韓国国会は靖国神社無断祭祀被害者提訴法(仮称)を制定すべき

 

はじめに

    日本の靖国神社は大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国が独立した今でも靖国神社に戦死した韓国・朝鮮出身の兵士・軍属を遺族に無断で祀っている。そして、遺族が合祀取下げ要求しても靖国神社側は不当・傲慢にも祭祀取下げに応じていない。これは韓国・朝鮮人遺族に対する重大な宗教的侵害である。それだけでなく、今でも植民地扱いしてる主権侵害でもある。そのため、私は無断祭祀された被害者が韓国で容易に提訴できるように特別法を制定される事を勧める。尚、この提訴のための特別法制定は内政干渉でも日本の立法管轄権への侵害でもない。なぜなら、主権侵害に対する防衛目的の法であり、しかも、日本側は日本の民事訴訟法118条(注1)の要件を満たさない外国判決の効力を否認できるからである。

    日本はサンフランシスコ平和条約で朝鮮に対するすべての権利、権原および請求権も放棄したので、国家神道として日本政府が設立した靖国神社が韓国・朝鮮出身兵士・軍属の戦死者を無断で祀るのは戦死者の遺族に対する宗教的侵害であるだけでなく、日本政府がそのような宗教的侵害行為を取り締まらずに放置しているのはサンフランシスコ平和条約に違背するものである。しかし、日本は韓国がサンフランシスコ平和条約の締約当事国でない事と靖国神社が日本法上は宗教法人として名目上は日本政府と別個の存在である事を奇貨として、靖国神社の宗教的侵害を取り締まっていない。尚、この靖国神社による無断祭祀問題は韓日基本条約締結に当たって結ばれた「韓日請求権協定」で日本の無償供与・長期低利貸付と引き換えに解決済みとされた事項には含まれてはいない。なぜなら、「韓日請求権協定」は日本がサンフランシスコ平和条約で朝鮮に対するすべての権利、権原および請求権も放棄したのを当然の前提として結ばれ、また、まさか、かつて国家神道により戦意高揚のため創られた靖国神社が第二次大戦後においてまで韓国・朝鮮出身の兵士・軍属を遺族に無断で祀るなどという非常識極まりない事をしてるとは韓国政府は無過失で気づかなかったので、その部分については錯誤無効だからである。(条約法条約・第48条の錯誤による条約の無効については条約法条約の採択前から国際慣習法だった。)

靖国神社提訴で国際裁判管轄を韓国にできるか?

    一定の条件で外国の民事判決に国内でも効果を認める民事訴訟法の規定は、日本の民事訴訟法118条(注1)だけでなく韓国の民事訴訟法217条(注2)にも同様の規定がある。この事は相互主義の基本条件を双方とも満たしている事を意味する。しかも、日本と同様に、韓国の民事訴訟法・第8条及び同法25条1項によれば財産に関する訴えとその併合請求について義務履行地の裁判管轄があり、韓国民法・第467条2項は特定物引渡し以外の債務の弁済は債権者の現住所でなすのを原則と規定するので、成文法上は両国の法規とも慰謝料請求を併合請求する事により韓国での提訴を認めるものとなっている。

    しかし、被告の予測可能性・被告の便宜・乱訴防止・審理の充実等を考えて不法行為責任についての訴訟で義務履行地に国際裁判管轄を認める事が条理から不当な場合には慎重であるべきである(注3)。ただし、日本の最高裁判所はマレーシア航空事件(注4)で日本の最高裁判所も国際裁判管轄については「当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがって決定するのが相当」としており、不法行為に対する損害賠償請求について条理から妥当な場合には義務履行地の裁判管轄も認められる。

        そこで、韓国と日本といずれが法廷地国として望ましいか考えてみる。日本は不法行為地であり被告所在地であるが、不法行為地といっても靖国神社側のこれまでの説明が真実ならば、靖国神社についての証拠調べは「霊璽簿」の検証と宮司等の幹部職員の証言であり、日本で裁判をしても靖国神社が宗教上の理由から「霊璽簿」の提出命令に従わないか、もしくは日本の裁判所が文書提出を命じない可能性がある。逆に、韓国で訴訟をしても、韓国の裁判官が靖国神社に「霊璽簿」の検証に赴く事は可能である。そして、証拠調べで、最も重要な無断合祀の被害者である遺族等の当事者尋問・証言について日本では通訳を介してせねばならず真意が伝わりにくく、韓国人の被害意識が伝わりにくい。また、祭祀権者の確定も現地の方がはるかに容易でしかも、祭祀権を争う第三者が異議を唱えやすい。つまり、不法行為に対する損害賠償事件としては特殊なもので、不法行為地や被告所在地より、原告住所地の方が審理に適するのである。

