[補足1] 台湾-宍道褶曲帯の小規模玄武岩火山のマグマ上昇経路についての考察

(1) 台湾本島北部の小規模玄武岩火山と断層

 台湾-宍道褶曲帯に属する台湾本島北部の小規模玄武岩火山については位置的に断層との対応関係が高く(注1)、マグマが断層破砕帯から上昇したと考えられる。台湾-宍道褶曲帯に属する西日本の小規模玄武岩火山と断層との対応は不明であるが、以下の考察から台湾-宍道褶曲帯に属する西日本の小規模玄武岩火山の場合も伏在断層が関与している可能性が高いと私は考えている。

(2) 西日本の台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山のマグマの上昇経路の形状

 台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山は粘性の低い少量の玄武岩マグマの非定情的噴出によって形成されている。この場合、板状の経路でマグマの上昇が可能であろう。実際、玄武岩マグマが板状経路で上昇しうる事は板状の岩脈の存在で容易に想定可能である。(ただし、地表付近においては台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山のマグマの上昇経路の形状を常に板状とは断定できない。スコリア丘の噴出火口は円形なので地表付近ではパイプ状火道もありうるだろう。)そして、台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山では高温で粘性の低い少量の玄武岩マグマが地下深くから冷却したり周囲の岩石を溶かしたりせずに比較的短期間に上昇して来たと考えられるので、断層のような既存の割れ目を利用して上昇した可能性が高い。

(3) 鳥取県西部地震震源域周辺での岩脈の特定方向の卓越

  服部仁・片田正人(1964)は鳥取県西部地震のあった周辺地域の地質図幅「根雨」に相当する地域では東側半分強で苦鉄質ないし中性岩脈について北北西-南南東の貫入方向が卓越し、地質図幅「根雨」の西半分弱で苦鉄質ないし中性岩脈について西北西-東南東の貫入方向が卓越するとしている。(注2)尚、鶴田玄武岩の越敷野玄武岩台地の火口丘も北北西-南南東の向きに直線的に並んでいる。(注3)

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上の地形図は大山アークカントリークラブ(ゴルフ場)・とっとり花回廊( 鳥取県立フラワーパーク)造成前の旧地形を示す。

また、鳥取県西部の主要河川の日野川と岡山県の主要河川の高梁川・旭川・吉井川には、北北西-南南東の弱いリニアメントを形成してるようにも見える。そして、鳥取県西部地震の余震の微小地震は時々、岡山県の倉敷付近まで現れるようにも見受けられる。(注4)さらに、地質図幅「根雨」の北北西の地質図幅「境港」では北北西-南南東の塩基性・中性岩脈の卓越が指摘され、地質図幅「根雨」の北西の地質図幅「松江」では西北西-東南東の塩基性・中性岩脈の卓越が指摘されている。(注5)特に、地質図幅「境港」北部での北北西-南南東の塩基性・中性岩脈の卓越は2000年鳥取県西部地震震源域からの北北西-南南東の塩基性・中性岩脈の卓越する地質構造の延長の可能性が考えられる。尚、服部仁・片田正人(1964)によれば、岩脈は「一般に岩脈は母岩との間に、薄層の粘土を挟む節理を伴っている。」としており、それは断層粘土の可能性が高く、岩脈の多くは断層破砕帯になっている可能性が高い。実際、服部仁・片田正人(1964)によれば、岩脈の岩石は岩質も不明なほどに著しく風化しているとしており、岩脈と断層破砕帯との対応を裏付けている。そして、井上大栄(2001)は、その具体的事例を示している。(注6)現時点では、断層形成が先か岩脈形成が先かはわからないが、私は断層形成が先のように思える。なぜなら、断層破砕帯が地下水を通す事はトンネル工事関係者に昔から知られており、最近では温泉も断層破砕帯が関係していると考えられるようになっており、また、断層破砕帯から上昇してくるラドンの放射線測定によって断層や温泉を発見する事まで行われている事から断層破砕帯は液体・気体を良く通すと考えるべきなので、台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山の粘性の低い玄武岩マグマも断層破砕帯から上昇してきた可能性は高いと思われる。尚、台湾-宍道褶曲帯に属する西日本の小規模玄武岩火山でもマグマが断層破砕帯から上昇して来たとすれば、神鍋火山群のように直線的ではあるもののばらつきのあるものについては断層面がマグマの上昇しやすい鉛直方向(傾斜が高角度)になりやすい横ずれ断層が伏在断層として地下にあり、横ずれ伏在断層のフラワーストラクチャーによる分岐割れ目からマグマが上昇してきた可能性が考えられる。また、火山群によっては一見ランダムな配列に見えるものは複数の断層やフラワーストラクチャーや伏在断層に誘発された割れ目が関与しているのかもしれない。また、大根島付近の中海湖底について中国電力が断層の有無を調べる調査をし活断層は中海湖底下に存在しないとの報告(注7)をしているが、伏在断層が地下1000m以深だとすれば探査限度外であり、中海の湖底の大部分には大根島玄武岩(注8)があるためその下の地層については音波探査の精度が落ちている疑いがあり、音波探査による断層判読は主観に依存する面があり中国電力の恣意によって見過ごされている可能性もあり、高低差の生じない横ずれ断層が砂泥層にあっては断層破砕帯が存在しないので音波探査では識別困難な可能性もあるので大根島火山の直下に活断層がないとは言い切れない(注9)。また、温泉の場合には活断層でない断層でも近隣の活断層の活動により活性化して温泉が出る場合が有るとの指摘(注10)があり、マグマ上昇においても活断層でない断層が大地震の刺激によってマグマ上昇経路になった可能性も有る。

(4) 台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山にマグマ溜りはあるか?

   台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山の大半には地殻中には定常的なマグマ溜りがない可能性が高いと私は考える。なぜなら、台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山は少量の玄武岩マグマの噴出によって形成されており、少量のマグマが地殻中に定常的に存在して、それが少しずつ噴出すればマグマ溜りでマグマの温度低下が起きたり、地殻を構成する花崗岩等の酸性基盤岩が溶けたりして珪酸比率が高くなり安山岩質もしくはデイサイト質マグマになってしまうからである。つまり、台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山の大半はマグマ溜りが存在したとしても地殻最下部であると私は考える。低周波地震が鳥取県西部地震の前後に震源域近くの地下約30kmの地殻最下部付近で発生した事が観測されている。これはマグマ溜りの存在を示している可能性がある(注11)。ただし、鳥取県西部会見町・溝口町の高塚山の場合には複数回噴火したと推定でき、安山岩質溶岩の噴出もあったと推定されるので安山岩質物質の噴火をした時点では地殻の浅い場所にマグマ溜りがあったと推測する。

(5) 断層の下部はどこまで達しているのか?

   地震計で観測される鳥取県西部地震の震源の深さのみから断層の下部の深度を限定すべきなのか、それとも、断層の下部は温度が高いので明確な破壊が起こらず現在の地震計で観測不能なゆっくりとしたクリープで動いているのか私にはわからない。ただ、すでに述べたように台湾-宍道褶曲帯上の小規模玄武岩火山の大半には地殻中には定常的なマグマ溜りがない可能性が高いと考えられるので断層破砕帯を通ってマグマが上昇したならば、断層の下部は少なくとも地殻最下部に到達している事になる。尚、断層がプレート最下部まで達していてプレートの下部を構成するマントル最上部のアセノスフェアに断層による亀裂が生じた場合でも高温・高圧のため短期間で焼結により消滅するかもしれない。しかし、仮に断層によるマントル最上部のアセノスフェアの亀裂が短期で消滅しても異物質が断層面に残り断層が存在した記憶は残りうるだろう。そう考えると、断層の最下部がプレート最下部まで達していてプレートの下部を構成するマントル最上部も、地殻の地震の前後で地殻の歪に合わせてゆっくりとした断層運動を行いマグマ上昇のポンプ的な作用や摩擦熱による加熱作用をしている可能性も考えられる。(注12)

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注釈

(注1) 第三紀の小規模玄武岩火山については、

中国(台湾)・国立自然科学博物館HP参照

http://www.nmns.edu.tw/89volcano/out-231.htm

台北市立第一女子高級中学地球科学学習HP参照

http://earth.fg.tp.edu.tw/learn/twrock/class1/location14.htm

台湾本島の第四紀の小規模玄武岩火山は草嶺山火山(標高347m、台湾・桃園県大渓鎮) のみであるが、それについいては、

台北市立第一女子高級中学地球科学学習HP参照

http://earth.fg.tp.edu.tw/learn/twrock/class1/location11.htm

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(注2)服部仁・片田正人(1964)地質図幅「根雨」説明書・第10図参照。尚、服部仁・片田正人(1964)は地質図幅「根雨」地域の苦鉄質ないし中性岩脈の方向は基盤岩である花崗岩の主だった節理系とほぼ一致するとしている。しかし、佐藤正(2003)は節理と断層は区別が難しく岩石中の割れ目を厳密に節理と断定するには割れ目の面上に「羽毛状構造」を確認するしかないとしており、たとえば筑波山塊の花崗岩の割れ目の大部分は厳密には断層だとする。この場合、それらを断層と認定すれば地質図幅は断層だらけになって収拾がつかなくなるので、服部仁・片田正人(1964)の花崗岩の主だった節理系と言う場合の節理には厳密な意味での断層も含まれていると見るべきであろう。実際、服部仁・片田正人(1964)には「一般に岩脈は母岩との間に、薄層の粘土を挟む節理を伴っている。」との表現があり、それは断層粘土の存在を意味するものと思われ、服部仁・片田正人(1964)のいう「節理」は厳密には断層も含むものであると考えられる。

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(注3)地質図幅「米子」と2万5千分の1地形図を照合すれば、越敷山と高塚山とその中間の火口(標高270.5m)がほぼ一直線に並んでいるのがわかる。さらに、岡田龍平・山内靖喜(1997)の図によれば越敷山の北北西にさらにスコリア丘があって、4つのスコリア丘が直線的に並んでいる。尚、大山アークゴルフ場造成前の5万分の1地形図では高塚山の南南東に標高254mの丘らしきものがあって、それも直線状をなしていた。(現在は存在しないようである。)

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(注4)たとえば、以下の防災研究所HP・Hi-net地震画像・鳥取県西部:2004年4月5日午前9時15分から2004年4月6日午前9時15分まで参照。鳥取県西部と岡山県北部と中部の微小地震が2000年鳥取県西部地震の延長線上に並んで発生している。

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(注5)地質図幅「根雨」周辺の地質図幅の配列は下記のとおりである。(上が北)

境港

美保関

松江

米子

横田

根雨

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(注6) ただし、私は、日野町久住の断層が出雲地震の震源断層との井上大栄(2001)の結論には同意できない。なぜなら、井上大栄(2001)は電力中央研究所の研究員という立場のためか西暦880年の出雲地震と2000年鳥取県西部地震の被害状況が非常に似ているとウソをついており、しかも、そのC14放射性炭素年代測定の前提条件にも問題があり、リニアメント判読においても第三紀以前の断層の弱線の差別浸食を第四紀の変位としている疑いが濃厚だからである。詳細は私のHPにまとめてある。

http://ss7.inet-osaka.or.jp/~asami/gadenn_innsui/lie_CRIEPI.html

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(注7) 下記の中国電力HP参照。

http://www.energia.co.jp/energiaj/company/atom/atomf-2-90a.html

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(注8) 吹田歩・徳岡隆夫・上野博芳(2001)参照。

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(注9) 島根原子力発電所に関して中国電力が行った地質調査は信頼性が低いとの批判が有るので、私が本文で指摘した以外の点で重大な問題があるかもしれない。

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(注10) 原子力安全委員会HP参照。

http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hlwshop/hlwshop004/7.PDF

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(注11) 下記のHP参照。

京都大学防災研究所地震予知研究センターHP

http://www2.rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp/TOTTORI/dlf_j.html

http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/web_j/hapyo/04/d30.pdf

防災研究所HP

http://www.hinet.bosai.go.jp/topics/tottori001006/lowf.html

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(注12) 防災研究所HP・Hi-net自動処理結果(西日本)において、2004年5月4日11時19分47秒に マグニチュード 2.9、北緯35.216度、東経133.400度、深度186.2kmの深発地震が表示されたので、私は2004年5月14日に指摘した。しかし、私が指摘した翌日(2004年5月15日)に防災研究所はそのデータを消去してしまった。問い合わせた所、速報の自動処理のため間違いだったという事であるがピッタリ2000年鳥取県西部地震の南端に位置したため詳細な再検討を求めたい。

http://www.hinet.bosai.go.jp/eq_inf/hinet/index.php

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参考文献

大田良平(1962):5万分の1地質図幅「米子」、地質調査所

服部仁・片田正人(1964):5万分の1地質図幅「根雨」、地質調査所

岡田龍平・山内靖喜(1997):「越敷原台地」;鳥取の自然をたずねて、p.201-207 築地書館、赤木三郎編

佐藤正(2003):地質・土木技術者のための地質構造解析20講、近未来社

井上大栄(2001):2000 年鳥取県西部地震における地震断層の活動履歴調査.電力中央研究所2001年版研究年報

http://criepi.denken.or.jp/jp/pub/annual/2001/01seika53.pdf

吹田歩・徳岡隆夫・上野博芳(2001):音波データ解析による中海湖底下の大根島火山の広がりと三次元可視化;島根大学地球資源環境学研究報告書(20)p.205-216

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2004年5月20日

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

(談話室)「オクトパスアイランド」 (お気軽にどうぞ)