フィギアスケート・ペアの高橋成美選手はオリンピックに出場できるか?

 


現行のオリンピック憲章の標準的解釈では日本代表としてオリンピックに出場するには日本国籍が必要と考えられています。ところが、フィギアスケートのペア種目の高橋成美選手のパートナーのマーヴィン・トラン選手は東南アジア系カナダ人で現時点では日本国籍が無いため、このままでは高橋成美・トラン組は日本代表としてオリンピックに出場できなくなると考えられます。

ところが、外国人が日本国籍を取得する帰化の要件で通常は「引き続き五年以上日本に住所を有すること」が条件になっているため、日本に住所の無いマーヴィン・トラン選手は次のソチ・オリンピックには通常の方法では日本国籍取得できません。(尚、次々回の平昌オリンピックですら通常の方法では今年中に日本に住所を取得しないと日本国籍取得が困難になると思われます。)

国籍法は総務省HPのe-Govの下記の条文参照

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO147.html

そのため、高橋成美選手のオリンピック出場に関して次の可能性があると考えられます。

 

(1)国籍法9条の日本に特別の功労のある外国人としてトラン選手の帰化(大帰化)

(2)国籍法改正してトラン選手の帰化

(3)特別法制定してトラン選手の帰化

(4)トラン選手が日本に居住しソチは諦め平昌オリンピックまでに通常帰化

(5)オリンピック憲章の新解釈

(6)オリンピック憲章の改正

(7)パートナー組み換え

(8)オリンピック出場時のみ臨時の別パートナーと組む

(9)高橋成美選手がカナダ国籍取得してカナダ代表

(10)オリンピック出場を諦めて世界選手権のメダル獲得に専念する

 

以上の可能性のそれぞれについて下記のメリットとデメリットがあると思われます。


(1)国籍法9条の日本に特別の功労のある外国人としてトラン選手の帰化(大帰化)

 

国籍法9条には「日本に特別の功労のある外国人」については特例として法務大臣が国会の承認を得て帰化を許可する事ができる規定がありますがトラン選手の場合には難しいと考えられます。

 

(2)国籍法改正してトラン選手の帰化

もし仮に、トラン選手が高橋成美選手と結婚すれば、居住要件を大幅に緩和する国籍法改正も可能性がありえますが、トラン選手はカナダのラコステ選手と恋仲だそうなので、この手も難しいと考えられます。

 

(3)特別法制定してトラン選手の帰化

アイスダンスのタニス・ベルビン選手の場合、アメリカのデトロイトに練習拠点を移しアメリカ人男性パートナーと組んだ直後のソルトレイクシティ・オリンピックはアメリカ国籍取得できなかったため出場できず、その次のトリノ・オリンピックにもアメリカ国籍取得が間に合わなくなりかけて、特別法制定でアメリカ国籍を取得したそうです。

 

タニス・ベルビン選手の特別法制定によるアメリカ国籍取得の経緯は、下記のwikipedia「タニス・ベルビン」参照。

http://ja.wikipedia.org/wiki/タニス・ベルビン

 

ただし、タニス・ベルビン選手の場合とトラン選手の場合には次の差異があると思われます。

 

(a)タニス・ベルビン選手の場合、5年以上前から練習拠点が代表出場国にあった点

(b)タニス・ベルビン選手がフランス語系カナダ人だったとしても代表出場国アメリカの公用語の英語はある程度は話せたはずなのに、トラン選手は日本語をほとんど話せない点

(c)トラン選手が日本国籍取得希望表明していない点(注1)

(d)ベルビン・アゴスト組は実力が高くトリノ・オリンピックで銀メダル獲得したが、高橋成美・トラン組はオリンピック・メダル獲得できる可能性が五分五分である点

 

もし仮に日本がトラン選手のオリンピック出場のためタニス・ベルビン選手の場合より甘い条件で特別法制定すれば海外からtwitter等でズルイと批判され日本国内では憲法の平等原則違背だとの批判が起きる可能性があります。また、国会議員にとって、最も問題なのはトラン選手が日本国籍取得希望表明していない点(注1)と思われます。当の本人のトラン選手が日本国籍取得の希望を表明も御願いもしていないのに特別法制定してオリンピックでメダルが獲れなかったとなれば特別法制定に尽力した国会議員のメンツ丸潰れになるからです。それを考えるとトラン選手が日本国籍取得希望表明していない現時点での特別法制定の可能性は低いと思われます。

 

(4)トラン選手が日本に居住しソチは諦め平昌オリンピックまでに通常帰化

今年中に日本に居住しないと平昌オリンピックまでに日本国籍取得が困難になるかもしれません。ところが、日本で練習拠点やコーチを得るのが難しいとの指摘もあるようです。また、トラン選手が日本に居住するにはトラン選手の決断と日本スケート連盟や企業等の支援が必要でしょう。カナダのラコステ選手と恋仲と噂されるトラン選手は日本での居住に消極的かもしれません。

 

(5)オリンピック憲章の新解釈

現行の2011年版オリンピック憲章の規則41によればトラン選手がカナダ国籍しか持たなければ、オリンピックに出場するにはカナダ・オリンピック委員会によるエントリーが必要です。しかし、規則41の細則4では他国の代表となりうる可能性が規定されています。この規則41の細則4は植民地の独立や国境変更等の国際法上の変動のみを前提としていると捉えるのではなく、異なる国籍のパートナーが組む事が常態化しているフィギアスケートのペア競技やアイスダンス競技の場合にも適用可能との新解釈の余地もあるように思えます。

2011年版オリンピック憲章は下記の日本オリンピック委員会HP資料参照

http://www.joc.or.jp/olympism/charter/pdf/olympiccharter2011.pdf

ただし、この新解釈の場合もエントリーにカナダ・オリンピック委員会の協力が必要ですし、純粋な二人だけのペア競技出場なら可能性があっても団体競技出場は認められにくいでしょう。

 

(6)オリンピック憲章の改正

オリンピックは国籍を重視するので、純粋な二人だけのペア競技出場なら異国籍同士のパートナーの一方の国を代表して出場を認める改正の可能性があっても、団体競技出場は認められにくいでしょう。

 

(7)パートナー組み換え

高橋成美・トラン組が2012年の世界選手権で銅メダルを獲れたのは、どちらかというと高橋成美選手の優秀さ・柔軟性と小柄さによるところが大きくトラン選手が特に優秀だからとは考えにくいです。また、トラン選手はラコステ選手と恋仲と噂されています。

このような状況では、常識的にはオリンピック出場を目指してパートナー組み替えも視野に入れるべきとは思われますが、日本人では現役のフィギアスケート男性ペア選手が全くいない状況が最大の問題となります。尚、ソチ・オリンピックに団体種目の新設が確定する以前で、トラン選手がラコステ選手と恋仲になる直前と思われる2010年のクリスマス前のインタビューでは高橋成美選手はパートナー組み替えに消極的だったようです(注2)

フィギアスケートに詳しくないシロウトの私の考えでは、身長170cm以上の引退選手やフィギアの他種目の現役の男性フィギア選手で何人かは可能性があり、場合によっては仮にトラン選手がオリンピックに出場した場合より好成績出せる選手がおられるかもしれないと思っています。ただし、ペア競技の危険性等による事故や失敗のリスクもあり、高橋成美選手や相手方候補の男性選手の都合や意向等もあるため部外者でシロウトの私には予測不能です。ただ、トラン選手の身長が175cmなので、引退選手の田村岳斗氏(身長174cm)や天野真氏(身長174cm)や元パートナーだった山田孔明選手やフィギア他種目現役の小塚崇彦選手(身長170cm)やクリス・リード選手(身長185 cm)もペアのパートナー組み換えの候補として考慮の余地はあるように思えます。

尚、一般論としてパートナー組み替え直後は成績不振になるようですがソチ・オリンピックまで二年近くあるので期間的にはギリギリながら組み換え可能と思われます。

 

(8)オリンピック出場時のみ臨時の別パートナーと組む

国籍問題回避のため出場時のみ臨時の別パートナーと組む方法では、低レベルの演技しかできないため、まともな男子選手は組まないだろうと思われます。大ブーイング受けても平然と演技できる男性お笑い芸人からスケートのできる者を特訓するしかないでしょう。ただ、お笑い芸人でも運動能力の高い者がいるかもしれないので、運が良ければ最下位は避けれるかもしれません。それでもメダルは不可能でしょう。

 

(9)高橋成美選手がカナダ国籍取得してカナダ代表

高橋成美選手がカナダ国籍取得してカナダ代表としてオリンピックを目指す方法も考えられますが、今まで強化費用拠出して育成してきた日本が出場停止を主張すれば最大二年間の出場停止処分(2011年版オリンピック憲章の規則41細則2参照)を受ける可能性があります。

また、カナダでの代表枠争いも熾烈だとの指摘もあるようです。さらに移籍当初は金銭的支援を得るのも困難だとの指摘もあるようです。

 

(10)オリンピック出場を諦めて世界選手権のメダル獲得に専念する

2012年世界選手権では高橋成美・トラン組は銅メダルを獲得しましたが、それはオリンピックの谷間のシーズンだったので他国の選手の調整状況が低調だった事も理由と考えられます。高橋成美・トラン組と同程度か上の実力の組は世界中に十組程度存在すると考えられます。オリンオピックでメダル争奪する場合、純粋な二人だけのペア競技でメダル獲得する可能性は低く、団体でもギリギリと考えられます。

しかし、最初からオリンピック出場を断念して調整のピークを世界選手権に照準を合わせれば、特にオリンピック直後で気の抜ける2014年や2018年の世界選手権は銀メダルの可能性も有るでしょう。これは、企業経営で「ニッチ戦略」として認められている戦略ですし、生物進化でも有効性が認められています。「災い転じて福となす」という事です。


(注1) 下記のスポニチの記事で、

 http://www.sponichi.co.jp/sports/news/2012/04/23/kiji/K20120423003101140.html

 >世界国別対抗戦のエキシビションに出演したトランは、

 >「五輪は誰もが目指す目標」と話し、関係者は「日本の一員として

 >五輪に出たいという気持ちになった」と明かした。

 

となっており、注意して読めば、「五輪は誰もが目指す目標」というのはトラン選手の発言だが、しかし、「日本の一員として五輪に出たい」という部分は、匿名の関係者からの伝聞のみで直接の記者会見でないのがわかる。

尚、トラン選手のtwitterの記録twilog

 http://twilog.org/skate_moivo

で「Japan」「japanese」のキーワード検索でも、日本国籍を希望したり御願いしたりする発言はみつからなかった。

高橋成美選手の公式ブログ

http://ameblo.jp/narumi-takahashi/

にもトラン選手の日本国籍を希望したり御願いしたりする伝言はないようである。

 

尚、トラン選手が日本国籍希望を表明せず御願いもしていない事は、意地悪く評価すれば常識が無いとも取れるが、良く評価すれば正直で誇り高く信用できる人物とも取れる。

 

(注2) 下記のスポーツナビHPの青嶋ひろの著のコラム「ペアスケーターであることの幸せ (3/3)」・高橋成美インタビュー(2010年12月中旬)参照。

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/winter/skate/figure/text/201012240003-spnavi_3.html

>――そうなるとどうしてもファンの皆さんが期待するのは、井上選手や川口選手も出場した五輪のこと。高橋選手はどう考えていますか?

>  自分たちも、出られるのならば絶対出たいです! 

>でも、今は2人の国籍が違うという問題があるので……。

>ただ、マーヴィン以外の人と五輪を目指すつもりは全くありません。

>五輪かマーヴィンか、どちらかを選べと言われたら、絶対にマーヴィンを取ります。

>マーヴィンは本当に素晴らしいパートナー。

>2人はすごく仲がいいから毎日練習も楽しいですし、演技にもその楽しい雰囲気が出ているかなと思うんですよ。


2012年5月26日

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp