福島第一原発の津波の潮位は13.1mとする東京電力報告書の子供だましの矛盾

 

 

 


1.子供だましの矛盾

昨日(2011年7月8日)、東京電力は「福島第一原子力発電所を襲った津波の高さは最大13・1メートル」であるとの分析結果を発表したとのニュース (注1) があった。その元となったのは東京電力の平成23年7月8日付けの報告[福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における平成23年東北地方太平洋沖地震により発生した津波の調査結果に係る報告(その2)【概要版】] (注2) である。

そこで、念のため東京電力に電話確認したところ、この潮位13.1mという主張は地震や津波で損壊しない潮位13.1m以上測定可能な潮位計が(震災で損壊した実際の潮位計の場所に)存在したと仮定した場合の潮位を意味するとの回答を得た。これは私のホームページ記事[ 福島第一原発の津波の潮位は10m未満の可能性大 ]と対立する主張である。

そこで、東京電力の上記の平成23年7月8日付けの報告 (注2) を見たところ、子供だましの矛盾を発見した。

潮位が13.1mと主張しながら11m未満しか浸水していない場所があったのだ。

東京電力の上記の平成23年7月8日付けの報告PDFファイル (注2) p.2の 「図2 (1) 福島第一原子力発電所における津波の調査結果 ('浸水高、浸水深及び深水域)」 の地図において1号機タービン建屋北の赤字で示されたG地点の浸水高が「O.P.約+10m以上」となっている事である。つまり、G地点の浸水高はO.P.+11m未満 (注3) なのである。

ここで正確な議論をするために、「津波の高さ(津波の潮位)」と浸水高を正確に比較するために基準を合わせる必要がある。上記の東京電力の報告書では「津波の高さ」は平常潮位(天文潮位) (注4-1) (注4-2) が基準として表示され、浸水高は「O.P(小名浜港工事基準面)」を基準として表示されているからである。

まず、注意すべきは、O.P.は「小名浜港工事基準面」を意味し福島県小名浜港の干潮海面水位 (注5) を表し、福島第一原発の平均潮位は「小名浜港工事基準面」より0.828m高い (注6) ので、それも考慮せねばならない。尚、平均潮位は標高0m (注7) である。よって、補正すると、G地点の浸水高はO.P.+11m未満というのは標高10.2m未満である(地盤の沈降が0.5m以上である事を考慮すればG地点の浸水高は10m未満)。

 

上記の東京電力報告書は地震発生約51分後に津波の高さが最大になったとしており、東北地方太平洋沖地震発生時刻が2011年3月11日14時46分なので2011年3月11日15時37分頃に津波の高さが最大になったと推定している。この時刻に津波が無かった場合に予想される平常潮位を求めるのに福島第一原発専用港の天文潮位データが無い  (注8)  ので福島県小名浜港の天文潮データを利用する。

気象庁HPの小名浜港の天文潮位データ (注9) によれば、2011年3月11日15時は標高-59cm、16時は標高-46cmなので、上記の東京電力報告書が津波の高さが最大になったと推定している2011年3月11日15時37分の天文潮位は標高-51cmである。よって、上記の東京電力報告書が津波の高さが最大になったと推定している2011年3月11日15時37分の2011年3月11日15時37分に津波の高さが平常潮位から13.1mとの推定値は標高で示すと標高12.64mである。

 

よって、標高によって比較すると、G地点の浸水高は標高10.2m未満である(地盤の沈降が0.5m以上である事を考慮すればG地点の浸水高は10m未満)のに、上記の東京電力の報告書では津波の高さ(津波の潮位)を標高12.64m(平常潮位基準の表示では13.1m)としているのである。

福島第一原発の潮位計(震災で損壊)があった場所はG地点の約170m海側なので、潮位計(震災で損壊)があった場所で潮位が標高12.64m(平常潮位基準の表示では13.1m)で、その約170m奥のG地点で潮位が10.2m未満だというのは子供だましの矛盾である。

 

2.詐欺的表示

私が7月14日に気象庁地震津波監視課のクマガイ氏に確認したところ、「津波の高さ」という用語は検潮所の潮位計の数値だとの事でした。

また、東京電力の上記の報告書のp.1の「2.津波の特徴の分析」の枠で囲まれたまとめでも「両発電所の検潮所設置位置における津波の高さは以下のとおりです。」としており、東京電力の上記の報告書のp.2下部から引用した上掲の模式図でも検潮所の水位を「津波の高さ」としています。さらに、p.2の図2(2)の水位変動のグラフでも「(検潮所設置位置付近における水位変動)」としており、そのグラフの青色の枠から青色の線で(震災で損壊した)福島第一原発の検潮所位置が青色の点で示されています。

あたかも(震災で損壊した)福島第一原発の検潮所の潮位計が震災で損壊せずに13.1mまで測定できたなら潮位が13.1mであるかのごとく表示しています。

ところが、私が7月15日に東京電力の「お客様相談室」のヒラカタ氏から得た回答では瞬間的な水位の数値との事でした。

これは詐欺的表示です。

なぜ詐欺的表示かと言うと、検潮所の潮位計は土用波のような瞬間的な水位上昇を拾わないようにできているからです。それゆえ、瞬間的な水位の数値を「津波の高さ」と表示するのは詐欺的表示なのです。

