[注意]:国籍法の条文は総務省HPのe-Gov資料下記参照。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO147.html

尚、下記の本文はフジモリ元ペルー大統領が日本に亡命中の2005年に書いた記事です。(2012年5月19日追記)


フジモリ氏の日本国籍と日本政府のトリック

フジモリ氏が日本国籍を持っているのが事実だとすれば、驚くべき事に、日本の国籍法上はフジモリ前ペルー大統領は、大統領に就任する以前にペルー国籍を放棄していたことになるのです。なぜかというと、第14条2項の「選択の宣言」(日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言)によりペルー国籍を放棄する旨の宣言を実際にしたか、もしくは、したとみなされる(改正附則3条)からです。これは法務省民事局第1課国籍係・大野正雄氏も確認されてます。

尚、少し専門的になりますが、みなし選択宣言者と16条2項 という項目を設けて万全を期すと共に疑惑を明らかにしました。

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昭和59年改正国籍法は二重国籍を認めてません

フジモリ氏の日本国籍は国際法上ペルー政府に対抗できません

ペルー政府はフジモリ氏引き渡しを国連安全保障理事会に付託すべきです

コロンビア政府もフジモリ氏を共犯と考えれば、フジモリ氏の引き渡しを要求できます

コロンビア政府の捜査権・引き渡し請求権がペルー政府の捜査権・引き渡し請求権より優先されるべきです

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みなし選択宣言者と16条2項 (少し専門的な国籍法の論点)

職責放棄の罪では引渡不可能です (ただし、収賄・武器密輸仲介・麻薬大量密輸容認の罪では可能)


昭和59年改正国籍法は二重国籍を認めていません

昭和59年に「国籍法」が改正されてからは二重国籍は認められなくなったはずです(注1)。実は、これにはトリックとも言うべき法の抜け穴があり、日本政府は外国の大統領になったフジモリ大統領に日本の国籍の喪失の宣告国籍法16条2項参照)をしなかったのです(注2)。これでは国籍法16条2項が何のために存在するのかわかりません。つまり、国内法の見地からしても問題があるのです。(ただし、国内法的見地からは16条2項の日本国籍喪失宣告をすべきでないとする余地があり、改正国籍法起草者と推定される法務官僚らはそのように書籍で主張しています。そこで、別途、みなし選択宣言者と16条2項という項目を設けてその問題点を指摘しました。)

尚、日本政府が2000年11月までフジモリ氏に日本国籍があることを知らなかった旨の報道は全くの白々しい大ウソです。なぜなら、第1に、在ペルー日本公館はフジモリ氏の出生時に旧・国籍法の国籍留保の意思表示の届け出を受けているはずだからです。第2に在ペルー日本公館はペルーに定住するすべての日本人を把握していたからです。第3にフジモリ氏の両親は日本人で大使館との交流があり在ペルー日本大使館はフジモリ氏の国籍を再確認していたはずだからです。行方不明・音信不通になっていたわけではないのです。しかも、第4に日本国内で公安当局及び外務省は外国国家元首となったフジモリ氏の親族の安全確保のためフジモリ氏の親族を把握し戸籍も把握していたからです。

また、昭和59年改正国籍法がフジモリ氏に適用されないとの一部報道も誤りです(昭和59年改正附則3条参照)。

もちろん、フジモリ氏の場合は在ペルー日本大使公邸人質事件解決後は、その功績で血統に関係なく日本国籍を与えることができます(注3)が、問題はそれ以前からペルー大統領としてペルー国籍を持つフジモリ氏に日本国籍(を保有し続ける事)を秘密裏に容認するという恣意的運用をしていたのです。

 

フジモリ氏の日本国籍は国際法上ペルー政府に対抗できません

フジモリ氏が日本国籍を持っているのが事実だとすれば、驚くべき事に、日本の国籍法上はフジモリ前ペルー大統領は、大統領に就任する以前にペルー国籍を放棄していたことになるのです。なぜかというと、第14条2項の「選択の宣言」(日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言)によりペルー国籍を放棄する旨の宣言を実際にしたか、もしくは、したとみなされる(改正附則3条)からです。これは法務省民事局第1課国籍係・大野正雄氏も確認されてます。ここで、16条2項はその不合理を緩和するものなのに、それを機能させなければペルーを全く馬鹿にすることになります。

また、言葉の上だけでなく、実際問題でもペルーすなわち海外から見ると日本の国籍法16条2項からすれば2000年11月まではまさか大統領になったフジモリ氏が日本国籍を持っているとは予測できなかったことは重要です。つまり、ペルーのマスコミやフジモリ氏と対立するペルーの政治家もそれに気付かないため批判できず、したがって一般ペルー人もフジモリ氏が日本国籍を隠し持っているとは知り得ず彼を大統領に選んだ者もいるはずだからです。ペルーから見れば日本の国籍法16条2項はその恣意的運用とあいまって、フジモリ氏の日本国籍保有を隠す作用の有る「隠れみの」とも言うべきダミー条項なのです。

それゆえ、日本(政府)はフジモリ氏の日本国籍はペルー(政府)に対して対抗力( opposability )を持たないと私は考えます(注4)

