放射能雲の存在を示した高崎CTBT放射性核種探知観測所データ

 

 

放射能雲」という言葉があります。別名として、「放射性雲」、「放射性プルーム」ともいうようです。

ドイツ語では radioaktiven Wolke、英語では radioactive cloud または radioactive plume と表記されるようです。

日本では別名の「放射性雲」の「放射性プルーム」の方が学術的に使われているみたいですが、語感としては「放射能雲」の方がピッタリくるようです。

財団法人 原子力安全技術センターのホームページの原子力防災基礎用語集の記事の「放射性プルーム(放射性雲)」の定義には、

>気体状(ガス状あるいは粒子状)の放射性物質が大気とともに煙突からの煙のように流れる状態を放射性プルームという。

 

とありますが、私は上記の定義を若干変更して「放射能雲」の定義を「大気とともに(風とともに)流れる気体状(ガスあるいは微粒子)の高濃度の放射性物質の集団」と定義しておきます。

群馬県高崎市には包括的核実験禁止条約(CTBT)の国際監視制度の監視施設として放射性核種監視観測所があります。そこで観測された大気環境中の放射線元素の放射能濃度測定データが公表されています。

(「財団法人日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター」ホームページの資料参照)

http://www.cpdnp.jp/pdf/110427Takasaki_report_Apr23.pdf

福島第一原発から約214km(注1)離れた群馬県高崎市の放射性核種監視観測所にはピーク時の3月15日 から 3月16日の間に非常に高濃度の放射性元素が検出されたのです。上記のデータを見ると、「放射能雲」通過前の3月12日 から 3月13日 の放射能濃度と比べて五桁ほど高く、「放射能雲」の通過後の3月16日 から 3月17日 には三桁ほど放射能濃度が低下しています。驚異的なピークの存在がわかります。

もちろん、これは福島第一原発から約214km離れた群馬県高崎市で観測された薄まった「放射能雲」なので福島第一原発周辺ではこれよりはるかに高濃度の「放射能雲」が通過したはずですが「放射能雲」が福島県内で発生・通過したであろう3月14日・15日の福島県内の大気環境中の放射性元素の放射能濃度データが公表されていないのでわかりません。(公表されている福島県内の3月14日・15日のデータは空間放射線線量値です。)

おそらく、福島第一原発から20km以内の地域では「放射能雲」通過・降下中に外気を吸い込めば多量の放射性物質を吸い込んだはずです。

結果論から言うと、放射能雲の通過・降下中の数時間は屋外に出ず、窓を閉めて屋内でやり過ごすのが正解だったのです。しかし、そのようなアドバイスは政府もマスコミも東京電力もしなかったように記憶します。

それどころか、3号機の爆発直後に放射能雲が降下する前に政府・原子力安全保安院は3号機建屋爆発直後の3月14日午後0時すぎに記者会見し、東京電力福島第一原発3号機の爆発に関し、「(3号機)1階の建屋近くのモニタリングでは、1時間当たり20マイクロシーベルトで、年間浴びて全く問題のない数値の50分の1程度の小さなものだった」(注2)と放射能雲が降下する前に安全との広報をしたのです。

しかし、その後、放射能雲の降下に伴って空間放射線量値が急激に上昇し福島第一原発正門で同日午後9時37分に毎時3130マイクロシーベルト、翌日の3月15日午前9時に毎時11930マイクロシーベルトという高い空間放射線量が測定(注3)されると、今度は逆に驚いて原子力安全保安院の福島第一原発担当の検査官らは福島第一原発から60km離れた福島市まで敵前逃亡のごとく避難(注4)したのです。


2011年5月8日 (4月1日版 ・ 5月2日版 )

目次

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp


(注1) 福島第一原発3号機建屋の位置は国土地理院地図閲覧サイトによれば、北緯37度25分16秒、東経141度1分58秒です。また、高崎放射性核種監視観測所は日本原子力研究所高崎研究所内に設置(注5)されており、高崎放射性核種監視観測所の位置は国土地理院地図閲覧サイトによれば、北緯36度18分10秒、東経139度4分34秒付近と思われます。

ここで、緯度・経度から距離を算出する国土地理院のサイトを利用して距離を算出すると、約214kmです。

 

(注2) 下記の読売新聞ニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110314-OYT1T00398.htm

> 経済産業省原子力安全・保安院は14日午後0時すぎに記者会見し、東京電力福島第一原発3号機の爆発に関し、

>「(3号機)1階の建屋近くのモニタリングでは、1時間当たり20マイクロシーベルトで、

>年間浴びて全く問題のない数値の50分の1程度の小さなものだった」と述べ

 

(注3)  東京電力ホームページの3月14日付け資料参照。

http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110315d.pdf

 

(注4) 下記の読売新聞ニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110323-OYT1T00078.htm

>東京電力福島第一原子力発電所の事故に絡み、経済産業省原子力安全・保安院の検査官が事故発生後に約1週間、同原発を離れていたことが分かった。

>西山英彦審議官は22日の記者会見で、一時撤退した理由について「安全性に問題があり、人間が暮らすには不便が多かった」と述べた。

>検査官は各地の原発に赴いて、原発の運営を監督している。保安院によると、今回の事故では検査官7人が同原発で業務に当たっていたが、

>15日に現地本部が福島県庁に移った際、ともに県庁へ移動。22日に、検査官2人が同原発内の施設に戻った。

 

(注5) 独立行政法人日本原子力研究開発機構のホームページ記事参照

http://www.jaea.go.jp/jaeri/jpn/open/press/2004/040209/index.html

>日本原子力研究所(理事長 岡ア 俊雄)が高崎研究所内に設置した放射性核種監視観 測所は、

>包括的核実験禁止条約(CTBT)機関準備委員会から2月6日付けで国際監視制度 (IMS)の施設として認証を得た。