とも言う)の9民族が台北政府から「原住民」として認定されていた。しかし、その基準は清朝や日本の行政目的の分類を引き継いだもので学術的には必ずしも正確ではなく、サオ族 ・ クヴァラン族のように台北政府から「原住民」に認定されていなくとも現在も民族固有の文化を維持する先住民族もいた。そこで、台北政府は2001年にサオ族、2002年にクヴァラン族を原住民として認定を追加した。尚、2004年1月に台北政府はタイヤル族の一部をタロコ族としてタイヤル族とは別個の原住民と認定しなおしたので、現在、台北政府の認定する原住民は12民族となった。尚、その人口は合計しても台湾の人口の約2%程度である。

平埔族 : 台湾本島西岸および北部の先住諸民族は漢民族に土地を奪われたり虐殺されたり漢化(漢民族と同化)したりして(東岸中部に移住したクヴァラン族を除いて)民族として消滅した。その民族として消滅した台湾先住諸民族の総称であるが、平ホ族とされたサオ族・クヴァラン族のように実は消滅しておらず現在も存続する先住民族もいる。尚、平埔族は清朝領有時代には「熟蕃」とも呼ばれていた。

高砂族 : 日本の台湾領有時代に、台湾本島中央山岳地帯・東岸及び蘭嶼島に住み民族固有文化を失っていなかった台湾先住民のうち、アミ族・タイヤル族・パイワン族・ブヌン族・ピュマ族・ルカイ族・ツオウ族・サイセット族・ヤミ族(タオ族とも言う)の9民族の総称。現在は台北政府から「原住民」として認定されている。尚、「高砂」とは日本における台湾の古称である。

「有唐山公、無唐山媽」 : 台湾独立派の主張によると、台湾のことわざだそうである(ただし、私個人としては中国本土南部で台湾の漢民族を侮蔑して言ったことわざではないかと憶測している)。台湾住民には漢人の父がいても漢人の母はいないという事を意味している。「唐」とは中国南部では漢(人)を意味する言葉(ちなみに中国北部や日本では「漢」の字を当てる)。「公」とは父を意味し、「媽」とは母を意味する言葉である。

たしかに、清朝政府が台湾領有の初期に女性の台湾への渡航を禁じていた事から全く根拠がないわけではないが、清朝領有前の鄭氏時代にすでに台湾に家族で移住した漢民族中国人もおり、渡航制限もザル法だった事(cf漢民族密航者の取り締まりが非常に困難な事は、.現在の日本にも福建省から多数のピッジング盗などが密入国している事から容易に推測される)や、清朝の台湾領有後期には渡航制限緩和・撤廃された事から、中国本土から漢民族の女性も相当移住しているはずである。特に、19世紀まで中国では女性の人権が軽視され結婚において娘を事実上売買していた親もいた実態から、台湾で漢民族女性の需要があれば中国本土から台湾に漢民族の女性が(自由意志による密航だけでなく)人身売買的に実質的には密輸されていた可能性があるからである。さらに、1730年代には漢人と台湾先住民との婚姻を禁ずる法令が(1874年廃止)施行されたので、このことわざは19世紀以降は実状に反するものと思われる。

台湾人 : 「台湾人」と言っても通常は台湾先住民を意味せず、第二次大戦終結前に日本の植民地だった台湾本島(その附属的島嶼も含む)及び澎湖諸島に移住していた漢民族を意味する。(参照) 通常の意味の場合、びん南人(ホーロー人)と客家からなる。

本省人 : 台湾省籍を持つ台湾住民。 第二次世界大戦終結前から台湾本島(その附属的島嶼も含む)・澎湖諸島に住んでいた住民。ただし、場合によっては、そのうち漢民族のみを指す場合もあるようである。

外省人 : 台湾省籍を持たない台湾住民。現在、台湾の人口の約1割程度。 第二次大戦後に台湾本島(その附属的島嶼も含む)・澎湖諸島に移り住んだ者、及び金門・馬祖の住民。その多くは中国国民党軍軍人とその家族。外省人のほとんどは漢民族であるが、ごくわずか大陸中国の少数民族もいる。

びん南人(ホーロー人): 台湾でびん(注)南人(ホーロー人)という場合、台湾の対岸にある(本土中国)福建省南部から移り住んだ漢民族の子孫を意味する。台湾住民の中で特に台湾独立支持の比率が高い。台湾の多数派準民族的集団。現在の台湾の人口の約4分の3を占める最多数派である。

(注) 「びん」とは福建省の古称。カタカナで「ミン」と書く場合も有る。尚、「びん」という言葉に対応する漢字はブラウザーがunicodeに対応していないと表示できないため、ひらがなで表記した。

 

客家(ハッカ) : 「客家」の語源は「よそ者」という意味で、戦乱のため中原(ちゅうげん・黄河中流域の事)から中国本土南部に移り住んだ者の子孫。正統中国人としての意識が強く独自の言語・文化を持っている。中国および東南アジア各地で多数の著名な政治家を輩出。中国本土の広東省や福建省に多く住むが、台湾や東南アジア等に移住した者も多い。

ただし、台湾関連の書籍で単に客家という場合には本省人の客家、特に祖先が広東省から移り住んだ客家を意味する事が多いようである。現在、台湾の人口の1割強。

(台湾)国語 : 現在の台湾の公用語に指定されている標準中国語の事。北京語(マンダリン)の一種。発音は若干の差異はあるものの現代の北京の発音に類似すると言われるが、文字は現在中国本土で流通している簡略化された簡体字とは逆に、現代日本の漢字より複雑な繁体字が使用されている。また、北京での北京語(マンダリン)より日本語・英語・ホーロー語(台湾語)の影響を受けていると言われている。そして、蒋介石時代、台北政府が(台湾)国語の使用を強制した事から台湾の多数派であるびん南人(ホーロー人)の反発を招いた。

台湾語 : 通常、台湾の多数派の漢民族である中国本土福建省南部からの移民のびん南人(ホーロー人)の生活言語である中国語南福建方言(びん南語)を意味する。

びん南語(ホーロー語) : 台湾では福建省から台湾に移住したびん南人(ホーロー人)の生活言語。台湾では台湾語とも呼ばれている。本来は中国・福建省南部の中国語方言。方言と言っても標準中国語である北京語(マンダリン)とは別個の言語ほどに発音が異なると言われている。また、(ひどい当て字を使わない限り)漢字で表記できない部分も相当あると言われている。

尚、客家の一部にもびん南語(ホーロー語)を生活言語とする者がいるらしい。

客家語 : 客家の生活言語。中国語方言の一種であるが、方言と言っても標準中国語である北京語(マンダリン)とは別個の言語ほどに発音が異なると言われている。また、(ひどい当て字を使わない限り)漢字で表記できない部分も相当あると言われている。

 

U.歴史のキーワード

フォルモサ : 西洋人で最初に台湾に到達したポルトガル人が台湾本島を「イラ・フォルモサ(麗しき島)」と呼んだ事に由来する台湾の雅称。「美麗島」とも翻訳されているようである。

鄭成功 : 17世紀の人。父親は漢民族の海賊で母は日本人。父が滅亡しかけた明王朝に忠節を尽くし、清朝と戦ったので明王室の朱姓が与えられた。鄭成功も明王朝の復活を目指して清と戦い、台湾西岸を植民地にしていたオランダを追出して台湾に漢民族定住の基礎を作った。そのため、台湾の漢民族からは「開山王」と呼ばれ「開山廟」に祭られている。日本でも人形浄瑠璃「国性爺合戦」の題材となった。尚、鄭成功の配下に日本人武士(関ヶ原浪人?)も相当いて戦闘で活躍したそうである。

渡航制限 : 台湾が明の遺臣・鄭成功の拠点となって清朝敵対勢力の拠点となった事から、清朝は台湾への渡航制限を定め、当初は女性や広東省民の渡航を禁じた。しかし、現在でも、コンテナに隠れてまで日本に密航する中国人が絶えないように、移民の習性の強い福建省中国人や客家中国人は台湾に密入島していたようである。18世紀後半に渡航制限は撤廃された(注)

(注) ただし、18世紀後半には渡航制限が大幅緩和されたにすぎず渡航制限完全撤廃は19世紀後半の1874年であるとする書籍もある。

封山令 : 台湾に移住した漢民族と先住民の紛争を避けるため、漢民族が(漢化していない)先住民の住む地域への立ち入りを禁じた清朝の法令。

(日本の)台湾出兵 : 1871年、台湾南部に漂着した琉球(日清両属)住民が台湾先住民に虐殺された「牡丹社事件」について、清が当該先住民居住地を実効支配していない事を口実として責任回避したので、1874年、日本軍が台湾南部の当該先住民居住地を一時的に制圧・占領した事件。

日清講和条約(下関条約) : 1895年に結ばれた日清戦争の講和条約。この条約によって、台湾本島(その附属島嶼を含む)と澎湖諸島が日本に割譲された。

霧社事件 : 日本が台湾を植民地支配していた時代に起きた台湾先住民の蜂起事件。1930年10月、台湾山間部の霧社(現・南投県仁愛郷)という集落で、モーナ・ルダオをリーダーとする先住民が日本の植民地支配の圧政への不満等から、霧社地区公学校の運動会等を襲撃し、運動会に参加していた日本人等を無差別虐殺した。

日本は蜂起の鎮圧に大砲や航空機による爆弾・毒ガス投下をしただけでなく、蜂起した先住民とその家族の首に高額の懸賞金を懸け近隣の先住民に蜂起先住民を攻撃させた(日本は日本の味方についた先住民を「味方蕃」と呼んだ)。この日本側の策により、蜂起先住民と同じセイダッカ族(タイヤル族系)までも日本側に味方したので、蜂起先住民とその家族の多くは自殺した。

尚、事件鎮圧後の翌年4月、日本の警察は前回に日本の味方についた先住民らをそそのかして霧社地区先住民の生き残りを襲撃させた(これを「第二霧社事件」という)。その後、生き残った霧社地区先住民は霧社から他所に強制的に集団移住させられた。

第二霧社事件 : 「霧社事件」参照。

2・28事件 : 1947年2月27日、台北市で起きた国民党政府の密輸たばこ取り締まり員(外省人)による過酷な密輸たばこ取り締まりに端を発して翌2月28日に起きた本省人の一斉蜂起事件。当時の国民党政府はその鎮圧及び再発防止のため非常に多数の本省人を殺害したりした。この事件以後、本省人と外省人の対立が決定的になった。

 

V.その他のキーワード

首狩り(出草) : ヤミ族以外の台湾先住民には首狩りの風習があり、部族によっては20世紀初頭まで殺害して取った首について儀式を行い頭蓋骨を集落に展示していたそうである。日本の台湾植民地時代に、その悪習は完全に消滅した。

首狩りの風習のあった事から台湾先住民の事を非常に野蛮な民族と思いがちであるが、日本でも19世紀半ばに初期の勤王の志士が献金しない京都の商人を殺害して、その首を橋のたもとにさらし首にしたり、刑罰として官憲が罪人の首をさらし首にしたりしてたので、日本との違いは儀式を行った事と頭蓋骨を集落に展示する事が広範に行われていた事であろう。

尚、台湾先住民に首狩りの風習のあった事が移民好きの漢民族が17世紀まで台湾に定住しなかった大きな理由の一つと思われる。つまり、見方を変えると首狩りは非常に未開で野蛮な方法ではあるが侵略防止手段として機能していたと思われる。一方、台湾に移住した漢民族の側も先住民を殺して食べたり、その人肉を中国本土に輸出するという事をしてたそうである。

分類械闘 : 清朝領有時代に、漢民族系移民が方言等を同じくする者同士が集団を形成し、他の集団と敵対し武器を持って争った闘争。そのため、ある集団が清朝中国中央政府に反乱を起こしても、それと敵対する集団が中央政府軍側に味方した。

中華民国憲法 : 1947年公布された憲法。1950年から1991年まで、大陸を実効支配していないにもかかわらず大陸実効支配を前提とし、モンゴルやチベットの選挙区まで規定していた。

台湾関係法 (Taiwan Relations Act) アメリカ合州国が、中国の正統政府の認定を台北政府から北京政府に変更するにあたり、台北政府・台湾を軍事的に支援するために制定した合州国の国内法。

蒋介石 : 抗日戦(第二次世界大戦)時の中国国家元首。元・中華民国総統。元・(中国)国民党総裁。1949年、大陸の実効支配を失い国民党政府を台湾の台北に移した。

中正紀念堂 : 蒋介石を記念するために造られた施設。現在でも衛兵により警護されている。

李登輝 : 1988年、台北政府・総統だった蒋経国(蒋介石の息子)の急死により、当時、副総統だった李登輝が総統に昇格。後に、選挙によっても総統に選出される。本省人。台湾独立支持者。

