澎湖諸島と台湾の安全保障

 

1.台湾海峡南部の制空権・制海権を失えば、澎湖諸島は容易に制圧される可能性大(金門・馬祖より陥落しやすい危険性)

台湾住民が、かつて台湾軍が中国本土のすぐ近くの金門島制圧を目指す人民解放軍を撃退した事から中国本土から離れた澎湖諸島(注1)は安全だとの先入観をいだいているとすれば重大な誤りです。たしかに、中国本土より台湾本島に近いので制空権・制海権確保の点では台湾側に有利なのですが、一旦、台湾側が制空権・制海権を失えば澎湖諸島は多くの平坦な島からなるので人民解放軍に上陸・制圧され易いでしょう。そういう意味では金門・馬祖より早く陥落し台湾有事においては開戦の半日後に(人民解放軍がドジを踏まない限り)人民解放軍に制圧される可能性が高いでしょう。

2.澎湖諸島も金門・馬祖と同じく中国固有の領土

澎湖諸島は台湾本島と異なり、古くから中国の領土(注2)です。それゆえ、台湾が中国(中華民国)である限りは澎湖諸島の領有に正当性がありますが、台湾が中国から独立を目指せば台湾には澎湖諸島領有の正当性がなくなるという事を意味します。逆に台湾が独立を目指せば北京政府にとって台湾攻撃が澎湖諸島奪回のための戦闘という正当理由を与えるのです。すなわち、台湾が独立を目指す動きは北京政府と人民解放軍に台湾攻撃をさせやすくします。台湾が独立を目指すのは澎湖諸島防衛にとって非常に不利な事なのです。

3.澎湖諸島に人民解放軍の基地を造られると台湾南部の防衛は非常に困難

澎湖諸島は台湾本島南部から100km以内の距離にあり、そこに人民解放軍の前線基地を多数造られると台湾本島南部から100km以内の距離に「不沈強襲揚陸艦」が多数停泊してるのも同然の結果となります。この事は、たとえ台湾側が対艦・対舟ミサイルや地上発射型クラスター爆弾ランチャーを多数持っていても、人民解放軍が澎湖諸島からヘリで兵士や物資をピストン輸送して上陸すれば、撃退困難になるのです。(注3)

4.澎湖諸島に人民解放軍の基地を造られると台湾南部住民がパニックになる危険有り

歴史を振り返れば、かつて清は澎湖諸島を軍事制圧するだけで、鄭氏政権下の台湾をパニックに陥らせ、台湾本島を無血制圧しました。台湾にとって澎湖諸島は心理的にも決定的に重要なのです。台湾本島と澎湖諸島の中間線で人民解放軍の航空機や艦艇が大規模軍事演習をすれば、台湾南部住民がパニックに陥る危険もあります。

5.北京政府首脳・人民解放軍幹部にとっての澎湖諸島占領の対内的宣伝価値

北京政府首脳や人民解放軍幹部にとって台湾海峡南部の制空権が握れれば比較的容易に制圧できる澎湖諸島の存在は、台湾本島上陸作戦に失敗しても対内的に「勝利宣言」できるので保身の都合上からすれば非常に便利な存在です。すなわち、比較的容易に制圧できる澎湖諸島の存在は慎重派の北京政府首脳や人民解放軍幹部にとって、台湾に対する攻撃を積極的に行おうとする誘因になるのです。


(注1) 澎湖諸島がどこにあるかわからない日本人は下記のNobuhiko Hirai氏のHPの地図で台湾海峡の島の都市「馬公」を探してください。

Nobuhiko Hirai氏のHP

http://www.nhirai.com/ph_taiw6.htm

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(注2) 澎湖政府観光局HP参照。

http://penghu.phhg.gov.tw/tourism/japanese/2impression/i2_history.htm

澎湖は早くから開発され、古書によれば、隋唐朝の頃に占領されたようです。

>定かではありませんが、隋朝大業6年、隋楊帝は虎憤中郎将―陳稜氏を派遣し、澎湖を統治しました。

>唐朝の半ば憲宗の時、進士施肩吾氏は家族を伴って澎湖に移住しました。

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(注3) スティンガーミサイルのような携帯型対空ミサイルと暗視装置があればヘリによる上陸部隊を撃退できる可能性もありますが、アメリカがアフガニスタン攻撃で自ら過去に供与したスティンガーミサイルを持つアルカイダやタリバン兵を怖れスティンガーミサイルの射高外の高高度からもクラスター爆弾等で予め猛爆した方法を人民解放軍がまねてヘリによる上陸作戦前に台湾軍ヘリ撃墜要員を掃蕩すれば、ヘリによる上陸部隊を撃退できない危険性や巻き添えで民間人に多数の犠牲者を出す危険もあります。

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2004年12月28日

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

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