林愛明 静岡大学教授撮影の四川大地震地震断層写真解説の誤りと疑問点

 

[2008年9月9日更新・(当初の2008年7月23日版はこちら)]

浅見真規  vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

(地球惑星科学関連項目)目次


下の写真は林愛明・静岡大学教授が撮影し四川大地震の地震断層と主張しているものである。

 

林愛明・静岡大学教授の下記の解説(注1)には誤りがある。

http://bousai.jiji.com/info/china/08052701.html

>北川県の県庁所在地の南東約1キロ地点で観察された地震断層.

>左(北西)側の木が生えた面と,右(南東)側の人物が立っている道路面は地震前には同じ高さであった.

>地震断層の食い違いによって左側と右側の地面には2.5メートルの落差が生じている.

>断層はこの道路とほぼ平行で,北東―南西方向に伸びて都市を横切っている.

 

 

まず、撮影地点が「北川県の県庁所在地の南東約1キロ地点」ではない事は、以下の4つの理由のいずれか一つによってもわかる。

(1) 林愛明・教授の解説のごとく北川県の県庁所在地の南東約1キロ地点を通り北東−南西方向に走っていると仮定すると、北川県の県庁所在地の町は小さいので横切る事は不可能で、「都市を横切っている」とする解説に矛盾が生じる。(北川県庁付近の地図北川県庁の町の市街地域の写真参照。)

(2) 問題の林愛明・教授撮影の道路は道幅が非常に広いので幹線道路であるが、北川県城の南東1km付近には、Google Maps だけでなく百度地図捜索(http://map.baidu.com/)や地図小鎮(MAPTOWN.CN)北川県庁所在地付近の地図をにも載っていない。

(3) 林愛明・教授撮影地点の数百メートル前方に検問所( 写真 ・ CCTV.com央視国際網絡有限公司HPニュース記事 )が設置されたが、そのニュース記事及び写真の背景の山から北川県城の南南西の約1km地点とわかる事。

(4) 中国雲南省紅河州地震局HP・中国地震局地質所(何宏林・研究員ら)作成の報告記事によれば、当該地点の位置は、北緯31度48.922分・東経104度26.855分であり、北川県庁所在地の町の市街地域中心吊橋付近の川端のビル損壊地点(注2)の位置が北緯31度49.729分・東経104度27.410分で、北川県県庁所在地の町の中心の南南西である事。

 

以上は、定性的に林愛明・教授の解説の撮影地点の誤りを示すものであるが、上記の(3)または(4)の理由のいずれか一つによって、撮影地点が正確に特定できる。(3)の方法によるなら、検問所(省道105号線と東側の山道への分岐点)の数百メートル南方で真北より若干西に道が向いている地点として台北政府の福衛2号の衛星写真から特定できる。(4)の緯度・経度情報利用の場合には、市街地域中心吊橋付近の川端のビル損壊地点(注2)を基準に国土地理院HPの緯度・経度情報から距離を自動計算するサイト「距離と方位角の計算」と、「計算上の架空点」を設定すればわかる(注3)

 

また、林愛明教授の解説の「左(北西)側の木が生えた面と,右(南東)側の人物が立っている道路面」という表現も誤りである。左は西で、右は東なのである。なぜなら、写真(道路)の方向は真北より10度以下だけ東に向いているだけなので16分割方位でも「北北東」より「北」と言うべきものである。林愛明教授撮影写真では遠方の山が木の葉に隠れて少ししか見えないが、中国雲南省紅河州地震局HP・中国地震局地質所(何宏林・研究員ら)作成の報告記事の当該道路の写真には遠景の山がはっきり写っているので、その遠景の山の比較から写真の中心(道路の方向も写真の中心に向いている)は私が「遠山C」と名づけた山と「遠山D」と名づけた山の間である事がわかる。

 

これは、北川県県庁所在地の町の南方の高台から見たの写真(下にあるのは網易新聞記事にある写真の引用、尚、より大きな画像は百度空間のhaicheng_78925氏のネット上のアルバムにある画像をクリックすると見れる)と

下の地形図で市街地域中心吊橋付近の川端のビル損壊地点甲(注2)を基準に、緯度経度の差から割り出した乙地点(注3)が道路列状損壊写真の林愛明教授撮影地点である。尚、地形図における遠山の同定については、 別項目( 北川県城全景写真の遠山Dは地形図のどこに同定すべきか?)参照。

上掲の地図は、Google Maps (中国用)のMap(道路・河川地図)とTerrain(地形図)を表示切り替え時のズレ補正し、うす黄色の囲みと青文字追加改変したものである。

地学の現地調査では方位(走向)は非常に重要なので、(わずか数行の解説で位置・方向の誤りがある事と合わせて考えると)過失による誤記ではなく、意図的虚偽表示の疑いもある。

