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(V055-P030) 大根島火山のステルス・一気噴火モデル
(詳細版)
T.注意
ここで構築するモデルは現在の学術的知見に矛盾しない範囲で、かなりの蓋然性を有するケースをモデル化したものであって、このモデルが絶対に正しいという証明するものではないし、また、このモデルが正しかったとしても数十年内に必ず噴火すると断言するものでもないし、仮に噴火する場合でも、このモデルで指摘するようなステルス・一気噴火になると断言するものではない。
ただ、安全と過信している場合に、予期せずにステルス・一気噴火が起きれば非常に危険であるので、ステルス・一気噴火が起きる危険があるという事を現在の知見に反しない範囲で想定しうる事をモデル構築して示すのである。
U.大根島・江島について
大根島・江島はいずれも島根県と鳥取県の県境の中海に浮かぶ玄武岩溶岩の台地上の非常に平坦な島である。いずれも行政上は島根県八束町に属する。江島は大根島の北東にある。大根島西部は面積は菅田 正昭編著「日本の島事典」(1995)によると大根島5.15平方キロメートル、江島が1.20平方キロメートルである。ただし、江島の東側は江戸時代以降の埋め立て地なので、「出雲国風土記」および鹿野和彦,古田史朗(1985)から本来は大根島の十分の一以下の面積だったと推定される。
人口は八束町HPによると両島合わせて2000年時点で4584名である。
大根島火口丘のすぐ横が八束町役場のある行政上の中心で保育所・公民館・町役場・保育園が300m以内にあり、火口丘の大塚山山頂部には町営の観光用温室(グリーンステラ)がある。最高高度は大根島が火口丘(スコリア丘)の大塚山山頂の42.2mであり、江島の最高高度は9.9mである。尚、大根島・江島と本土は堤防兼道路・水門兼道路でつながっている。
V.大根島火山・江島火山について
大根島火山は非常に平坦な玄武岩溶岩台地上に大塚山火口丘(スコリア丘)のがある。海面下60m程度にまで玄武岩溶岩の山体があって、海面下で玄武岩溶岩の山体が江島火山とつながっている。大根島・江島の溶岩台地が形成されたのは、約30万年前から12万年前にかけてであると考えられている(ただし、補足参照)。江島火山には明確な形の火口丘は現存しないようである。大根島には2つの溶岩トンネルが発見されている。
W.大根島火山(江島火山を含む)と近縁の火山について
大根島火山(江島火山を含む)は山陰地方の小規模の玄武岩溶岩の火山であり、そういう意味では山陰地方に点在する小規模の玄武岩溶岩の火山すべてと似ている部分があるが、とりわけ日本火山学界HPの分類で溝口溶岩(横田)に分類されている高塚山火山(標高301.0m、鳥取県会見町・溝口町)から船敷山火山(標高226.5m・鳥取県会見町・岸本町)にかけての玄武岩溶岩台地にある火山や田倉山火山(標高349.7m、京都府夜久野町・兵庫県和田山町)が最も近縁に思える。さらに、台湾-宍道褶曲帯上にあるという観点からは、台湾にある小規模な玄武岩溶岩台地とスコリア丘からなる草嶺山火山(標高348m、台湾・桃園県大渓鎮)とも近縁と考えられる。尚、この草嶺山は台湾大地震の研究で有名な草嶺山(標高1234m、雲林県草嶺村)とは別の山である。
X.小規模玄武岩溶岩の火山でも単成火山とは限らない。
小規模の玄武岩溶岩の火山はすべて単成火山で二度と噴火しないとの誤解がはびこっているようだが、それは誤りであるので注意を喚起したい。
まず、過去の溶岩台地の上に新しい溶岩が流出する小規模玄武岩溶岩の火山のある事は田倉山の例から明らかであり、台湾の草嶺山火山(標高348m、台湾・桃園県大渓鎮)も溶岩台地の場所によって玄武岩の生成年代が異なるようである(注1)。そして、同様の事は、より完璧な形で大根島火山・江島火山でも確認されている(注2)。
さらに、小規模玄武岩溶岩の火山の火口丘が複数回噴火する事もあるのである。赤木三郎(1997)によると、高塚山(標高301.0m、鳥取県会見町・溝口町)近辺の最近の造成工事により、高塚山は玄武岩溶岩とスコリアが互層する構造を持つという事が判明したとされている。
そして、大根島の大塚山火口丘の場合は、鹿野和彦,古田史朗(1985)の引用する大根島研究グループ(1975)の露頭スケッチによると大根島火山の大塚山火口丘(スコリア丘)のスコリア層が薄い赤色火山砂によって上下に分かれており、上方のスコリア層中には炭化木片が存在する。これは大根島火山の大塚山火口丘が一旦噴火休止し樹木が生えた後で再噴火した事を示唆するものである。
Y.鳥取県西部地震の余震震源域について
(1)そして、鳥取県西部地震の少し前にはその2年半前に起きた阪神大震災の余震震源域が不明確になるとともに鳥取県西部地震震源に近い場所で微小地震が頻発した。
(2)鳥取県西部地震の余震震源域の中・南部は直線状でその延長線はピッタリと北北西の大根島に向かっているが、北部において北北東の米子市の方に向きを変えていたようにも見えた。言い換えると余震震源域が「く」の字に曲がってるようにも見えた。
(3)しかし、私は、HPの微小地震画像を見て「X」字状に2本の深部地下断層が存在し、たまたま、交点でずれて「く」の字に震源域がなったのだと考えている。
そして、本来の断層は大根島直下付近を通っているのが、途中で米子にそれたので、中海部分の地下における歪が開放されていない可能性もあると私は考えている。
(4)今年(2003年)1月10日以降、余震震源域が北部においてもまっすぐに大根島に向かいかけつつあるようである。そういう意味で2年半経って危険性が増しつつあるのではとも考えている。
Z. 震源域に隣接する場所での深部低周波地震
鳥取県西部地震の前に鳥取県西部地震震源に近い(ただし、数km程度離れている)鳥取県(日南町)と島根県(伯太町)の境界附近地下30kmで低周波地震が観測されていたそうである(注3)。低周波地震は火山の直下で観測される事の多い地震なので、その低周波地震もマグマの活動を示すものと思われる。
[. モデルの仮定
仮定1:大根島火山の噴火の前兆現象はつかみにくい。
[コメント] 粘性の低い少量のマグマの上昇は観測しにくいからである。
仮定2 : 大根島火山の噴火においてはマグマは一気に上昇する。
[コメント ] 仮に、少量の高温で固化しやすい玄武岩マグマが冷えた火道をゆっくり上昇すれば途中で固まってしまうだろう。だから、大根島火山の噴火においてはマグマは一気に上昇する必要がある。
仮定3 : 大地震は大根島火山の噴火を引き起こす可能性がある。
[コメント] 大根島は山陰にあるため、定常的なマグマの上昇のある(典型的)火山フロント(注4)やホットスポット上にない。つまり、(典型的)火山フロントやホットスポット上の火山とは別個のメカニズムで噴火している可能性がある。また、小規模玄武岩溶岩火山のマグマは分量も比較的少なく粘性も低いので地下深部にまでパイプ状のマグマの通り道があると考えるより、地震断層にそう形で上昇してくると考えるべきと思われる。また、地震の元になる歪がポンプのように機能している可能性もある。
\. 補足
日本火山学会のHPの地球科学的データ(注5)では大根島の年代は12万年前となっているが、それは溶岩の最終流出の年代と思われる。溶岩流出を伴わない小規模な噴火はそれ以後もあった可能性があるかもしれないと私は思っている。
鹿野和彦,古田史朗(1985)によれば火口丘大塚山にはテフラの載っていないスコリア層もあるようであり、また、鹿野和彦,古田史朗(1985)の引用する大根島研究グループのスケッチもテフラの載っていないスコリア層部分があるかのように見える。(注6)
また、「出雲国風土記」(注7)による8世紀の植生・土地利用形態からは、大根島より小さく生成過程も同じと考えられる大根島北東に隣接する江島と比較すれば、その少し以前に火災があった可能性が強く推測され、縄文時代以降にも小規模噴火があった可能性があるようにも思える。(ただし、この場合の火災は人為的なものや落雷等のような原因も考えられるので火山活動があったとは即断はできない。)
謝辞
自然災害@2ch掲示板・[ 火山島・大根島は安全か? ] スレッド及び、Yahoo ! 掲示板・地球科学カテゴリー・ [ 火山島・大根島は安全か? ] トピックス及び、地球科学@2ch掲示板・[小規模・玄武岩溶岩火山の生成原因]で親切に資料の紹介等をしてくださった方々及び、批判をしてくださった方々に感謝する。
*****注釈*****
(注1)台湾の自然科学博物館HP参照 (要 繁体字中国語コード・Big5)
http://www.nmns.edu.tw/89volcano/out-214.htm
(注2)鹿野和彦他(1994)及びその引用する大根島研究グループ(1975)、運輸省第三港湾建設局境港工事事務所(未公開資料)により、複数の溶岩(またはフローユニット)があるとする。
(注3)京都大学防災研究所 地震予知研究センターHP
http://www2.rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp/~sato/tottori/dlf_j.html
防災科学技術研究所
http://www.hinet.bosai.go.jp/topics/tottori001006/lowf.html
(注4)1千万年以上前には四国や近畿中部にも火山があったので山陰は典型的火山フロントと断言はできない。また、鳥取県西部地震余震震源域付近の会見町や中海周辺にはフィリピン海プレート沈み込みによる火山フロントの火山活動より古いと考えられる火山が有る。さらに、中国地方南部の山陽地方の下にはフィリピン海スラブがあるようだが山陰の直下にまで来てるかどうかは疑問である。仮にフィリピン海スラブの先端が山陰まできてたとしても、通常の火山フロントはスラブの先端上でないので、山陰地方は通常の火山フロントの地下構造とは異なる可能性が高い。
(注5)日本火山学会HPでの大根島火山のデータ
http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/tchiba/volcano/kobetsu/id-541.htm
(注6)徳岡隆夫・元・島根大学総合理工学部教授の「大根島・弓ヶ浜の地下水問題」の論稿のある下記HPのGIF画像も参照の事。
http://vege1.kan.ynu.ac.jp/nakaumi/3/tikasui.htm
*****参考文献*****
赤木三郎,1997:鳥取の自然をたずねて,築地書館,p.201,p.205.
鹿野和彦,古田史朗,1985:境港地域の地質、地域地質研究報告 (地質図幅「境港」および同説明書),地質調査所
鹿野和彦他,1994:松江地域の地質、地域地質研究報告(地質図幅「松江」および同説明書),地質調査所
大根島研究グループ,1975:大根島は第四紀の火山である。,地球科学,29,p.297-299
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