[注意]: 私が2006年(平成18年)に昭和56年耐震指針の欠陥に対して日本地球惑星科学連合大会で下記の批判(日本地球惑星科学連合大会HPの予稿S107-P029参照)をした直後に原子力安全委員会は欠陥部分を放置・改悪して耐震指針を改定しました。そのため、下記の旧指針の欠陥は現行の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」にも存在します。

[御知らせ]:昭和56年原子力安全委員会制定の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」は原子力安全委員会HPから削除されたようなので、下記の記事を読むのに必要な方は右のパスワード保護ページで、(ID: source, PW: himitsu)と入力してguideline.zipファイル(MD5値:16038F6B2E09597D98CB2491DB0F3DFA)を入手し解凍してください。(再配布される場合は原子力安全委員会に了解を得てください。)

(2012年5月14日追記)


発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(昭和56年原子力安全委員会決定)の欠陥

[要約]

 

昭和56年制定の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」には少なくとも以下の二つの欠陥がある。

 

欠陥の一つは、昭和56年耐震指針は「動的解析」の内容については具体的に規定しておらず、原子力発電所の基礎岩盤に伝わる地震波到達のタイムラグによる(すなわち位相差による)基礎岩盤内での変位の差を考慮したシミュレーションまで要求していない事である。

しかし、鳥取県西部地震では地震被害のほとんどなかった大阪(注1)で、並んで建つ2棟の高層ビルの頂部が空中庭園展望台によって連結された構造を持つ「梅田スカイビル」という大型高層ビルの外壁にひび割れ被害があった(注2)。これは大型建造物の意外な地震に対する弱点を示した実例と私は考える。そして、基礎地盤に伝わる地震波到達のタイムラグによる基礎の変位の差が主たる原因と私は考える。発電用原子炉施設は「梅田スカイビル」より小さいが剛構造でコンクリートが多用されているので基礎岩盤の変位差による影響は大きくなる可能性がある。原子力発電所の場合には、建物構造として見れば軽微な被害でも制御棒システムの機能不全や配管の破損は原子炉の炉心溶融事故を引き起こすので基礎岩盤に伝わる地震波到達のタイムラグによる基礎岩盤内での変位の差を考慮した原子炉格納容器や配管の挙動や原子炉施設の床のひび割れの可能性のシミュレーションが必要である。

 

他の欠陥は、昭和56年耐震指針は立地時の調査で判明した歴史地震と活断層から想定される地震とマグニチュード6.5の近距離地震への耐震性しか要求していない事である。鳥取県西部地震はマグニチュード7.3にもかかわらず、発生以前には対応する歴史地震も活断層も知られていなかったので昭和56年耐震指針では強度不足になる。

ところが、鳥取県西部地震の後、井上大栄(注3)は鳥取県西部地震震央付近を調査し、空中写真から発見した日野町久住のリニアメントの断層が出雲地震時に動いた活断層と推定し[井上大栄(2001)](注4)原発立地時並みの詳細な調査をすれば活断層が発見できたはずとした。しかし、それは誤りである。2000年鳥取県西部地震の被害は主として鳥取県西部で発生し、逆に、880年・出雲地震は出雲地方(島根県東部)のみしか被害報告がないからだ。しかも、当時の伯耆国司や国分寺は優遇措置を受けるために朝廷にこまめに水害・不作の報告をしていた事が判明(注5)しており、地震の被害報告がなかったという事は伯耆地方(鳥取県西部)に被害がほとんどなかった事を意味する。さらに、[井上大栄(2002)](注6)が根拠とした[萩原・他(1982)](注7)は誤差10kmとして鳥取県境から10km以上離れた地点を震央と推定している。矛盾である。また、井上大栄のC14分析による当該断層の最終活動年代推定も、前提条件を欠いている。彼らが試料採取した露頭やトレンチの北西壁面([井上大栄(2002)Fig.9][井上大栄(2001)図-3]参照)は断層を境にして岩盤の「段差」があるので外観上はあたかも「段差」が断層運動によって生じたかのごとく見える。しかし、トレンチの南東壁面([井上大栄(2002)Fig.10]参照)の岩盤の「段差」は断層から少しずれていて玄武岩岩脈と花崗閃緑岩の境界にある。この事は岩盤の「段差」が断層運動でなく断層の弱線にそった差別侵食で生じたものである事を示している。


(注1)大阪府の住家被害は一部破損が1棟、兵庫県の住家被害は無し(内閣府HPによる)

http://www.bousai.go.jp/kinkyu/tottori/tottori1.html

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(注2)NHK大阪放送局「かんさいニュース1番」2000年10月6日放送ニュースによる。

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(注3)電力中央研究所・上席研究員、現・日本応用地質学会会長

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(注4)井上大栄, 2001,  2001年版電力中央研究所研究年報, p.106-107

http://criepi.denken.or.jp/jp/pub/annual/2001/01seika53.pdf

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(注5)「鳥取県の地名」(1992)、平凡社、p.423-424

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(注6)井上大栄 他, 2002, 2000年鳥取県西部地震震源域の活断層調査, 地震, 第54巻p.557-573及び同第57巻(2004)p.69-70

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(注7)萩原尊禮・編著, 1982, 古地震, 東京大学出版会p.142-174

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2006年5月14日

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

(談話室)「オクトパスアイランド」 (お気軽にどうぞ)

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