ただし、フジモリ氏と日本政府の関係では、そのトリックをしたのが日本政府であった事、フジモリ氏の人権及び在ペルー日本大使公邸人質事件解決の功績(国籍法9条参照)から、フジモリ氏は日本国籍を日本政府に対して対抗できます。それゆえ、日本政府はペルー政府に対してフジモリ氏は日本人であると主張する義務があります。

 

ペルー政府はフジモリ氏引き渡しを国連安全保障理事会に付託すべきです

日本とペルーの間のように犯罪容疑者引き渡し条約がない場合には、最近までは、国際法上犯罪容疑者引き渡し義務がないというのが国際法上の通説でした。しかし、1999年4月以降は大量殺人・テロ容疑という特殊な事例ではあっても、あのリビアですら容疑者引き渡しに応じた(注5)ということで重大犯罪人の引き渡し義務については国際法が大きく変わりつつあると思われます。

ただ、引き渡し要求の根拠が不正蓄財だけでモンテシノス国家情報部(SIN)元顧問が主犯なら、上記の条約なしでの犯罪人引き渡しに相当するほどの重大犯罪か否かは問題になるでしょう。この場合、大統領として武器密輸や麻薬大量密輸を知りながら容認していたのか否かが争点になると思われます。また、どうして不正蓄財より1992年の大統領主導のクーデターによる議会閉鎖を追及しないのか不思議です。日本法なら内乱罪に相当する重罪です。国際的にも民主主義を武力で否定して独裁したのは許しがたい暴挙として国連安全保障理事会で引き渡しが認められるべきものでしょう。

尚、国際法上の「自国民不引き渡しの原則」は上述のごとくフジモリ氏の日本国籍をペルー(政府)に対抗できないことから引き渡しの拒否事由にはなりません。

 

コロンビア政府もフジモリ氏を共犯と考えれば、フジモリ氏の引き渡しを要求できます

モンテシノス国家情報部(SIN)元顧問の不正蓄財のかなりの部分は、コロンビアの反政府ゲリラへの武器密売によって得た金銭と推定されます。これはコロンビアの安全保障に重大な支障をきたすものです。ですから、コロンビア政府も反政府ゲリラへの武器密売についてモンテシノス国家情報部(SIN)元顧問の引き渡しをペルー政府に要求できますし、フジモリ氏が共犯と考えるならフジモリ氏の引き渡しを日本に請求できますし、国連安全保障理事会に付託もできます。(ただし、フジモリ氏については日本政府に対する引き渡し請求以前に、コロンビアの捜査当局への任意出頭をフジモリ氏に求めるべきです。)

 

コロンビア政府の捜査権・引き渡し請求権がペルー政府の捜査権・引き渡し請求権より優先されるべきです

モンテシノス国家情報部(SIN)元顧問やペルー軍によるコロンビアの反政府ゲリラへの武器密売はペルーが国家として関与したとコロンビアに受け取られても仕方のない国際犯罪です。それゆえ、コロンビアはモンテシノス国家情報部(SIN)元顧問の引き渡しをペルーに要求できますし、フジモリ氏が共犯と考えるなら日本へのフジモリ氏の引き渡し請求はコロンビアがペルーに優先されるべきです。

 

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2005年7月11日 ( 2001年2月6日・当初版 )

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

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みなし選択宣言者と16条2項 (少し専門的な国籍法の論点)


参照条文

国籍法は条文の一部を以下に示しますが、全文を御覧になりたい方はオンライン条文参照サイトの法林(入力者・河原一敏 さん) http://list.room.ne.jp/~lawtext/1950L147.html で御覧になってください。

(注1)国籍法・第14条

(1項) 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなった時が20歳に達する以前であるときは22歳に達するまでに、その時が20歳に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

(2項) 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによってする。

国籍法・昭和59年改正附則・第1条

この法律は、昭和60年1月1日から施行する。

国籍法・昭和59年改正附則・第3条

この法律の施行の際現に外国の国籍を有する日本国民は、第1条の規定による改正後の国籍法(以下「新国籍法」という。)第14条第1項の規定の適用については、この法律の施行の時に外国及び日本の国籍を有することとなったものとみなす。この場合において、その者は、同項に定める期限内に国籍の選択をしないときは、その期限が到来した時に同条2項に規定する選択の宣言をしたものとみなす。

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(注2)国籍法・第16条

第1項:選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

第2項:法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失っていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であっても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。

第3項:前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行なわなければならない。

第4項:第2項の宣告は、官報に告示してしなければならない。

第5項:第2項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。

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(注3)国籍法・第9条

日本に特別の功労のある外国人については、法務大臣は、第5条1項の規定にかかわらず、国会の承認を得て、その帰化を許可することができる。

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(注4)尚、私は日本が未批准の国籍法抵触条約・第4条を前提に立論はしていませんが、それも御参考にしてください。

国籍法抵触条約・第4条 ( 1930年日本署名のみ、日本未批准 )参照

国は、自国民がひとしく国民として所属している他の国に対抗して、当該自国民のために外交的保護を加えることができない。

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(注5)ロッカビー事件の二人の容疑者の引き渡しについて・高村外務大臣(当時)談話・外務省

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/11/dko_0406.html

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