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小惑星探査機「はやぶさ」の小惑星「イトカワ」への着陸は確実なのか?
(注意) 小惑星「イトカワ」の地表付近の重力加速度は地球の約10万分の1程度と推定されている。wikipedia「糸川 (小惑星)」参照。尚、小惑星「イトカワ」の形状については宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究本部HPの宇宙ニュース参照。探査機「はやぶさ」については宇宙研(現・宇宙科学研究本部)HPの「探査機の概略」参照。
1. 世界時・2005年11月19日(日本時・20日)の降下について、宇宙科学研究本部HP・2005年11月23日発表記事 (注1) の検討
(1) まず、図4a (着陸時の近距離レーザー距離計の計測値履歴)とその説明に矛盾がある。
宇宙科学研究本部発表記事:[ 「はやぶさ」の第1回着陸飛行の結果と今後の計画について ] より図4aを引用
上記のグラフについて、宇宙科学研究本部HP・2005年11月23日発表記事 では、
>距離計の情報が示すことは、一旦17m 付近で地形にならう制御への移行が行われた際に、
>やや高度を上げる現象が見られ、その後予定どおりに重力による自由落下が行われて、
>日本時間の午前6時10分頃に距離がほぼ ゼロとなって、着陸が行われたことです。
>それ続いてさらにもう1回のバウンド現象がみられた後、高度をほぼゼロに保ったまま
>推移した期間が約30分間持続しました。
との解説があった。つまり、「はやぶさ」は「イトカワ」地表に衝突して跳ね返ったと説明している。
しかし、宇宙科学研究本部 の説明 では21時9分(世界時)頃から21時12分(世界時)頃までの約 3分間(下のグラフの青色枠部分)の存在の説明がつかないのである。なぜなら、宇宙科学研究本部 の説明では、空中で「はやぶさ」に働いた力が「イトカワ」の微小な重力とそれよりさらに微弱な姿勢制御噴射の力しか述べられてないからである。
宇宙科学研究本部発表記事:[ 「はやぶさ」の第1回着陸飛行の結果と今後の計画について ] より図4aに一部加筆して引用
縦軸は「はやぶさ」の距離計の計測値(単位はm)、横軸は2005年11月19日における世界時
グラフから読み取れる21時9分(世界時)頃から21時12分(世界時)頃までの約 3分間(上のグラフの青色枠部分)の運動は探査機「はやぶさ」が傾いて実際より距離が過大に表示された可能性を考慮しても、微小な重力だけの自由運動とは考えられない。すなわち、21時9分(世界時)頃から21時12分(世界時)頃までの約 3分間の運動を説明するには、「はやぶさ」が「イトカワ」から電磁的な力を受けた可能性を考慮すべきなのである(注2)。
また、距離計グラフから探査機「はやぶさ」は跳ね返ったと推定される。しかし、小惑星「イトカワ」の帯電の有無が調査されていないので、跳ね返りの原因が衝突によるものか、電気的反発によるものかわからない(注3)。問題は小惑星「イトカワ」の帯電の有無・状況が調査されておらず、また、理論的に太陽から飛来する粒子によって小惑星「イトカワ」の太陽側表面の原子から電子が弾き飛ばされ「正」に帯電してる可能性が高い事である(注4)。
尚、グラフ作成においてはたとえ値がゼロでも省略せず記入するのが通例であるが、図4aでは、21時36分頃から22時5分頃までの30分近くのデータの記載がなく、それに関して説明が存在しない。21時32分から21時34分のデータも記載されていない。当初の発表(注5)と照合するとつじつま合わせのゼロ点補正がなされた疑いもある。(注6)
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(2) 「はやぶさ」降下中のドップラー計測値(降下率)を示すグラフ・図2aにも重大な疑問がある。
宇宙科学研究本部発表記事:[ 「はやぶさ」の第1回着陸飛行の結果と今後の計画について ] より図2aに一部加筆して引用
もし仮に、宇宙科学研究本部 の説明のように図2aのグラフが「はやぶさ」の速度の降下成分を示すとすれば、速度の変化は加速度なので、グラフの傾きは(上下方向の)加速度を示す。
だとすれば、疑問が湧く。自由落下を考える場合に、「イトカワ」のような非常に小さな天体では重力加速度が変化が大きく、地表付近では重力加速度の絶対値が増加してるはずなのに、どうして図2aでは直線状もしくは、ごくわずか下に凸になっているのかという疑問だ。図2aでは重力加速度の絶対値が不変もしくは減少してるように見かけ上見えるからである。
20時40分(世界時)頃に一旦エンジンによって上昇後は小惑星「イトカワ」の重力による自由運動になっており、図4aから、20時55分(世界時)頃を頂点(地表からの距離が約27m)として21時9分(世界時)まで降下している。問題は、図2a での20時55分(世界時)から21時9分(世界時)までのグラフがほぼ直線になっており、速度(正確には地球視線方向への速度成分)の変化が線形に近い変化をしているようになっている。この部分の速度変化の原因は(「イトカワ」が帯磁・帯電してなければ)「イトカワ」の重力加速度によるものである。ただし、宇宙科学研究本部発表記事 によれば、同記事の図1aで示された「はやぶさ」の軌道のごとく、着陸直前には「はやぶさ」は、ほぼ地球と「イトカワ」を結ぶ直線上を移動してるものの若干のズレがあるため、地上局でのドップラー速度情報では正確には重力加速度の地球視線方向への成分による地球と「イトカワ」を結ぶ直線の速度成分の変化しかわからないので、「はやぶさ」が進行方向を変更した場合には誤差が出る。
ここで、仮に、20時55分(世界時)頃を頂点(地表からの距離が約27m)として21時9分(世界時)まで「はやぶさ」が重力のみによって自由落下し、「はやぶさ」が進行方向を変更していないと仮定すれば、「イトカワ」が非常に小さい事により重力加速度は(地表からの距離が約27mの)20時55分(世界時)頃と(地表からの距離がほぼゼロの)21時9分(世界時)頃とではかなり違うはずなので本来ならその部分(下図の青色枠で私が囲った部分)のグラフは上に凸になるはずなのに、宇宙科学研究本部発表記事 の図2aでは直線状もしくは、ごくわずか下に凸になっているのである。それゆえ、「はやぶさ」が進行方向を変更していないとの仮定が誤っていたか、「はやぶさ」が重力以外の何らかの力を受けていたかのいずれかもしくは双方に該当するかである。ここでは、「はやぶさ」が重力以外の何らかの力を受けていた事を宇宙科学研究本部 は認めていない。
しかし、実際の(地表からの距離が約27mの)20時55分(世界時)頃の位置と(地表からの距離がほぼゼロの)21時9分(世界時)頃の位置の重力加速度もその変化も宇宙科学研究本部発表記事 には示されていない。そこで、図1aでの着陸予定地点から「イトカワ」の重心までの距離は150m以下なので、計算の便宜上から仮に「イトカワ」の質量が全て重心に集まっていると仮定した場合、(150+27)^2/(150)^2=1.39倍も重力加速度が異なるのである。仮に控えめに見積もって重力加速度が2割増加したとしてみかけ上それが打ち消されたとすれば「はやぶさ」はわずか14分間程度で30度以上も進行方向を変更した事になり、20時55分(世界時)から21時58分に地上からの指令で緊急離陸を行うまで小惑星「イトカワ」の地表スレスレで探査機「はやぶさ」が遠心力と重力がほぼ釣り合った状態で、その区間において仮想的な衛星軌道に類似した軌道上にあった可能性もある。宇宙科学研究本部の2005年11月20日の当初発表はそういう可能性を想定したものだったと思われる。(注5)
実際、2005年11月23日発表記事 で、宇宙科学研究本部が地上に着陸中だと主張している21時36分(世界時)頃から21時58分(世界時)頃までの時間帯でも、その大部分の時間で、わずかながら姿勢制御のため化学エンジンの低出力噴射をしていた事が宇宙科学研究本部発表記事 図4c から読み取れる。2005年11月23日発表記事 で、宇宙科学研究本部は姿勢制御のため化学エンジンの低出力噴射の推力は「イトカワ」の重力より弱い旨述べているが、「はやぶさ」が進行方向の変化によって「イトカワ」の重力とほぼ釣り合う大きさの遠心力を受けていたならば、不足分を化学エンジンの低出力噴射の推力によって補っていれば落下せず、その区間において仮想的な衛星軌道に類似した軌道上を飛行できたはずである。当初の2005年11月20日発表はこれを意味するものと思われる。
尚、宇宙科学研究本部 は、「はやぶさ」からの写真として「イトカワ」の高度32m付近の高さから初着陸を主張する時刻の約 36分前の日本時間午前5時33分(世界時・前日20時33分)に撮影した写真を公表している。しかし、着陸時や着陸直前の写真はない。着陸直前1分以内のさらに低高度の地表から数メートル程度からの写真や着陸中の写真があれば写真からも着陸の確認ができたかもしれない。学術調査としては単に岩石・砂礫(レゴリス)採取するだけなく、採取した岩石・砂礫(レゴリス)試料が小惑星「イトカワ」固有のものか他の天体由来の隕石なのか識別するために採取地点の写真撮影は当然(注7)なのに写真撮影してないので着陸を確認できないのである。
それだけでなく、学術調査としては小惑星「イトカワ」の帯電・帯磁(注8)の調査は当然なのにそれをしていないので、図4aの跳ね返りが衝突による跳ね返りなのか電気的反発による跳ね返りなのか不明なのである。
2. 世界時・2005年11月25日(日本時・26日)の降下について、宇宙科学研究本部HP・2005年11月29日発表記事 (注9) の検討
さらに、第二回着陸試行・世界時・2005年11月25日についても、宇宙科学研究本部HP・2005年11月29日発表記事 [ 「はやぶさ」の第2回着陸飛行の結果と今後の計画について ] の図3a・図2a・図2bのグラフを見ると世界時・22時0分頃に約7mあったのが上昇して世界時・22時7分頃着陸と主張している事になり、矛盾点回避の説明がない。
宇宙科学研究本部HP・2005年11月29日発表記事 [ 「はやぶさ」の第2回着陸飛行の結果と今後の計画について ] より図2aを引用。
逆に、たとえば、伸縮・多段式の試料採取ホーンが微弱な力で非常にしなやかに変形(注10)するので、図2aから世界時・22時3分頃に急に減速しており、急な減速の加速度の大きさが「イトカワ」の微弱な重力の重力加速度を上回ったため、「はやぶさ」本体が減速しても伸縮式になっている試料採取ホーンの最下段が慣性によって上昇続けたため試料採取ホーンが変形し、その試料採取ホーンの変形を着陸によるものと誤認した可能性が高い。その可能性については別項 [ 急激な減速が試料採取ホーンの変形を引き起こし「着陸」と誤認した可能性について ] で解説したので参照されたい。
3. まとめ
以上の考察から、私は「はやぶさ」のサンプル・カプセルを回収して岩石・砂礫(レゴリス)試料を確認するまでは、小惑星探査機「はやぶさ」の小惑星「イトカワ」への着陸を肯定する事に慎重であるべきだと提言する。また、試料採取地点の写真撮影も小惑星「イトカワ」の帯電・帯磁の調査をしなかった事は学術調査として失当であったと言うべきである。また、小惑星「イトカワ」の帯電・帯磁状況が不明なのに探査機「はやぶさ」の運動から算定した小惑星「イトカワ」周辺の重力加速度測定の精度やそれを基にした小惑星「イトカワ」の質量の精度についても再検討を要する。さらに、岩石・砂礫(レゴリス)試料採取地点の写真撮影は惑星科学としての試料採取ならば(地球上の地学の岩石・砂礫試料採取においてもスケッチまたは写真撮影が当然なように)、写真撮影はなされるべきだった。それがないから着陸の証拠写真もないのである。
つまり、「はやぶさ」プロジェクトにおいて惑星科学としての調査の視点が欠落していたために、探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」に着陸したか否かの判定が困難になっているのである。単なる技術的ミスではなく、惑星科学としての調査であるとの意識の欠落の結果であるから、根本的な反省を要する。
用語解説
協定世界時(UTC): 厳密にはグリニッジ標準時(GMT)とは異なるが、実質的にはグリニッジ標準時(GMT)とほぼ同じである。日本時は協定世界時(UTC)より9時間進んでいる。