尚、林愛明教授の北川県道路列状損壊の場合、地形的に軽い峠状地形から軽い沢筋へ移る場所で、道路の両側が地震前から高かった可能性があるのに林愛明教授は周辺住民に質問しなかったそうである。勝手に林愛明教授が四川大地震前には同じ高さだと主張しているだけなのである。また、写真の道路である四川省道105号線は2008年5月12日に発生した四川大地震により何箇所も重大な損傷を受け通行不能になったが、驚くほどの突貫工事により四川大地震発生のわずか3日後の5月15日(注4)仮開通しており、林愛明教授の北川県現地調査はその後であるため、応急工事によって地震直後の道路の状況と異なる可能性がある。


謝辞

「大根島」掲示板のNo.232番投稿No.233番投稿において、「地獄のように熱く」氏の「遠山」の地図上の同定ミスの指摘により、地図上の同定を変更した。誤りを指摘いただいた事に感謝する。その訂正前の直前の版は2008年8月1日版である。


(注1) 日本地球惑星連合大会の緊急報告会発表内容(防災リスクマネジメントWeb記事による)。尚、「地学雑誌・vol.117 No.3」表紙写真解説 にも同じ写真に同一の解説がある。

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(注2) 北川県城(北川県県庁所在地の町の市街地域)の県城中心吊橋とは、徒歩用の細い吊橋であって、Google Maps (中国用)に載っている車道の橋ではない。下の写真参照。(下の左の写真は北京数字奥運村HPの記事より引用、下の右の写真は搜狐公司HP記事より引用)

中国雲南省紅河州地震局HP・中国地震局地質所(何宏林・研究員ら)作成の報告記事の市街地域中心吊橋付近の川端のビルと護岸の損壊地点は、林愛明・他による地学雑誌vol.117 No.3 p.595 Fig3a の川端のビル損壊地点と同じである。(ただし、撮影地点と撮影方向は異なる。)その地点付近の山肌崩壊面に黄色で囲んだ樹木の植生の残存する一条の緑の筋が残存しているのが特徴的である。

 

下の台北政府所有の福衛二号による北川県城の衛星写真参照。その徒歩用の県城中心吊橋の少し南東が中国地震局地質所(何宏林・研究員ら)作成の報告記事後半の写真の県城中心吊橋付近の川端のビル損壊地点である。

北川県庁所在地の町(曲山鎮)の市街地域で山が川にせまっているのは三箇所であるが、山肌崩壊・地すべりがあって、しかも、縦に樹木の植生の緑の筋が一条残存してるのは上掲の中国評論網絡有限公司HP記事福爾摩沙衛星二号の画像から一箇所だけであり、市街地域中心吊橋の少し南の川の最南点の東である。その点を衛星画像に「甲」として記載した。

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(注3)

「計算上の架空点」の緯度は道路損壊写真撮影地点・乙の緯度と同じ北緯31度48.922分とし、経度は中心吊橋付近の川端のビル損壊地点・甲の経度と同じ東経104度27.410分とする。ただし、「分」の小数点以下を「秒」に換算しないと国土地理院HPの緯度・経度情報から距離を自動計算するサイト「距離と方位角の計算」が使えないので、「計算上の架空点」の緯度の「分」の小数点以下の0.922は60を乗じて55.32秒、経度の「分」の小数点以下の0.41は60を乗じて24.6秒となるので、「計算上の架空点」は北緯31度48分55.32秒、東経104度27分24.6秒となる。同様に、中心吊橋付近の川端のビル損壊地点・甲の緯度は北緯31度49.729分は「分」の小数点未満を「秒」に換算すると北緯31度49分43.74秒、路損壊写真撮影地点・乙の経度の東経104度26.855分は東経104度26分51.3秒となる。

よって、国土地理院HPの緯度・経度情報から距離を自動計算するサイト「距離と方位角の計算」で、まず、中心吊橋付近の川端のビル損壊地点・甲の緯度経度の北緯31度49分43.74秒・東経104度27分24.6秒「計算上の架空点」の緯度経度の北緯31度48分55.32秒・東経104度27分24.6秒を入力すると南北方向の距離は1491mだとわかる(メートル未満四捨五入)。

また、道路損壊写真撮影地点・乙の緯度・経度の北緯31度48分55.32秒・東経104度26分51.3秒と「計算上の架空点」の緯度経度の北緯31度48分55.32秒・東経104度27分24.6秒を入力すると東西方向の距離は876m(メートル未満四捨五入)だとわかる。

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(注4) 和訊網(和訊新聞HP)の↓の記事参照。

http://news.hexun.com/2008-05-18/106052991.html

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[緊急提言]:四川大地震地震断層確認のためのトレンチの早急な掘削の提言