   また、靖国神社は年間予算が20億円を超え100人以上の職員のいる宗教法人(注5)であり、韓国での訴訟遂行が可能であるのに対し、無断祭祀された韓国の軍人・軍属の遺族は日本に支援団体がなければ弁護士費用・渡航費用・通訳費用等から個人では訴訟遂行が不可能な場合がほとんどである。このことは、日本における支援団体の意向に従って、首相参拝違憲訴訟に従たる扱いとなる危険がある。(というより、現実には首相参拝違憲訴訟がメインであり靖国神社を被告とする無断祭祀取消し請求や無断祭祀慰謝料請求はなされていないようである。)

   さらに、靖国神社は訴外での無断祭祀取り下げ要求を拒否しており、悪質であるので韓国で訴えられないとして靖国神社側の予測可能性や便益を考慮するより、韓国での提訴を認めて無断祭祀された被害者の遺族の便益こそ優先されるべきである。

   しかも、本件は日本の韓国植民地支配が原因であり、第二次大戦終結までの合祀分は日本軍の管轄下にあった靖国神社が合祀しており当時の日本法では提訴できなかったのであるが、仮に、靖国神社が当時から民間の宗教法人だったならば韓国(朝鮮)が日本領だったので韓国(朝鮮)でも提訴可能だった事になる。また、第二次大戦後、韓国独立までに合祀された分については韓国が潜在的日本領だったので提訴可能と考えるべきである。そして、韓国独立後に日本の厚生省の協力によって合祀した分については韓国の主権を無視して無断祭祀したものであり、主権侵害行為から韓国で提訴されても文句の言えないものである。また、日本の民事訴訟法は不法行為に対する慰謝料請求においても義務履行地での提訴を認めており、逆の事例があれば義務履行地すなわち原告住所地での提訴を認めた可能性が高いからである。

靖国神社を提訴するための特別法がなければ大混乱を招く危険有り

   韓国の場合には現行法で韓国国内で靖国神社を提訴可能であり、日本の裁判所もこれを認める可能性は高い。しかし、現時点では提訴可能という事が知られていないためか誰も韓国国内では提訴していないようである。ところが、一旦、韓国内で提訴され、その判決が日本で承認されたとなれば、韓国内で多数の提訴がなされ、審理の基準が不明で祭祀権者と相続人の関係や祭祀権者の確定で問題が頻発したり、国民感情の高まりで過度に懲罰的で高額な慰謝料を認める判決が韓国で出て日本の裁判所がその効力を認めなかったりする危険もある。また、韓国内であまりに多数の訴訟が起こされれば被告の靖国神社にとっても訴訟が無用の負担となる。その大混乱を未然に防止するためにも靖国神社を提訴するための特別法の制定が必要不可欠である。(ただし、特別法を制定してもある程度の混乱は生じる可能性が高い。)

靖国神社を提訴するための特別法による判決を日本は受け入れるか?

   ここで問題なのは、その特別法・靖国神社無断祭祀被害者提訴法(仮称)が日本の民事訴訟法・第118条3号の公序良俗規定に抵触するか否かである。意図的に不当に靖国神社側に不利な裁判を韓国内で押し付けたり、不公正な判決結果をもたらすならば公序良俗に違背するとされるだろうが、公正で迅速で便利で不要な混乱を防止する裁判を目指すものであれば特定当事者を対象とした訴訟上の特別法制定も許されると考えるべきである。よって、公正な審理を目指す妥当な特別法を韓国国会が制定しても日本の裁判所はその判決の効力を否定すべきでない。また、その特別法・靖国神社無断祭祀被害者提訴法(仮称)において、軍人・軍属の戦死者は全て靖国神社に祀られているとの推定条項を設けても、それは公平で妥当な規定というべきである。なぜなら、祭祀されているか否かの証拠は靖国神社にあり、靖国神社による虚偽の証拠提出の危険があるので、靖国神社の無断祭祀の悪質性と日本の厚生省が合祀に協力している事からそう推定するのが妥当だからである。また、特別法で祭祀権者と相続人の関係を定めるのは過度に裁判官の自由裁量が生じて裁判毎にバラツキが生じるのを防止できる。尚、韓国の国民感情の高まりから過度に懲罰的な金額の認定防止のために提訴の請求金額に上限を設け、それを超える分の提訴は日本で行うべきものと私は考える。