IT用語辞典 e-Words HP・UTC 【協定世界時】 参照
(注1) 宇宙科学研究本部HP・2005年11月23日発表記事:[ 「はやぶさ」の第1回着陸飛行の結果と今後の計画について ]
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2005/1123_hayabusa.shtml
(注2) 21時9分(世界時)頃から21時12分(世界時)頃までの約 3分間の探査機「はやぶさ」の運動は、小惑星「イトカワ」の微小重力での放物運動にしては21時12分(世界時)頃から21時30分までの次の跳躍と比べて短すぎる。また、距離計の単純な誤作動にしては21時12分(世界時)頃にゼロに近い極小値を採る事の説明がつかない。つまり、電磁的作用の介在かレーザー距離計システム(メモリ部分も含む)の重大な欠陥かのいずれかである。
(注3) 探査機「はやぶさ」本体より単位表面積あたりの質量の小さいターゲットマーカーが小惑星「イトカワ」地表に到達したからというだけでは、 探査機「はやぶさ」側の小惑星「イトカワ」地表が帯電していないとは断定できない。なぜなら、ターゲットマーカーは探査機「はやぶさ」本体の影にあって太陽からの粒子の影響を受けにくく、また、探査機「はやぶさ」が全体として「はやぶさ」側の「イトカワ」地表と同種の電荷に帯電していても「イトカワ」地表に近いターゲットマーカーには「イトカワ」地表と異種の電荷が集まりやすく、結果としてターゲットマーカーは「はやぶさ」側の「イトカワ」地表と同種の電荷には帯電しにくいからだ。
(注4) 太陽からの粒子の衝突によって小惑星「イトカワ」の太陽側の原子の電子の一部が弾き飛ばされる事が想定される。特に、太陽光等の電磁波による場合には「光電効果」である。
(注5) 松浦晋也氏の2005年11月20日付けブログ記事によれば、川口淳一郎プロジェクトマネジャーが、
>探査機は2〜3cm/sで降下し、イトカワ表面にたいして水平にドリフトした軌道に入ったものと思われる。
>30分ほど、そのまま10m程度のところに滞在したものと思われる。
>・・・・・(中略)・・・・・
>NHK 10mという高度の根拠は。
>川口 17mというのは実測値。また、17mを計測した後も降下していったことが確認されているので、10m程度だろうと判断した。
ところが、後日発表された宇宙科学研究本部HP・2005年11月23日発表記事のデータを見ても30分ほど、そのまま10m程度のところに滞在したとの推定の根拠が全く存在しない。11月20日の当初発表時点で距離計データをすでに入手し、高さに関してゼロ点補正して2005年11月23日に発表した可能性を私は疑っている。
(注6) 万が一、2005年11月23日発表記事の図4aで、つじつま合わせのゼロ点補正がなされたならば、グラフ上の距離0mは補正された数値になるので高さ0mではなくなる。尚、私は補正処理の有無について宇宙科学研究本部広報に質問したが回答を拒否された。
(注7) 地球上の地学での岩石・砂礫試料採取でも採取地点のスケッチもしくは写真撮影は当然であり、無人機「はやぶさ」ではスケッチができないので、学術調査としての岩石・砂礫(レゴリス)試料採取ならば写真撮影は当然すべきであった。にもかかわらず、写真撮影しなかった
(注8) 採取試料を回収できれば、地球に持ち帰った岩石・砂礫(レゴリス)試料の帯磁の有無はわかるが、小惑星「イトカワ」全体の帯磁状況はわからない。
(注9) 宇宙科学研究本部HP・2005年11月29日発表記事・[ 「はやぶさ」の第2回着陸飛行の結果と今後の計画について ]
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2005/1129.shtml
(注10) 東北大学・工学研究科航空宇宙工学・吉田研究室HPのシミュレーション動画を見ると相当しなっているのがわかる。
2006年1月27日 (当初版・2005年12月30日)
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