 

尚、東京電力社員には土木学会・原子力土木委員会 津波評価部会の委員や幹事が選出 (注10) されており、子会社の東電設計からも複数の幹事が選出 (注10) されており、東京電力が他の電力会社と共同で設立した財団法人・電力中央研究所からも委員や幹事が選出 (注10) されているので、かかる初歩的なミスは考えられないものであり、巨大天災免責を期待して意図的に不正な報告書を原子力安全保安院に提出したものと考えられる。


2011年7月16日 (当初・2011年7月9日版)

目次

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp


御意見はメールもしくは、外部リンクの★阿修羅♪掲示板[ 福島第一原発の津波の潮位は13.1mとする東京電力報告書の子供だましの矛盾 ]でコメントしてください。


(注1) 下記のニュース記事参照。

読売新聞HP記事

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110708-OYT1T00927.htm

NHKホームページ記事

http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20110709/0545_13.html

毎日新聞HP記事

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110709k0000m040098000c.html

朝日新聞HP記事

http://www.asahi.com/special/10005/TKY201107080623.html

 

(注2) 下記の東京電力HP資料参照

http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110708b.pdf

 

(注3) 仮にG地点の浸水高が+11m以上なら東京電力は「+11m以上」と報告書に表記したはずなので、東京電力の報告書でG地点の浸水高が「O.P.約+10m以上」となっている事はG地点の浸水高はO.P.+11m未満である事を示すのである。

 

(注4-1) 下記の気象庁HP記事参照。

http://www.data.kishou.go.jp/shindan/sougou/html/col_1.2.html

>通常、海面は1日にほぼ2回、規則的に昇降を繰り返す。

>その高さと時刻は過去の潮位データをもとにして地球と月、 および太陽の運行からあらかじめ推測することが可能で、

>「平常潮位」や「天文潮」と呼ばれる。

 

(注4-2) 下記のNPO法人環境防災総合政策研究機構(CeMI)のHP記事参照。

http://www.npo-cemi.com/news/images/guidebook.pdf

>平常(の)潮位

>へいじょう(の)ちょうい

>潮汐は主として月や太陽の引力等により生じる海面の昇降現象で、天体の運行に関する知識から予測することができる。

>このようにして予測した潮汐を天文潮という。

 

(注5) 下記の横浜市港湾局HP 「港湾業務用語集」参照。

http://www.city.yokohama.lg.jp/kowan/business/term/term-k-o.html

>工事用基準面

>海上工事をする時に用いられる高さの基準であり、海面が一番低い時をゼロとしている。

 

(注6) wikipedia「福島第一原子力発電所」岩見浩造氏による2011年4月14日 (木) 21:43版 参照

>平均潮位:O.P+0.828m

 

(注7) 下記の国土地理院測地部HP記事参照。

http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/level/

> 日本の土地の高さ(標高)は,東京湾の平均海面を基準(標高0m)として測られています。

 

http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/geoid/geoid/geoid.html

>水が重力だけの力を受けていると仮定すると、その水が落ち着いてつくる地球の表面形状を、測地学や地球物理学においては、

>「重力の等ポテンシャル面」、測量分野では「水準面」と呼んでいます。

>この「水準面」は、すべての場所で重力の方向と直交します。川の水は重力の影響を受けて水準面の高い方から低い方へ流れます。

>このように、「水準面」が高さの高低を決めています。

>

>地球表面の7割は海洋で覆われており、測地学では世界の海面の平均位置にもっとも近い「重力の等ポテンシャル面」を「ジオイド」と定め、

>これを地球の形状としています。

>日本では、東京湾平均海面を「ジオイド」と定め、標高の基準としています(離島を除く)。したがって、標高は「ジオイド」から測った高さになります。

 

(注8) 東京電力「お客様相談室」平形氏の回答による。

 

(注9) 気象庁HP潮位情報参照

http://www.jma.go.jp/jp/choi/

 

(注10)  土木学会HPの原子力土木委員会 津波評価部会 委員名簿参照

http://committees.jsce.or.jp/ceofnp/tnmlist

>原子力土木委員会 津波評価部会 委員名簿

>平成23年3月現在

>委員    高尾 誠 東京電力(株) 原子力設備管理部

>委員兼幹事      榊山勉  (財)電力中央研究所 地球工学研究所 流体科学領域

>幹事長  松山 昌史       (財)電力中央研究所 地球工学研究所 流体科学領域

>幹事    安中正  東電設計(株) 技術開発本部

>幹事    池野正明        (財)電力中央研究所 環境科学研究所 環境科学領域

>幹事    及川 兼司       東京電力(株) 原子力設備管理部

>幹事    栗田 哲史       東電設計(株)

>幹事    藤井直樹        東電設計(株)港湾・海岸部

>幹事    柳沢賢  東京電力(株) 原子力設備管理部

>幹事    柳澤 英明       東電設計(株)港湾・海岸部