靖国神社の高砂義勇隊兵士遺族のへの祭祀取下げ要求と原住民の宗教観

 

    日本の靖国神社は日本が台湾の領有放棄した今でも靖国神社に戦死した台湾原住民兵士(高砂義勇隊兵士)を御遺族の台湾原住民に無断で祀っています。そして、台湾の原住民選出の立法委員の高金素梅氏が祭祀取り下げ要求しても靖国神社側は祭祀取下げに応じませんでした(注1)

    多くの日本人は、神社で祀ってもらえるのは結構な事なのになぜ文句を言うのかと思われたかもしれません。ところが、台湾本島の原住民で古来からの民族的宗教観を持っている者の中には、他部族に身内の死者を祀られるのを非常に忌み嫌う者もいるのです。なぜ、忌み嫌うのかというと過去において台湾本島(注2)の原住民には「首狩り」の習慣があったからです。ここで注意すべきは、日本で刑罰として明治初期(19世紀半ば)まで行われていた「晒し首」と「首狩り」が表面的に似ていても日本の「晒し首」のように侮蔑と憎しみ(注3)によって首を展示するのと異なり、台湾本島原住民は捕って来た首(頭部)を畏敬の念を持って祀り、その霊力を自己および自己の集落に取り込もうとした事(注4)に日本の「晒し首」と本質的差異があるのです。逆に言うと、首狩りによって身内が殺された原住民の遺族にとっては身内が殺されただけでなく、他部族に死亡した身内が祀られるのは、その殺害された身内の霊力まで奪われたと感じるのです。

    ここで、靖国神社は本来は国家神道により日本が日本のために戦意高揚・国力増進・国家安泰を願って戦死者を祀った宗教施設なので、台湾原住民遺族がかつて台湾を植民地支配した日本はいまだに戦死した原住民の霊を祀って日本の国力増進のために戦死した原住民兵士の霊力を奪い続けていると被害者意識を持っても不思議ではありません。

    もしかしたら、高金素梅氏らは台湾本島の原住民の宗教観の説明をされてなかったので日本人に台湾原住民遺族の精神的苦痛が日本人に伝わらなかったのかもしれません。台湾本島の原住民の古来の宗教観の説明には羞恥心が伴うだけでなく、原住民古来の宗教に罪悪感(注5)があるため深層心理から呼び起こしてそれを説明するには非常な苦痛を覚えるだろうからです。しかし、無断で身内の死者を他民族に祀られて霊力を奪われたくないとういう台湾本島原住民古来の宗教観は決して恥ずべきものではありません(注6)。ぜひ、靖国神社の横暴を明らかにするため、原住民の古来の宗教観の説明をされる事を高金素梅氏ら靖国神社に祭祀取下げ要求されておられる台湾原住民兵士の御遺族の方々に期待します。

    ここで、まだ、他者に無断で祀られたくないという台湾本島原住民の宗教観が理解できない日本人のために仮想事例による質問をましょう。「もし、仮に、万が一、オウム信者が教祖・麻原彰晃やサリン事件犯の 幹部と共にヒトラーと前・天皇ヒロヒトとあなたの祖先を無断で祀っても不愉快でないですか?」

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(注1) 下記のメールマガジン「台湾の声」バックナンバー参照。

http://www.emaga.com/bn/?2005060047861307001876.3407

>高金素梅氏は地裁で提訴する時、靖国神社へきた。抗議にき

>たのは分っていたが、せっかくきたので丁重に迎え、お話を

>伺った。「自分の縁者の祭神を下ろしてほしい。持ち帰りた

>い」というので断った。

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(注2) 蘭嶼島のヤミ族(タオ族)には首狩りの習慣はなかった。

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(注3) たとえば、明治維新政府は恨みのあった元・新撰組局長・近藤勇を処刑後、彼を侮辱するため彼の首を晒した。

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(注4) 台湾原住民研究・第4号p.120-138, 金子えりか(1999);[ 歴史的な慣習としての首狩り、そして、過去を克服する必要 ] 参照。

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(注5) 現在の台湾本島の原住民の大多数は首の持つ霊力を信じ珍重した原住民古来の宗教が首狩りにつながったとして罪悪感を持ちキリスト教や漢人流の宗教か無宗教になっていると推測される。そのため、原住民古来の宗教観全体を否定的に捉える原住民も多いようである。

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(注6) 首の持つ霊力を信じ珍重した原住民古来の宗教が首狩りにつながったのは事実であって危険な宗教であるのは事実だ。しかし、宗教性はないものの戦いで戦果の証明として首を切るのは日本でも16世紀まで行われていたので首狩りの習慣があった事をもって野蛮と言うべきではない。また、台湾本島で首狩り被害が急増したのは漢人や日本人が原住民居住地に入植し土地を奪った事とアメリカが原住民に連発式ライフル銃という最新兵器を供与したのが原因であり、それ以前は(意図されてはいなくとも)侵入者に恐怖感を与え不要な戦闘を未然に防ぐ自衛的機能があったので、核兵器等の大量殺戮兵器を保有・使用する先進国こそ野蛮であるとも言える事に留意すべきである。日本も過去において中国本土に毒ガス兵器を持ち込んでいたし、霧社事件においては台湾原住民の反乱鎮圧に毒ガスを使用した疑いもある事に留意すべきである。

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2005年6月21日

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

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