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 サンフランシスコ条約でも付属地図の添付に反対した日本

 

   第二次世界大戦後、日本は講和条約交渉で緯度・経度による領土の範囲を明確にする英国案を拒否し、合わせて附属地図の添付にも反対した事が、『日本外交文書 サンフランシスコ平和条約 対米交渉』p.397に記されている。尚、当初は『日本外交文書 サンフランシスコ平和条約 対米交渉』は書籍版のみであったが、現在では外務省ホームページの [ 日本外交文書デジタルコレクション ] でインターネット公開されている。

   下関条約でも割譲対象の台湾の附属諸島嶼の範囲を示す地図が添付されておらず、国民感情を口実に領土の範囲を日本の有利なように解釈しようと常習的不正の意図で講和条約に地図を添付しなかった疑いがあるが、もし仮に地図の添付に反対した理由が本当に日本国民の領土喪失感を軽減するためであるならばサンフランシスコ平和条約の解釈で最も日本に不利な解釈が正しい解釈だと推定される。


付記:

   日本の外務省はホームページ記事 [ 尖閣諸島に関するQ&A ] の [ A2 ] において、「尖閣諸島に対する日本政府の領有権の根拠」としてサンフランシスコ平和条約と沖縄返還協定を根拠にし、沖縄返還協定の合意議事録に示された領域とそれを地図上に示した画像を示している。 サンフランシスコ平和条約には日本の反対で地図が添付されなかったのに地図を表示しているが、それは単にアメリカ軍・琉球列島米国民政府の実効支配地域を示すに過ぎない事を以下で述べる。

   しかし、「沖縄返還協定」の合意議事録の日本語文は二通りの解釈が可能である。(「沖縄返還協定」及び「合意議事録」については外務省公開のPDFを参考にした。)

 

   一つの解釈は日本の外務省の主張のように琉球列島米国民政府の実効支配領域である緯度経度による自然地理学的範囲に存在する「すべての島、小島、環礁及び岩礁」とする解釈であり、他の一つの解釈は、「日本国との平和条約 (サンフランシスコ講和条約) 第三条の範囲 かつ 民政府布告第二十七号で指定された自然地理学的範囲」である。

   ここで、「沖縄返還協定」の合意議事録の英語文の考察をする前に、「沖縄返還協定」の英語タイトルと日本語正式名に着目せねばならない。そもそも、「沖縄返還協定」の英語タイトルは「Agreement between Japan and the United States of America Concerning the Ryukyu Islands and the Daito Islands」であり、「返還」の語は無い。「沖縄返還協定」の日本語正式名も「琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」であり、法的内容もアメリカの日本国との平和条約 (サンフランシスコ講和条約) 第三条の権利・利益の放棄であって返還ではない。この事を念頭に置いて合意議事録を解釈せねばならない。

   「沖縄返還協定」の合意議事録の英語文では、「 , and are, 」との表記に着目せねばならない。「 , and are, 」は日本語の論理条件における「かつ」である事を明確にした英文表現である。すなわち、「日本国との平和条約 (サンフランシスコ講和条約) 第三条の範囲 かつ 民政府布告第二十七号で指定された自然地理学的範囲」とする上記の日本語文の第二の解釈が妥当となる。沖縄返還協定はアメリカによる日本国との平和条約 (サンフランシスコ講和条約) 第三条の権利・利益の放棄を内容とするからである。

   「沖縄返還協定」で返還対象となった「琉球諸島及び大東諸島」の範囲は日本国との平和条約 (サンフランシスコ講和条約) 第三条の範囲から先に返還された奄美群島や南方諸島等を除いた領域にすぎない。沖縄返還協定の解釈において、沖縄返還協定本文と合意議事録が食い違う場合は沖縄返還協定本文が優先される。すなわち、沖縄返還協定で返還されたのは、日本国との平和条約 (サンフランシスコ講和条約) 第三条の範囲から先に返還された奄美群島や南方諸島等を除いた領域にすぎないのである。また、日本はサンフランシスコ講和条約に緯度・経度表示や地図添付しないように要請しており沖縄返還協定の合意議事録に示された緯度・経度表示やそれを地図上に図示して主張する事は許されない。また、沖縄返還協定の合意議事録に示された範囲すなわち1953年12月25日付米国民政府布告第27号で示された範囲は奄美諸島返還後の琉球列島米国民政府が実効支配する管轄域を示したものに過ぎない。琉球列島米国民政府が実効支配する管轄域に尖閣諸島が含まれたのは事実であるが、米国民政府が尖閣諸島を実効支配する管轄域に組み入れたのは、旧・大日本帝国の沖縄県の行政区域に属していたため旧・琉球王国の版図に含まれると錯誤したか、無主地と考えたか、または尖閣諸島の釣魚嶼 (魚釣島) に中国人民解放軍によるレーダーサイト建設の阻止という軍事的必要性から不正占有したかであろう。ともかく、琉球列島米国民政府が琉球政府章典第一条の管轄域を設定したのはサンフランシスコ講和条約署名後であり、日本政府が緯度経度による範囲表示を拒否した事とあいまって、サンフランシスコ講和条約解釈の基準にはなりえない。


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2019年2月28日

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浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp