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「天皇」という神話的用語の存在する日本国憲法

「神の国」憲法的側面を持つ危険な憲法

 

   日本国憲法は君主(注1)を「国王」とせずに「天皇」としている。しかし、古事記・日本書紀によれば「天皇」とは天から地上を治めるために遣わされた皇帝の意味である。いかに、昔からの呼称が「天皇」であっても、その語源からすれば「天皇」という用語は民主的現代憲法にふさわしくない神話的用語と言わざるをえない。日本語では他国のEmperorは「皇帝」と表記している。中国皇帝、ローマ帝国皇帝、エチオピア皇帝、ムガール帝国(インド)皇帝、オーストリア・ハンガリー皇帝、ロシア皇帝、ドイツ皇帝、皇帝ナポレオン、等である。また、日本は「天皇」の英語訳をEmperor (注2)としており、「天皇」という語の神話的属性を捨象すれば「皇帝」となるのである。立法論からすれば、法文には不要な属性を捨象した用語を用いるのが当然である。

   実際、大日本帝国憲法下においてすら(国際的良識を持っていた)226事件以前の1935年 ( 昭和10年 ) (注3−1)までは条約の日本語文で(中国語文でも)「大日本国皇帝」の語を使用していたので、1895年の下関条約でも「大日本国皇帝」 (注3−2) (注3−3)となっている。それどころか、驚くべき事に、実は、唐朝中国の勢いが強くなった8世紀半ばの757年に ( おそらく、755年に発生した唐の内乱の「安禄山の乱」を知らずに ) 制定・施行された「養老律令」の「儀制令」に対外的には「皇帝」と称する事が定められていた(注3−4)のである。 つまり、千年以上も対外的には「皇帝」と自称していたのである。しかも、昭和天皇が第二次大戦敗戦後に人間宣言(注4)しており、その時に呼称も「皇帝」もしくは「国王」とすべきだったのである。「天皇」という呼称はそれだけで国家神道と密接不可分で、その身分制度の絶対的な語感から「皇帝」や「国王」より本質的な差別とつながる危険がある。それだけでなく、「天皇」が地上を治めるために天から派遣されたという語源を考えると平和国家の憲法にふさわしくない呼称である。

   逆に、憲法で「皇帝」もしくは「国王」と定めても、民間人が私的に「天皇陛下」と呼ぶのは、言論の自由や信教の自由から禁じるわけではないので、憲法で「皇帝」もしくは「国王」と定めても問題はない。

   しかし、昭和天皇の人間宣言(1946年1月1日)後に制定された日本国憲法(1946年11月3日公布)に「天皇」の語があるのは日本国憲法の重大な欠陥である。実際、君主の呼称に「天皇」などという神格化された宗教的意味を持つ用語が使われている事に不快感を感じる者にとっては日本国憲法に「天皇」という語が存在するのは人権侵害である。しかも、学習指導要領で「君が代」斉唱の指導の強制化を考え、今後もそのような強制が強化される可能性を考えると、それは思想信条の自由すら脅かす危険性を内包している。

   いったい、近代国家で国家元首が神格化された国があるだろうか?教義からキリスト教国やイスラム教国ではそのようなことはありえない。日本人が「天皇」という用語をアプリオリに受け入れて憲法にまで、そのような神話的用語を使用して不思議と思わないのは感覚が麻痺しているとしか言いようがない。この事を日本人に自覚させる一番良い方法は「天皇」の英語訳を"the Heaven-Emperor" (注5)とする事であろう。 

 

   森・元首相が首相不適格と非難される原因の一つとなった「日本の国」が「天皇を中心としている神の国」であるとの発言を野党は違憲であると批判したが、森・元首相の「神の国」発言 (注6) は非常に危険な発言ではあるが違憲とは言えない。それどころか日本国憲法が君主の呼称を「皇帝」や「国王」とせずにわざわざ「天皇」という神話的呼称をしていることから日本国憲法は日本を「天皇を中心としている神の国」と解する余地を残す危険な憲法なのである。すなわち、森・元首相「神の国」発言の危険性は違憲だからではなく、同じ危険性を日本国憲法も内包しているのである。


補足:

 

   対外的に日本の君主の呼称が変遷したのは、日本の天皇から隋朝皇帝への信書での「天皇」との自称が不遜であり隋朝中国の皇帝を激怒させた事から、中国の王朝が唐に替わって勢力が強くなってからは、日本が日本の君主の事を対外的に「天皇」と称すれば、遣唐使を受け入れて貰えなかったり、場合によっては中国に攻められたりするリスクを考慮し対外的には「皇帝」と称する事にしたものと思われる (唐朝中国皇帝の中には高宗のように日本のマネをして「天皇」を自称する者もいたが中国神話と相容れないので中国では「天皇」の語は定着しなかった) 。

