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 「棚上げ合意」は時効を停止させる

 

 

   万が一、もし仮に、領土紛争で国際法上、取得時効を認める余地があるとしても (後述の[付記]参照)、そして、万が一、もし仮に、尖閣諸島 (冊封使航路列島北部) 領有問題で時効を考慮する事が妥当であるとしても (後述の[付記]参照)、日中間の棚上げ合意により時効は停止し進行しない。

   1972年の日中共同声明時に日本の田中角栄総理と中国の周恩来総理との間で「棚上げ合意」があったと言われ、野中広務・元官房長官 (日中共同声明時は京都府議会議員) も認め、鈴木善幸・元首相もサッチャー・元英国首相との会話において、「棚上げ合意」の存在を認めた事が英国公文書に記録されているが、それらは1972年の日中共同声明時や1978年の日中平和友好条約締結時に内閣の構成員でなかった者らによる間接的証言と考えられ、日本政府は「棚上げ合意」を否定している。

   しかし、1978年に締結された日中平和友好条約には領土に関する合意が存在せず、終了条項まで存在する異常な形式の平和条約であり「棚上げ合意」の存在は明白である (別記事・[ 日中平和友好条約は全て棚上げの長期停戦協定 ]参照)。


付記

 

   そもそも、領土紛争で国際法廷が取得時効を認めた事例は無いそうである。それにはいくつかの理由がある。パルマス島事件判決以後、実効的占有論で実質的に取得時効を認めるのと類似の効果が期待できるので取得時効を認める必要も無いし、より総合的で妥当な判断が実効的占有論によって可能という事が国際法廷が取得時効を認めた事例が存在しない大きな理由の一つであろう。また、成文法国家の場合、国内法で私法上の時効期間が法定されており権利者は時効期間に注意する事が可能であるのに対し、国際法上の領土紛争に関し、現時点では法典化された多国間条約もなく判例も無いので権利国に不利であり、いかなる期間を以って時効成立とするのか公正中立な基準が現時点で存在しないのも領土紛争で国際法廷が取得時効を認めない理由だろう。さらに、国際法で取得時効を認めると軍事占領や武力を背景とする占領が横行する危険がある。

   尚、民法等の国内法で土地に関して時効を認めるのは土地の有効利用と権利者の怠慢が根拠とされている。土地の有効利用は当該国家の経済に寄与するため、言い換えると国家経済に有益という事を考慮して、国内法で時効が認められるのである。それを国際法の場合について考えると、絶海の無人島で動植物の固有種が存在する島は動植物の固有種だけでなく独自の遺伝子を持つ細菌が多数存在する可能性が高く、人類にとって有益な遺伝子資源が期待される。そのため環境保護が人類のために必要であり、古賀辰四郎氏の開拓事業に伴って流入した猫や山羊によって生態系が乱され、それを放置している日本政府の無作為は人類にとって有害である。また、中国は清朝中国が近代的測量実測を行なわなかった怠慢があるが、第二次世界大戦後の中華民国政府や中華人民共和国政府の失念・錯誤は中国側の第二次世界大戦後の怠慢というより、台湾返還義務を負う日本政府が尖閣諸島 (冊封使航路列島北部) を沖縄県に属させたままであった事が大きい。よって、本件に関しては時効を認める背景が存在しない。

   万が一、取得時効が考慮される場合、1972年9月29日の日中共同声明で尖閣諸島に関する時効は中断されたので、起算点は、1972年9月29日となる。ただし、上述のように「棚上げ合意」によって時効は停止している。しかし、当時は事実解明が困難だった事が「棚上げ」の大きな理由だったので、事実解明が完了した現時点では「棚上げ」の必要性は薄れており、そろそろ中国は国際法廷への付託を日本に提案すべき時期が近づいたと私は考える。


目次

2019年2月25日 (2018年4月9日・当初版は こちら。)

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浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp