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 詩の誇張表現を根拠に中国領否定する下條正男氏と石井望氏

 

   下條正男・拓殖大学教授と石井望・長崎純心大学准教授は、1808年に琉球王国に渡航した清朝中国の冊封使・齋鯤の琉球王国への渡航に関する詩集・『東瀛百詠』 (注1) 中の表現を根拠に尖閣諸島が中国領でないと主張している (注2) (注3)

   尚、幸いにも、齋鯤の『東瀛百詠』はGoogle Booksによりインターネット公開されている (注1) ので、それを見ると、当該部分の一節は「一波・・・千丈強鶏籠山過中華界」とあり、「千丈強」すなわち三千メートル以上の大波があったとの誇張表現がある。齋鯤は困難な船旅をしたという事を誇張表現で表したのである。

   そもそも、鶏籠山までが「中華界」だという表現は、齋鯤が台湾本島での「番界」に対比して使った表現である。1810年 (注4-1) (注4-2) (注4-3) より前の台湾本島では鶏籠山より東は「番界」 (注5-1) (注5-2) として台湾原住民居住地域で漢人の入植が禁じられていた。しかし、それは台湾本島内の事である。鶏籠山より東に向かって船で台湾東岸に行く事が禁じられていたので、齋鯤は「鶏籠山過中華界」と表現したのであろう。ただし、琉球王国に向かって鶏籠山より東に航行する場合は台湾本島東部の「番界」に行くわけではないので、「鶏籠山過中華界」との表現は厳密には不正確な表現なのであるが、齋鯤は困難な船旅をしたという事を不正確な表現で誇張してでも主張したかったのであろう。

   詩の誇張表現まで利用して中国領否定の根拠とするのは不粋という他ない。


目次

2019年3月13日 (2019年3月8日・当初版は こちら。)

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp


(注1) 齋鯤の『東瀛百詠』は下記urlで Google Books として公開されており、慶應義塾大学メディアセンター(図書館)蔵書の知今堂・1808年発行版のPDFがダウンロードできる。

https://books.google.co.jp/books/about/%E6%9D%B1%E7%80%9B%E7%99%BE%E8%A9%A0.html?id=Xh7IWSMXbccC&redir_esc=y

 

(注2) 下記urlの下條正男氏の『尖閣列島諸島問題について』参照。

https://fis.takushoku-u.ac.jp/research/wn_backnumber/backnumber/12/shimojo.html

>齋鯤はその『東瀛百詠』(「航海八咏」)で、福州を出帆して琉球国の那覇港に入港するまでを詠い、

>その中の「雞籠山」では、雞籠山を「猶是中華界」(猶これ中華の界のごとし)としているからだ。

>齋鯤は清朝の疆界を、台湾府の雞籠山としていたのである。

>これと同じ地理認識は、『東瀛百詠』所収の「渡海吟用西墉題乗風破浪圖韻」でも示され、

>「鶏籠山、中華の界を過ぎ」と詠っている。齋鯤は、雞籠山を清朝の疆界と認識していたのである。

>では齋鯤はなぜ、台湾府の雞籠山を「中華の界」としたのだろうか。

>これは康煕二十三年(1684年)、台湾を領有した清朝が、台湾府を設置して、

>統治区域の北限を「雞籠山」に置いたからである。

 

   清朝中国が台湾の行政区画の北限を鶏籠(基隆)港口の大鶏籠嶼(和平島)としたのは事実であるが、欧米では無人島や極めて少数の居住者にしかいない島の場合には行政区画に属さない場合があり、クリッパートン島のようにフランスの行政区画に属さない無人島も国際法廷はフランス領と認定した。また、日本も下関条約で割譲対象を「台湾全島及其附属諸島嶼」としており「台湾省」とはしていない (別記事・[ 下関条約は割譲対象の「台湾全島及其ノ附属諸島嶼」を「台湾省」と区別 ]参照)。ただ、齋鯤が『東瀛百詠』で使用した「中華界」という表現は台湾本島内の「番界」に対比した語と考えられる。

 

(注3)  石井望 著・『尖閣反駁マニュアル 百題』・集広舎・第1刷中の、第八十八題、第八十九題 参照。

 

(注4-1) wikipedia中国語版・「噶瑪蘭廳」(2018年12月2日版)参照。

 

(注4-2) 下記urlの [ 中国哲学書電子化計画 ] のサイトにおける陳淑均著『噶瑪蘭廳志 巻一』参照。

https://ctext.org/wiki.pl?if=gb&chapter=813198

>至嘉慶十五年庚午四月收入版圖,譯蛤仔難為噶瑪蘭。

 

(注4-3) 早稲田大学図書館の公開による陳淑均著『噶瑪蘭廳志 巻一』 の画像参照。

 

(注5-1) 早稲田大学図書館の公開による黄叔璥 著・『台海使槎録』(謙徳堂・1879発行)・巻八・「番界」項目画像参照。

 

(注5-2) wikipedia中国語版「番界」(2019年1月19日版) 参照。