追記(法制定において留意すべき点についての私の見解):

(1)訴訟費用は原則として無断祭祀し続けている靖国神社の負担とする事。(ただし、故意または重過失によって遺族でない者が提訴した場合を除く。)

(2)国際法の主権免除により日本国を韓国の裁判所においては被告にできないが、韓国での確定判決を元に日本において日本(政府)に靖国神社の債務について連帯して支払いを求める根拠としての利用は妨げないことを明記する事。

(3)日本の裁判所が公序良俗違背として無効(注6)にしない程度の認定金額になるように無断祭祀されている戦死者一人についての慰謝料総計に上限金額を定める事。それを超える請求分は韓国内で受理せず日本で提訴すべきものとする事。

(4)提訴権者は合祀取消し請求については祭祀権者のみとし、慰謝料請求については祭祀権者および相続人(相続人がすでに死亡している場合においては相続人を相続した者も含む)とし、祭祀権者としての請求上限金額と相続人全員での合計請求上限金額を同じとする事。(祭祀権者が相続人でもある場合には相続人としての資格においても同時に提訴可能とする事)(注7)

(5)戦死者本人または祭祀権者の靖国神社の祭祀に対する明確な同意がある場合には提訴できないとする事。(ただし、日本側の買収や高額の接待または詐欺的行為のあった疑いが濃厚な場合においては相続人は提訴できるとする事。)

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(注1) 下記の日本電子政府・法令データ提供システム・民事訴訟法参照。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H08/H08HO109.html

(外国裁判所の確定判決の効力)

第百十八条  外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。

一  法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。

二  敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。

三  判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。

四  相互の保証があること。

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(注2) 日本語訳につき、現行韓国六法・法務大臣官房司法法制調査部職員 監修・ぎょうせい 参照。

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(注3) 国際裁判管轄については、国際私法概論・木棚照一・松岡博・渡辺惺之 著・有斐閣 及び、

下記の入稲福智氏(平成国際大学法学部助教授)のHP参照。

http://eu-info.jp/ICPL/3.html

http://eu-info.jp/ICPL/4.html

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(注4) 最高裁判所民事判例集・35巻7号p.1224-p.1243・昭和55年(オ)第130号事件・昭和56年10月16日第二小法廷判決参照。

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(注5) 靖国神社 に関するWikipediaのHP参照。

http://ja.wikipedia.org/wiki/靖国神社

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(注6) (日本)民事訴訟法118条3号および下記の平成9年7月11日 最高裁第二小法廷・判決 平成5(オ)1762 判決参照。

http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/0/9e2cb401888aad5449256a8500311db1?OpenDocument

外国裁判所の判決のうち、補償的損害賠償等に加えて、見せしめと制裁のために懲罰的損害賠償としての

>金員の支払を命じた部分については、執行判決をすることができない。

 

上記判決は基本的請求が不法行為に対する慰謝料請求ではなく基本的請求が賃貸借契約に関する損害賠償の訴訟において懲罰的損害賠償を付加する事を否定したものであって、基本的請求が不法行為に対する慰謝料請求においては懲罰的事由が存在する場合において精神的被害の大きくなる特徴があるので、かかる場合にまで懲罰的加重を全面的に否定したものではないと推測されるが、一般的に言って日本の裁判所は懲罰的加重を認めない傾向があるようである。尚、上記判決において民事訴訟法200条は旧法であり、現行法では民事訴訟法118条が対応する。

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(注7) たとえば、無断祭祀されている戦死者Aの妻Bもすでに死亡し、Aの子CとDが相続人でCに祭祀権がある場合で、戦死者Aに関する慰謝料総額上限の75%を祭祀権者であるとともに相続人であるCが請求でき、単なる相続人のDの請求可能分は25%とするのが妥当と思われる。

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2005年7月6日 ( 当初版・2005年6月23日 )

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

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