   しかし、226事件後に日本のファシズム傾向が明確になって中国の国力が衰えた昭和11年以降は「八紘一宇」理論で世界侵略を目指し対外的にも「天皇」の語を使うようになり (注7) 、第二次世界大戦後は大多数のアメリカ人が漢字を理解せず、「天皇」の語を "emperor" と訳しても気付かず、更に、現代中国語では「天」の語の通常の意味は"day"であって"heaven"の意味が薄くなっており中国人も問題視しない事が判明したので対外的にも「天皇」の呼称を使用していると考えられる。


2017年9月21日( 当初版・2001年2月6日, 2005年6月1日版, 2016年9月11日版 )

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浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

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(注1) 憲法学者の中には日本国憲法下では天皇は君主でないとする者もいるようである。しかし、日本政府の見解では日本国憲法下においても天皇は君主としており、「君主」の定義の仕方しだいでは日本国憲法下においても天皇は君主と考えうる余地があるとする憲法学者は多いと思われる。

衆議院HPの下記「象徴天皇制に関する基礎的資料」PDF参照。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shuken013.pdf/$File/shuken013.pdf

 

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(注2) 「天皇」という言葉を英文にする場合には"the Heaven-Emperor" (注5) とするか日本語の発音のままで"Tennou"と表記すべきである。

 

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(注3−1)下の 国立公文書館・アジア歴史資料センター ホームページの、「資料の検索・閲覧」→「国立公文書館」→「内閣」→「御署名原本」→「昭和(〜昭和21年)」→「昭和10年」→「条約」( レファレンスコード:A03022011499 によるレファレンスコード検索も可。 ) の [ 昭和十年・条約第九号・国際衛生条約 ] の画像を見ると「大日本帝国皇帝陛下」との語が使用されている事が判る。

 

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(注3−2) たとえば、「下関条約」 ( 日清両国媾和条約 ) の前文でも「大日本國皇帝陛下・・・」となっている。

Wikisource「下関条約」参照

https://ja.wikisource.org/wiki/下関条約

>大日本國皇帝陛下・・・

 

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(注3−3) 山田朗 編・「外交資料近代日本の膨張と侵略」新日本出版社 参照。

 

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(注3−4)  『註解養老令』 ( 会田範治 著 )・有信堂 ( 昭和39年3月1日発行 ) 参照。( 画像は二つあります。 )

↑の画像をクリックすると拡大版画像が見れます。

 

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(注4) 国会図書館HP参照。

http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/056shoshi.html

 

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(注5) 英語の"the Emperor"に正確に対応する日本語は「皇帝」である。「天皇」に正確に対応する英単語が存在しないので日本政府は「天皇」を英語で"the Emperor"と翻訳している。しかし、これは不適当である。 日本の天皇も「皇帝」と意図的に異なって日本独自の君主の呼称とするなら"Tennou"と表記するか "the Heaven-Emperor"と表記すべきである。ただし、イスラム系帝国の君主の呼称が英語でCalif, Sultan, Shah、モンゴル帝国の君主の呼称は中国に都を置いたクビライの前まではKhan(カーン、汗)という表記がある事から、"Tennou"という表現も歴史用語としては妥当としても、現代憲法であるはずの日本国憲法の中における「天皇」の語は、戦時中に天皇を「現人神」として教育し、昭和天皇の人間宣言後において制定した憲法においても尚「天皇」の語が憲法に存在する事を海外に知らしめるには日本国憲法における「天皇」の語の英語訳には"the Heaven-Emperor"が適当と思われる。

尚、"the Heaven-Emperor"は私の造った造語である。「天」の訳語が "heaven" であり「皇」は"the Emperor"を意味する事から「天皇」の語に対する英単語として"the Heaven-Emperor"という英単語を造った。

 

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(注6) wikipedia「神の国発言」参照。

https://ja.wikipedia.org/wiki/神の国発言

 

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 (注7) 下の 国立公文書館・アジア歴史資料センター 資料・ [ 昭和十一年・条約第三号・猥褻刊行物ノ流布及取引ノ禁止ノ為ノ国際条約 ] ( レファレンスコード:A03022066999 ) の画像では「大日本帝国天皇陛下」という語が使用されているのが判る。

 

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