陳水扁 : 2000年の民主選挙で台湾独立を支持する野党だった民進党から出馬して台北政府・総統になった人物。本省人。彼が総統になった事により、1980年代後半まで一党独裁していた国民党から民主的に他の政党に政権が移った。

故宮博物院 : (国民党政府が北京・紫禁城の故宮博物院と南京の中央博物院から台北に移送した)中国歴代王朝に受継がれてきた宝物を展示する台北郊外にある博物館。

澎湖諸島 : 台湾海峡にある玄武岩溶岩でできた複数の平坦な火山島からなる諸島。台湾本島に比べ中国本土に近いため、千年以上前から中国本土からの漢民族の移住があったようである。日清戦争後に日本の植民地となり、現在は台北政府の支配下にある。

尚、国際条約においては、澎湖諸島は台湾本島と別個に扱われている。

金門島 : アモイ(福建省)のすぐ近くの島であるが、台北政府の支配下にある。ちなみに、17世紀に台湾に明朝中国の亡命政権を作った鄭成功も金門島を支配していた。尚、国際条約においては、金門島は台湾本島と別個に扱われている。

馬祖島 : 福州(福建省)のすぐ近くの島であるが、台北政府の支配下にある。尚、国際条約においては、馬祖島は台湾本島と別個に扱われている。

省籍矛盾 : 台湾における本省人と外省人の根深い対立。

哈日族(ハーリーズー) : 日本ブームの台湾で日本の大衆文化にあこがれる日本大好き人間の事を意味する語。日本大好き族。

台北駐日経済文化代表処: 台北政府の総領事業務等を行っている日本事務所。ちなみに、台湾は国ではないので当然ながら台湾の外交公館は日本にない。東京にある。その日本語HPは非常に充実している。

http://www.roc-taiwan.or.jp/

交流協会台北事務所: 日本政府の総領事業務等を行っている台湾事務所。台北にある。

「台湾論」 : 日本の漫画家・小林よしのり氏が台湾独立支持者の支援を受けて描いた漫画。中国語に翻訳され台湾でも発行され物議をかもした。

 

2004年1月23日

浅見真規 asami@mbox2.inet-osaka.or.jp

 

目次


主な参考資料

HP

台北政府・駐日経済文化代表処HP (中華民国のしおり)

台北週報HP

田中宇さんのHP  驚きの多言語社会・台湾

嶋崎賢司さんのHP (世界民族博覧会・台湾)

行政院原住民委員會 (要・繁体字中国語コード)

澎湖県政府観光局HP (要・繁体字中国語コード)

文献

笠原政治 ・ 植野弘子 編 「アジア読本 ・ 台湾 」 河出書房新社

国立編訳館 主編 ・ 台湾国民中学歴史教科書 「台湾を知る」 雄山閣出版

張徳水 著 「激動! 台湾の歴史は語り続ける」 雄山閣

喜安幸夫 著 「台湾の歴史」 原書房

史明 著 ・ 志賀勝 訳 「台湾は中国の一部にあらず」 現代企画室

若林正丈 編 「もっと知りたい ・ 台湾」 弘文堂

「台湾原住民研究への招待」風響社

「台湾原住民研究概覧」風響社

伊藤潔 著 「台湾」 中公新書

林えいだい 編 ・ 写真記録 「台湾植民地統治史」 梓書院

柳本通彦 著 「台湾 ・ 霧社に生きる」 現代書館

樋口靖 著 「台湾語会話」東方書店

S.R.ラムゼイ 著 ・ 高田時雄 他 訳 「中国の諸言語」大修館書店

ブリタニカ国際大百科事典

広辞苑(第二版・1969年)

小学館「日本国語大辞典」(昭和49年11月1日)第1版第1刷

平凡社「世界大百科事典」

高木桂蔵 著 「客家」 講談社現代新書

林浩 著 「客家の原像」 中公新書

黄文雄 著 「台湾は日本人がつくった」 徳間書店

酒井亨 著「台湾入門」日中出版

小林よしのり 画 「台湾論」 小学館

TV

1998年10月31日放映・「世界・不思議発見!」(台湾の風雲児!熱血鄭成功武勇伝)