5.松江軽石(DMP)の給源火山はどこか?

 さて、鳥取県西部の高塚山が安山岩質(注1)のテフラを放出しうる成層火山だとすれば、今まで、検証抜きに松江軽石(DMP)の給源火山を大山(鳥取県)(注2)として扱っていた事の見直し作業が必要になるかもしれない。通常の場合ではテフラの給源火口を特定しなくとも年代測定にさしたる支障のない場合が多いのでテフラの給源火口特定の動機はさほど高くない場合が多いのかもしれないが、松江軽石(DMP)の場合は大根島火山・江島火山において玄武岩層(スコリア層も含む)のすぐ上に降下堆積(注3)しており、連動噴火した可能性もある事から防災上の観点から早急に給源火口特定のための詳細な調査をすべきと考える。松江軽石(DMP)が高塚山から放出された可能性を示唆する理由は既に挙げた上記の理由以外に下記の理由がある。(1)松江軽石(DMP)の鉱物組成も大山のテフラの特徴であるシソ輝石をほとんど含まず、逆にカミングトン閃石(注4)を含む事から単純に大山のテフラと断定できない事を示す。(2)また、高塚山のふもとの鶴田付近で松江軽石(DMP)の層厚は最大級になっている。そして、通常、日本の火山の場合には給源火口の西側には薄く東側に厚く堆積するが松江軽石(DMP)は大山東麓より大山西麓の方が厚く堆積している。ところが、大山のはるか東の京都でもかなりの堆積が確認(注5)されており、松江軽石(DMP)も偏西風で東側に運ばれている。また、低高度・中高度で強い東風が吹いていれば西側の層厚の分布に特定方向の偏りがあるはずなのにそれがない。つまり、低高度・中高度では微風で中高度でキノコ雲のように水平に広がり一部は高高度まで上昇し偏西風に乗って広がった層厚分布と考えると最もつじつまが合う。実際、松江軽石(DMP)の分布は西から高塚山に近づくと高塚山を境に急に層厚が最大級になっているのは西風の影響を受けたものと考えられ、東風で大山から飛んできたと考えるより高塚山から噴出したと考える方が層厚の変化から言えば妥当性が高いように思える。(注6)

上図の「大山軽石」とは松江軽石(DMP)の事である。枠内が5万分の1地形図「根雨」の範囲なので、5mと表示された地点は高塚山のふもとの会見町鶴田東方と思われる。

これはテフラの分布から言うと松江軽石(DMP)の給源火口が高塚山の可能性が高い事を示す。また、町田洋・新井房夫(1992)の「火山灰アトラス」で松江軽石(DMP)の等層厚線図(注7)の西側の同心円状の弧の中心が高塚山付近である事もその可能性を示唆する。(3)さらに、松江軽石(DMP)の最大粒径である約5cm(注8)の粒径の軽石が高塚山のふもとの鶴田の露頭で見つかっている事(注9)も松江軽石(DMP)の給源火口が高塚山の可能性がある事を示す。(4)加藤泰巨(1983)によれば高塚山のふもとの鶴田の露頭で松江軽石(DMP)層中に火山体の物と思われる安山岩の礫がところどころに含まれるとの事であるが、2cmから3cm程度の中身の詰まった礫(注10)は火口からあまり遠くには飛ばないはずなので鶴田の露頭から1km以弱の高塚山が供給源火口として有力であろう。ちなみに大山は鶴田の露頭から約10km以上離れている。(5)山内靖喜・岡田龍平(1997)によれば松江軽石(DMP)の降下堆積中に越敷野玄武岩台地(横田・溝口溶岩)の北西部の朝金断層が断層運動があったとする。これは松江軽石(DMP)の噴出と越敷野玄武岩台地(横田・溝口溶岩)の密接な関係を示すものである。(6)高塚山中腹のスコリア丘にしては特殊な形状(注11)は、浸食されやすい松江軽石(DMP)層という火山灰の存在と、松江軽石(DMP)堆積後に噴出したスコリア層が摩擦の少なく傾斜の有る松江軽石(DMP)の上に堆積したため滑って崩れ落ちたと考えれば説明がつきやすい。(7)高塚山上部のスコリア丘の(頂上の非常に小さな火口を除いた)標高270mから295mの間の平均傾斜はすでに述べたように約26度であり、平均傾斜約25度の神鍋火山群のブリ火山(約17万年前)と比べると、越敷野台地に断層が複数存在し陥没もある事から、神鍋火山群のブリ火山より高塚山の最終噴火年代は新しい可能性が高い。つまり、高塚山上部のスコリア丘の平均傾斜は、松江軽石(DMP)堆積の直後にスコリア丘が形成されたと考えても矛盾しない年代である事を示している。

  しかし、現時点では詳細な調査抜きには松江軽石(DMP)の給源火口を高塚山と断定はできない。なぜなら、高塚山には松江軽石(DMP)のような大量のテフラを放出した火口がないからである。(現在の頂上からすれば火口直径は10m程度であり、小規模玄武岩火山としても火口は非常に小さい。)もっとも、それについても、松江軽石(DMP)堆積後にスコリアと玄武岩溶岩を噴出し松江軽石(DMP)噴出の火口を埋めてしまった可能性も考えられるので、高塚山に十分な大きさの火口がない事をもって大山を松江軽石(DMP)の給源火山と断定もできない。尚、高塚山上部のスコリア丘のスコリア層と松江軽石(DMP)の層序は適当な露頭が存在しないため不明との事である。(注12)

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注釈

(注1) 高塚山の火道に安山岩マグマが供給された直接の証拠ではないが、大田良平(1962)は、地質図幅「米子」での伯耆溝口駅西方(溝口町宇代西方)の安山岩岩脈について、「粗面玄武岩質火山礫凝灰岩を貫き、走向N70°Eで直立し」としており、少なくとも、越敷野玄武岩台地ができた後に安山岩マグマが供給された事を示している。

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(注2) 松江軽石(DMP)を初めて倉吉軽石(DKP)と別個のテフラと認定した町田洋・新井房夫(1979)は分布と粒度だけで松江軽石(DMP)の給源火山が大山(鳥取県)であるのが明らかとするが、分布と粒度については高塚山も有力な給源火山候補となりうる。

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(注3) 大根島研究グループ(1975)[ただし、町田洋・新井房夫(1979)以前のため、松江軽石(DMP)を倉吉軽石と表記している。]、江島火山については、吹田歩・徳岡隆夫・上野博芳(2001)の江島採石場露頭写真参照。尚、沢田順弘・木村純一・山内靖喜・徳岡隆夫(2001)のボーリングコア柱状図によれば松江軽石(DMP)の直下は「スコリア混じりローム」で、その下は「スコリア含む礫層」さらにその下に「ローム層」があってその下が玄武岩となっている。松江軽石(DMP)直下の「スコリア混じりローム」が何か不明であるが、松江軽石(DMP)だとすれば連動噴火した事になる。尚、吹田歩・徳岡隆夫・上野博芳(2001)の江島採石場露頭写真では松江軽石(DMP)の直下が玄武岩である。

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(注4) 町田洋・新井房夫(1979)参照。

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(注5) 地震調査研究推進本部HP(地震関係基礎調査交付金・京都市)

三方・花折断層帯(桃山断層)に関する調査成果報告書

http://www.hp1039.jishin.go.jp/danso/KyotoCity3B/mokuji.htm

における分析結果参照

http://www.hp1039.jishin.go.jp/danso/KyotoCity3B/5-3-4-3.htm

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(注6) 服部仁・片田正人(1964)p.31第16図及び津久井雅志(1984)参照。

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(注7) テフラの等層厚線図は作成者の主観が多く入り、微地形まで考慮すれば不連続な事に留意せねばならない。

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(注8) 津久井雅志(1984)参照。

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(注9) 加藤泰巨(1983)参照。

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(注10) 加藤泰巨(1983)及び加藤泰巨氏に対する電話問い合わせの御回答による。

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(注11) 高塚山中腹はスコリア丘の形状としては異常であり、高塚山は上部のみを非常に小さなスコリア丘と考えるべきであろう。

↑は国土地理院HPより、2万5千分の1地形図を引用。

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(注12) 岡田龍平氏対する電話問い合わせの御回答による。

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参考文献及び参考HP

服部仁・片田正人(1964):5万分の1地質図幅「根雨」、地質調査所

大根島研究グループ(1975):大根島は第四紀の火山である;地球科学29(6)p.297-299

沢田順弘・木村純一・山内靖喜・徳岡隆夫(2001):島根県八束町入江における大根島玄武岩ボーリング調査(1998年)結果の報告

吹田歩・徳岡隆夫・上野博芳(2001):音波データ解析による中海湖底下の大根島火山の広がりと三次元可視化;島根大学地球資源環境学研究

報告書(20)p.205-216

山内靖喜・岡田龍平(1997):米子市南方で新たに見つかった活断層;地球科学51p.133-145

山内靖喜・岡田龍平(1996):会見町の活断層について、島根県地学会会誌11p.21-27

岡田龍平・山内靖喜(1997):「越敷原台地」;鳥取の自然をたずねて(赤木三郎 編)、p.201-207 築地書館

町田洋・新井房夫(1979):大山倉吉軽石層;地学雑誌88(5)p.313-330

町田洋・新井房夫(1992):火山灰アトラス;東京大学出版会

津久井雅志(1984):大山火山の地質;地学雑誌90(9)p.643-658

加藤泰巨(1983):「大山西麓」;続/山陰地学ハイキング(地学団体研究会山陰支部 編)、p.21-29、たたら書房


謝辞

電話での問い合わせに御回答くださった岡田龍平氏と加藤泰巨氏に感謝する。 

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2004年5月26日

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

(談話室)「オクトパスアイランド」 (お気軽にどうぞ)