(注意)これは、閲覧用ではありません。これは、過去記事保存用資料です。


マウスの被曝による余命減少効果確認実験とヨウ素131薬追跡調査とLNT仮説

 

1. LNT仮説が不完全性である可能性

遺伝子修復酵素の存在により、単なる被曝線量以外に被曝の態様がダメージに影響する可能性が推測され、LNT仮説(Liner Non-threshold Theory: 「閾値無しの直線仮説」)が不完全な可能性が考えられます。実際、そのような実験もあるようです(注1)

ICRP(国際放射線防護委員会)は政治的判断でLNT仮説を採用したとも言われます。日本政府の対応は建前上はICRPに従ってるようですが、実質的な対策の実効においてはLNT仮説ではなく、低線量被曝でLNT仮説より健康被害を少なく評価もしくはゼロと評価する 「閾値説」によっているように見受けられます。また、原発推進派や電力各社が共同で設立した電力中央研究所は低線量被曝は健康に良いとするホルミシス仮説を主張しています。

しかし、以下に示すマウスの被曝による余命減少効果確認実験の素のデータは(統計的に「有意」というレベルには達しないものの)、低線量被曝での余命減少がLNT仮説より大きい事を示唆しています。逆に、固形癌死亡率だけに注目すると(統計的に「有意」というレベルには達しないものの)、低線量被曝で固形癌死亡率が減少する可能性を示唆するヨウ素131薬被投与患者の追跡調査結果もあります。癌発生率だけに着目すれば、一見、ホルミシス仮説が成り立つように見えますが、癌以外の死因も考慮した全ての死因による寿命減少を考慮すべきです。おそらく、低線量被曝では固形癌以外の要因によって寿命が短くなると思われます。

 

2. マウスの被曝による余命減少効果確認実験はLNT仮説以上の余命短縮効果を示唆する。

環境科学技術研究所によるマウスの被曝による余命減少効果確認実験[S. Tanaka他(2003)](注2-1)(注2-2)の結果の素のデータは低線量被曝ではLNT仮説よりも大きな余命短縮効果を示唆しています。

上記の表を模式的なグラフで表すと下のグラフのようになります。

ただし、統計的にはマウスの数が不十分なため「有意」ではないとされてます。そのため、科学的議論の基礎とするには統計的不確実性が大きすぎるのです。しかし、マウスの数が全く少数たとえば10匹とかではない事とオス・メス共に同様の傾向を示している事から、政府がはるかに多くのマウスを使った実験を実施していれば統計的に「有意」な結果が得られた可能性が高いのです。言い換えると、政府の怠慢によって統計的に「有意」な結果が得られなかった可能性が高いのです。

これを法的に考察すれば、政府が十分な数のマウスで実験し、かつ、統計的に「有意」な否定的結果が得られない限り、福島第一原発事故によって低線量被曝した被害者は統計的にLNT仮説を上回る余命減少を「有意」とみなして訴訟上の証拠としうると考えるのが妥当です。

 

3. ヨウ素131薬被投与成人患者追跡調査は40ミリシーベルトの内部被曝で固形癌死亡率減少を示唆する。

放射性ヨウ素131薬の投与を受けた患者のアメリカでの追跡調査の研究であるRon E, et al. (1998)の素のデータによれば、多くの固形癌は7mCi(注3)未満(259メガベクレル未満)で死亡率が若干減少しています。ただし、統計的には人数が不十分なので「有意」とは言えないので非科学的推測です。

(JAMAホームページ掲載の)Ron E, et al. (1998)

http://jama.ama-assn.org/content/280/4/347.long

(同上、table7)

http://jama.ama-assn.org/content/280/4/347/T7.large.jpg

上記のtable7で、7mCi未満(37メガベクレル)のCLLとnon-CLLが白血病に応します。

分類区間の平均値で考えると3.5mCi (注3) 程度です。放射性ヨウ素131を利用する医薬品ヨウ化ナトリウム・カプセルの添付文書(注4)によれば1mCiすなわち37MBqのヨウ素131投与は11.5mGyすなわち11.5mSvの全身吸収線量に相当(注5)するとありますので、3.5mCiは約40ミリ・シーベルトに相当します。Ron E, et al. (1998)では死亡率が示されてますが、発症率が死亡率とほぼ比例すると考えると下の模式的グラフになる可能性を示唆しています。

 

4. 低線量被曝では固形癌以外の死因によって余命減少が起きている可能性

 

低線量被曝での余命減少の仮説と固形癌発生率の若干の減少の仮説は矛盾するものではなく、細胞分裂が盛んな癌細胞は通常細胞より被曝に弱いので既存の微小な癌細胞群が低線量被曝で活性を低下させるからだと私は推測します。尚、通常細胞も被曝でダメージを受けるため固形癌以外の要因で余命減少は起きると私は推測しています。

 

5. 低線量被曝の方が高線量被曝より悪影響の強い現象の存在の可能性

 

マウスの被曝実験は余命減少分の増加の割合が低線量被曝の方が大きい事を示唆しています(ただし、減少分は高線量の方が大きい)。逆に、ヨウ素131薬被投与患者の追跡調査は固形癌発生率の若干の減少の可能性を示唆しています。(ただし、いずれも統計的に「有意」とは言い難いレベルです。)

この二つの事を考え合わせると、 低線量被曝の方が高線量被曝より悪影響の強い現象の存在の可能性を示唆しています。理論的にも、低線量被曝では体内で遺伝子修復酵素合成等の防禦体制が整わない状況で被曝する事によって健康被害が高線量被曝より大きくなる現象が存在する余地があります。

たとえば、白血病は上述のRon E, et al. (1998)の素のデータ(注6)では7mCi未満の低線量被曝の方が7mCi以上の線量の被曝より死亡率が高くなっています。(ただし、調査人数が少ないため統計的には「有意」とは言えません。)これが偶然によるものなのか調査人数が大幅に多ければ有意な結果が得られるのか不明ですが、頭ごなしに矛盾だと決め付けずに調べるべきでしょう。

さらに、マウスの被曝実験では低線量被曝で高線量被曝より事故死が多くなってます。(ただし、調査個体数が少ないため統計的には「有意」とは言えません。)これが偶然によるものなのか調査個体数が大幅に多ければ有意な結果が得られるのか不明ですが、頭ごなしに矛盾だと決め付けずに調べるべきでしょう。この事は余命減少以外にも、原発の事故防止においても極めて重要です。万が一、低線量で事故死が多く発生するならば、そして、そのような現象が人間でも存在するならば、原発運転の原発職員の低線量被曝が過失を誘発し重大事故を発生させる危険を増すからです。特に、軽度の放射能漏れによる低線量被曝が過失を誘発するならば、放射能漏れ事故による心理的動揺を超える人的過失による重大事故発生要因となりうるからです。

 


(注1) 下記の「工作blog」の記事「低線量被曝って危ないんじゃないの?」参照

http://d.hatena.ne.jp/aljabaganna/20110720

 

(注2-1) 日本語解説は下記の高度情報科学技術研究機構HP記事参照

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-08-09

 

(注2-2) 英語abstractは下記のBioOne Online記事参照

 S. Tanaka, I. B. Tanaka, S. Sasagawaa, K. Ichinohea, T. Takabatakea, S. Matsushitab, T. Matsumotoa, H. Otsua, and F. Sato 著

[No Lengthening of Life Span in Mice Continuously Exposed to Gamma Rays at Very Low Dose Rates]Radiat.Res.160,376-379(2003)

http://www.bioone.org/doi/abs/10.1667/RR3042?journalCode=rare

 

(注3) 1mCiは37メガ・ベクレル

wikipedia「キュリー」参照

 

(注4) 医薬品医療機器情報提供ホームページ資料参照

http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/400022_4300003M5037_1_12.pdf

 

(注5) ICRPやECRRのヨウ素131の実効線量計数による線量より射性ヨウ素131を利用する医薬品ヨウ化ナトリウム・カプセルの添付文書の全身吸収線量の数値の方が妥当である事については、下記の記事参照。

[ ICRPもECRRもヨウ素131の実効線量係数を過大評価している ]

 

(注6) (JAMAホームページ掲載の)Ron E, et al. (1998)

http://jama.ama-assn.org/content/280/4/347.long

 

(同上、table7)

http://jama.ama-assn.org/content/280/4/347/T7.large.jpg

 


2011年11月25日

目次

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp