「一国二制度」の条件を全面譲歩して北京政府は後悔しないのか?

 

  最近まで私は台湾問題平和的解決のため、「一国二制度」について全面譲歩(注)している北京政府の方針が良いと思ってました。しかし、2003年9月の台湾正名運動デモに総統の陳水扁が支持を表明したので、最近は疑問を感じるようになりました。全面譲歩の「一国二制度」は形だけの統一で実質的には独立を認めるのに等しい弱い結合なので礼を失すればもはや成り立たないからです。

  連戦氏が次期総統になれば「一国二制度」を受け容れるかもしれません。(もちろん、国号問題で決裂する可能性もあります。)しかし、仮に「一国二制度」を受け容れても台湾独立運動を処罰する法律は制定しないでしょう。(また、仮にそういう法律を制定しても圧倒的多数の台湾住民が納得して賛成しない限り後のトラブルの原因になります。)ですから、台湾が「一国二制度」を受け容れて形式的に統一した場合でも、その後の状況しだいでは台湾独立運動が盛り上がって独立派の総統が出現する可能性は多分にあるでしょう。 そういう場合には統一後の独立運動となり中国全土への心理的悪影響は大きいでしょう。そして台湾に独自の軍隊の保有を認めていればアメリカの動向しだいでは再度独立を目指す危険すらあります。 (もちろん、楽観的に見れば当初は名目だけの統一であっても台湾で中国人意識が高まれば万事うまくいく可能性もありますが、そういう想定を前提にするのは危険でしょう。)

  さらに、連戦氏が総統になって一国二制度を受け入れた場合、可能性は低いですが何らかの独立運動制限の立法をしても法解釈・運用は台湾当局に任されるわけで、情勢しだいで台湾独立派が勢いを盛り返せば「カラスは白い」「鹿を馬」と言い逃れてザル法になって有名無実なものとなる危険があります。( 尚、北京政府が「一国二制度」の条件で全面譲歩してる事がかえって台湾住民が将来条件を変更して厳しくするのではないかとかだまし討ちをするのではないかと危惧する原因になるとともに台湾住民の増長を招いているのではないかと思います。)

  しかし、いかに不利であっても全面譲歩の条件を提示した以上は国民党の連戦氏が次期総統になって「一国二制度」を受け入れるならば北京政府は約束した全面譲歩の条件で妥協せざるを得ないでしょう。ただ、それを考えると次期総統に陳水扁が再選された方がリスクはあっても、かえって北京政府に有利かもしれないとも私は思います。

  なぜなら、私は、北京政府が全面譲歩(注)して「一国二制度」を台北政府と合意し形だけの統一をして将来に紛争の禍根を残すより、突飛なようですが台湾原住民居住地域の台湾本島東岸・中央山岳地帯・蘭嶼島で国連主導の独自独立・独自統一の選択を問う住民投票を実施する方がリスクはあっても有利だと思うからです。そして、原住民に独立を認める条件として、(1)中国中央政府軍以外の駐留を認めない事と、(2)台湾本島西岸・北岸が中国領である事を認める、という条件を出せば良いでしょう。そして北京政府は漢民族中国人が台湾を侵略し原住民を迫害し図々しくも「台湾人」と自称し中国語福建方言を「台湾語」と称しているのを十分に取り締まれなかった事に遺憾の意を表すべきです。

  台湾では原住民のみが独立しうる正当な権利を持つわけで、原住民が独立すればいくら「台湾人」と言っても漢人移民(侵略者)に独立の大義名分はありません。

  台湾原住民は人口が少ないので北京政府が誠意を持って接して信頼を得れば、条件次第で通貨同盟を結べるでしょう。もし、原住民政府と相互安全保障条約を結べれば、一発の銃弾も一滴の流血もなく台北政府も光復(降伏)してくるでしょう。また、原住民政府と安全保障条約を結べなくとも台湾本島東岸の台東・花蓮の空軍基地から台北政府軍が撤退すれば、それだけでも北京政府が好条件で台北政府に「一国二制度」を結べる可能性が高まるでしょう。さらに、北京政府が幸運に恵まれていれば台湾原住民が住民投票で統一を選択してくれる可能性もあるのです。台湾本島の原住民族の一つでも統一を選択してくれれば一発の銃弾も一滴の流血もなく台北政府は光復(降伏)してくるでしょう。

  ただし、国連主導の住民投票は国連安全保障理事会でアメリカが拒否権を行使すればできません。しかし、台北政府の陳水扁が台湾全体(金門・馬祖・澎湖を含む)の独立の是非を問う住民投票の実行を強行しようとした時点でカウンターで、北京政府が原住民居住地区について一定の条件の下で原住民居住地区の独立の是非を問う国連主導の住民投票を認める用意があると言えば、アメリカも拒否できないでしょう。

  この案の最大の問題は北京政府や中国共産党や人民解放軍や中国本土人民が台湾全体を名目だけの中国領にして将来の紛争の火種を残すより、台湾本島東岸・中央山岳地帯・蘭嶼島の原住民居住地区の独立を認めても台湾本島西岸・北岸の漢人居住地区を完全な中国領にした方が得だという事を理解せねば不可能だという事でしょう。しかし、名目だけ中国領にするというのは昔の中華帝国の冊封体制的発想で経済的利益を与えて結局は独立されたり琉球王国のように他国に併合されたりするだけです。もはや時代遅れの発想でしょう。

 

2004年2月11日

 

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

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(注)台北週報 2012号記事参照によれば、

http://www.roc-taiwan.or.jp/news/week/2012/104.html 

 北京政府は「一国二制度」で台湾に、次の七項目の「維持を認める」と提示している。

 (1)台湾貨幣の使用 (2)軍隊の保有 (3)単独関税区 (4)政府機関の維持 (5)中国大陸での台湾公金の不使用 (6)台湾人民や企業の財産の保全 (7)行政人事の自主権