1.先制攻撃滑走路破壊作戦
(台湾側がアメリカから購入を予定している地対空ミサイル・パトリオットpac3配備前では)本土中国軍(人民解放軍)の台湾本島攻撃の最有力作戦は弾道ミサイルによる先制攻撃で台湾の滑走路をすべて破壊する作戦であると考えられる。なぜ、最有力の作戦かと言うと、弾道ミサイルで台湾の滑走路をすべて破壊すれば緊急発進した台湾空軍機は着陸すべき場所がなくなるからである。そして、人民解放軍は台湾海峡と台湾本島西岸の制空権を一気に握れるからである。人民解放軍にとって一気に制空権を握れるメリットは非常に大きく沖縄・嘉手納基地のアメリカ空軍機の支援の余裕を与えず、人民解放軍のパイロットの錬度が若干劣っていても有利に戦局を展開できる等の利点がある。
台湾側は数年前までは人民解放軍の弾道ミサイルの命中精度が低かったため(注1)、弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦の対策をしてこなかったが、2004年7月の軍事演習で滑走路が破壊された場合を想定して高速道路への着陸訓練を行った(注2)。しかし、戦闘機が着陸可能な高速道路も破壊される可能性があるし、燃料・弾薬補給や民間人ドライバーのパニックも考えれば高速道路を滑走路がわりにできるという前提で防衛計画策定するのは問題がある。さらに、台湾の技術力をもってすれば滑走路復旧が数時間でできると仮定しても、緊急発進した台湾空軍の戦闘機は空戦で1時間程度で燃料切れになるので滑走路復旧が間に合わない可能性が高い。さらに、たとえ空軍基地で戦闘機ごとに土手で区切って誘爆しないようにしていても(注3)制空権を握られればクラスター爆弾投下されれば(破壊されないまでも)損傷を受け、機体の修理・整備点検に数日かかるだろう。その間に台湾側は甚大な被害を受ける可能性がある。
2. パトリオットpac3と弾道ミサイルによる滑走路攻撃
アメリカはパトリオットpac3が敵のミサイルに体当たりして破壊できるほど高性能な迎撃能力を持っていると宣伝している。しかし、体当たり破壊するには、仮に人民解放軍の弾道ミサイルが空中で制止していて、しかもパトリオットpac3の命中精度が仮にCEP(半数命中半径)0.5mという驚異的なレベルであっても50%の体当たり率にしかならない。しかも、人民解放軍の弾道ミサイルは高速で飛んでいるのであって、空中で制止してるわけでないので真正面に飛んでこない場合の体当たり破壊率はかなり低くなると予想される。
では、パトリオットpac3が滑走路防禦に全く役に立たないのかと言うと、必ずしもそうとは断言できない。体当たりできなくとも近くで爆発する事によって破壊したり、コースをずらしたりできるからだ。仮に300mコースをずらせればかなりの滑走路防禦効果があるだろう。
3.2004年立法院選挙での独立派の敗北により台湾は比較的安心してパトリオットpac3導入できる
2004年12月の台湾の立法院選挙で独立派委員が過半数に達せず、陳水扁総統の「台湾新憲法」制定計画は頓挫したので、台湾は比較的安心してパトリオットpac3を導入できるだろう。あの選挙で独立派が過半数を取っていれば人民解放軍が台湾攻撃に踏み切る可能性がかなりあったからだ。なぜなら、北京政府は弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦により台湾海峡の制空権を握れる見込みだったのにパトリオットpac3導入により弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦が困難になり10年近く台湾制圧が先になるのを恐れ台湾独立派が立法院選挙で過半数取れば独立阻止するのは今しかないと考える可能性があったからだ。ただし、2005年時点で台湾攻撃しても台湾本島への上陸は困難で、澎湖諸島を制圧するだけにとどまるだろうと思われる。
尚、台湾が独立への動きを見せない現状で、人民解放軍が台湾攻撃すればアメリカにより経済制裁される可能性が高く、結果として澎湖諸島を一旦占領しても最終的には台北政府側に返還せざるをえないだろう。つまり、2004年12月の台湾の立法院選挙で独立派委員が過半数に達しなかったかった事により台湾は比較的安全にパトリオットpac3を導入できる事になったのだ。パトリオットpac3を導入すれば、また、独立派が盛り返す可能性も否定できないが、台湾住民もパトリオットpac3の性能が確実に信頼できねば独立を目指さないだろう。実際、(独立の是非を抜きにしても)パトリオットpac3にだけ頼って独立するのは危険すぎるように私には思える。
4.人民解放軍はパトリオットpac3の性能テストのための作戦をするか?
弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦が成功するか否かは、本土中国側の弾道ミサイル保有数とパトリオットpac3の性能と数が大きな要因となろう。そのため、人民解放軍はパトリオットpac3の性能が知りたくてたまらないだろう。弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦が成功するか否かによって作戦計画が大幅に異なるからだ。また、パトリオットpac3の性能がわかればアメリカが進めている弾道ミサイル防衛システムの性能もある程度わかるようになり北京政府の核戦略上有利であるだけでなく、同じく核戦略上の理由から弾道ミサイル防衛システムの性能を知りたがってるロシアとの武器取引でも有利になる情報である。もちろん、スパイによってパトリオットpac3の性能を知る方法もあろうが偽情報をつかまされたり、間接的情報だったりするので、直接に人民解放軍の弾道ミサイルでパトリオットpac3の性能が調べれるものなら調べたいだろう。
そのパトリオットpac3の性能テストには、事故(注4)を装って台湾に数発弾道ミサイルを撃ち込む方法と台湾が独立を目指した場合に「教訓」を与えるという名目で数十発程度弾道ミサイルを撃ち込む方法があろう。いずれの場合にも、パトリオットpac3の性能が低いとすぐに確信できたならそのまま本格攻撃に移行する可能性もあるが、本格攻撃はしないでパトリオットpac3の性能の分析だけする可能性も高い。本格攻撃をしなければ国際非難も比較的少なく、経済制裁もないかあっても緩やかなものと予想されるからだ。
尚、人民解放軍にパトリオットpac3の性能テストをされるとアメリカが推し進めている弾道ミサイル防衛システム全体の情報が漏れる。それではアメリカは困るから、技術的に可能であれば台湾には低性能版のパトリオットpac3(注5)も混ぜて輸出し、パトリオットpac3の性能テストと思われる小規模の攻撃では低性能版のパトリオットpac3を通常版のパトリオットpac3に混ぜて使用する可能性もあるだろう。その場合には迎撃率が低くとも台湾住民はパニックになる必要はないだろう。ただし、その場合には台北政府は事前にその旨周知徹底すべきだろう。
5.反国家分裂法制定とパトリオットpac3の性能
パトリオットpac3の性能が高ければ弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦は効果が低く本土中国軍は一気には制空権を握れず、逆に、今後数年間は台湾海峡の制空権を台湾空軍が握って澎湖諸島も制圧できない可能性もある。その場合には、金門・馬祖の兵糧が尽きる前に西側諸国の経済制裁で北京政府は金門・馬祖の制圧すら断念せざるを得ない事態になる可能性すらある。それにもかかわらず、台湾が独立をめざせば台湾を攻撃するという「反国家分裂法」の制定を北京政府が目指すのはパトリオットpac3の性能が低いと決め付けているからかもしれない。
弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦に台湾側が対応するには高価で性能も不明なパトリオットpac3しか対策がないのかというと、そうではなく、台湾が射程600km以上の巡航ミサイルを保有できれば台湾攻撃の拠点となっている本土中国の空軍基地に撃ち込めるので不利はかなり軽減されるだろう。十分な数量が保有できればパトリオットpac3より効果が高いかもしれない。確実性やコストを考えればパトリオットpac3より巡航ミサイル保有の方が台湾防衛には有利にも思える。ただ、アメリカは「台湾関係法」で台湾に売却するのは防衛的兵器としており、当面は台湾も巡航ミサイルを購入できないと思われる。しかし、台湾が自主開発する可能性も否定はできない。
また、弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦で台湾の滑走路が使えなくなった場合に、現状では台湾本島北部の東に無防備な日本の先島諸島の空港の滑走路が多くあるので台湾空軍が一時的に無断借用(注6)する可能性もある。この場合においては、台湾本島北部の制空権は台湾空軍が握り続ける可能性が高い。ただし、この場合においても台湾海峡南部・台湾西岸南部の制空権を人民解放軍が握り澎湖諸島を人民解放軍が制圧する可能性はある。
尚、弾道ミサイルによる先制攻撃滑走路破壊作戦で制空権を人民解放軍に握られても、台湾側が十分な対艦ミサイル・対舟ミサイル・地上発射型クラスター爆弾ランチャー・携帯型対空ミサイルを保有していれば今後10年近くは台湾本島への人民解放軍の上陸は防止できる可能性が高い。しかし、台湾海峡・台湾本島西岸の制空権を人民解放軍に握られれば澎湖諸島を人民解放軍が制圧する可能性は高い。そして、一旦、澎湖諸島が占領されて人民解放軍の基地が多数造られると台湾本島南部の防衛は非常に困難になるであろう。
(注1) 人民解放軍の弾道ミサイルCSS6(東風15)の旧型の命中精度は非常に悪かったが最近は自前のGPS衛星を打ち上げ、GPSの利用で命中精度は格段にアップした。製造年代の古いミサイルも誘導装置が新型に換装されている可能性が高い。
MissileThreat HP↓参照。
http://www.missilethreat.com/missiles/css-6_china.html
>The missile has an accuracy of 300 m CEP for older models and 30-45 m CEP for the newer GPS upgraded systems.
(注2) 日本経済新聞社HP↓参照。
http://www.nikkei.co.jp/china/taiwan/20040721r2m2101721.html
>台湾空軍は21日朝、高速道路を使った戦闘機の離着陸訓練を実施した。
>中国による弾道ミサイル攻撃などで基地が使えなくなる事態を想定した演習で、道路を使う訓練は26年ぶり。
(注3) 台湾の空軍基地の衛星写真を見ると個別戦闘機ごとに誘爆防止の土手で区切られてるエリアも存在するようにも見える。
Federation of American Scientists HP↓参照。
http://www.fas.org/irp/world/taiwan/facility/ching-chuan-kang.htm
(注4) アメリカ軍は以前、ユーゴ空爆で駐ユーゴ中国大使館誤爆した。それゆえ、人民解放軍がパトリオットpac3の性能テスト目的で数発だけ弾道ミサイルで台湾を攻撃しても事故だと言い逃れされたら、事故でない証拠を示さねばアメリカ軍は報復攻撃に参加できないので、台湾も報復攻撃できず、人民解放軍は事故を装ってパトリオットpac3の性能テストできる。
(注5) ただ、大量生産の都合上、簡単に変更可能な電子部品はともかくとしてpac3の特徴とも言える運動能力に関するロケット推進部分については、わざわざ低性能版のパトリオットpac3を造るとは考えにくいので、ロケット推進部分については低性能版が存在するとしてもタイプの古い試作品を流用すると思われる。
(注6) このHPの下記の項目参照。
2005年1月23日(当初版2004年12月30日)