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 原子力損害賠償法・第三条の天災「地変」免責規定が被害を増大させた

 

 


東京電力は、「原子力損害の賠償に関する法律」(略称:原子力損害賠償法)・第三条第一項但し書きの「異常に巨大な天災地変」による免責を期待して、最善の防災対策を採らず、自社の経済的便益を防災より優先させたのです。

たとえば、気象庁の緊急地震速報を利用するか、自社もしくは電力各社で共同してJR各社共同のユレダス(UrEDAS)のような地震早期警戒システムを構築し地震波到達前に原子炉停止のための制御棒の早期挿入を実現すべきだったにもかかわらず福島第一原発敷地内の地震計のみに依存し地震波到達後に原子炉停止のための制御棒の挿入をしたのです。(ただし、これについて東京電力は今回の地震では制御棒挿入の遅れによる被害はないと主張しています。)

さらに、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による大津波で福島第一原発の安全上重要な設備に重大な損傷が発生した後も、原子炉の再使用の容易さを優先し、中性子を吸収し核分裂連鎖反応を抑えるホウ酸の注入を速やかにせず津波到達後に核分裂連鎖反応発生させ被害を拡大させたのです。

しかも、免責されるとの期待から原子炉建屋爆発後に事故拡大を防止せず撤退を画策したのです。これは、撤退して被害拡大させても拡大した被害についても免責されると考えたからだと推測されます。(ただし、菅首相に一喝され実際には撤退していません。)

尚、使用済み核燃料プールが原子炉建屋上部にある構造の危険性は以前から指摘されてました。使用済み核燃料プールを原子炉建屋上部に造ったのは異常に巨大な天災地変」による免責を前提にした経済的理由を安全対策に優先させた結果ですが、異常に巨大な天災地変」による免責が法定されてなければ大地震発生時に重大事故を引き起こし巨額の損害賠償の原因となるような設計はなされなかったはずです。そして、使用済み核燃料プールを原子炉建屋上部に設置した構造が今回の福島第一原発事故の被害を拡大させているのです。

 

以下において、原子力損害賠償法の天災免責規定による免責を期待して防災より自社の経済的便益を追及した東京電力への免責適用の可否について論じます。


(総務省の運営するe-Gov・法令データ提供システム・原子力損害の賠償に関する法律・参照)

[ 原子力損害の賠償に関する法律・第三条第一項 ]

原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。

ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。


1. 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が 「異常に巨大な天災地変」に該当するか否か

ここで、上記の原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの条文での「異常に巨大な天災地変」について、政府は「異常に巨大な天災地変」とは「隕石(いんせき)の落下や戦争などを想定したもの」(文部科学省幹部)として、政府は2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震後に起きた福島第一原発の事故への原子力損害賠償法の免責規定の適用について否定的見解を表明しています(注1-1)

ところが、原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの条文が「天災又は社会的動乱」とはなっておらず、天災地変又は社会的動乱」となっており、わざわざ「地変」という語句を付け加えている事から、第三条第一項但し書きの「異常に巨大な天災地変」には巨大地震が含まれるのは字義の上から明白です。「異常に巨大な天災地変」とは「隕石(いんせき)の落下や戦争などを想定したもの」(文部科学省幹部)(注1-1)という発言は真相隠しのためのその場しのぎの大嘘です。(goo辞書の「地変」には[火山の噴火や地震、土地の陥没や隆起など、地上に起こる変異。地異。「天災―」]とあります。)文部科学省幹部がわざわざ天災地変」となっている意味を知らないはずはありません。だまされてはいけません。  文部科学省は地震後に核分裂連鎖反応が起きていた証拠となるキセノン133のデータを隠そうとしていたのです。彼らは、油断させといて、後でドンデン返しをするつもりなのです。

また、枝野官房長官は福島第1原発の事故を巡る東京電力の損害賠償責任について「安易に免責の措置が取られることは、この(事故の)経緯と社会状況からあり得ないと、個人的な見解として思っている」(注1-2)と、あたかも部外者であるかのごとき内容を社会的状況のようなあいまいな基準まで持ち出して個人的見解として公の記者会見で述べています。訴訟になれば政府・国は当事者として東京電力の免責を不可とすべきと国民・納税者を代表して確固たる主張として述べる義務があるにもかかわらず、楽観的観測を部外者のごとく無責任に述べているのです。彼が官房長官でなく弁護士として法律相談を受ければ、そのような無責任な楽観的発言はしないでしょう。尚、弁護士である枝野官房長官の発言は訴訟の実際において、被害者側の訴訟代理人・弁護士にとっては損害賠償が東京電力から支払われようが国(要するに増税)から支払われようが職務上問題とならない点を熟知した上での発言と思われます。

枝野官房長官や上述の文部科学省幹部の発言は、その場しのぎの世論対策のうわべだけの強硬発言にすぎず、東京電力が大津波後に福島第一原発の原発施設に重大な損傷が生じたのに免責規定を奇貨として最善の防災対策をせず被害を拡大させた真相の解明を回避し、後日に東京電力を有利にさせる計略の疑いが濃厚です。後日の訴訟で通用しない口先だけの強硬発言をして国民を安心させ、政府・民主党は原発推進してきた自民党と結託して特別立法し、「当面の肩代わり」として原発事故被害者に数兆円支払い、結局は、東京電力が数十年かけても裁判で決着をつける方針をちらつかせ、数年後に原子力損害賠償紛争審査会が東京電力に甘い和解案を示して決着し、数兆円の損害賠償の大部分が国の負担として増税で賄われる結果になる公算が高いと私は危惧します。(ただし、出荷停止させた農産物・水産物の対価については出荷停止の実効性を確保するため「当面の肩代わり」もやむをえないと考えます。)政府の強硬発言は、その場しのぎに納税者をごまかす方便にすぎないのです。強硬に見えても実は世論を納得させ政府による「当面の肩代わり」を容易にする東京電力に甘い茶番劇・狂言の可能性が高いと私は推測しています。日本人は政治的な事柄に関しては物忘れが激しいので数年後に原子力損害賠償紛争審査会が東京電力に甘い和解案で決着させても大きな問題にならないからです。

政府は福島第一原発事故について、原子力損害賠償法であらかじめ予定されている「賠償措置額」の1200億円を超える支出をする場合、原発推進政策継続のために、福島第一原発周辺の福島県民だけを津波で壊滅的被害を受けた岩手県民や宮城県民より優遇したり、地震と無関係の他の公害被害者より優遇したりすべきではありません。(ただし、出荷停止させた農産物・水産物の対価については出荷停止の実効性を確保するため「当面の肩代わり」もやむをえないと考えます。)福島第一原発周辺の住民の大半はたとえ消極的にせよ、また、政府と東京電力の原発安全広報にたとえ騙されたにしても、原発建設を容認したり、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)発生以前に福島第一原発に関連して何らかの経済的便益を受けている者が相当数いるからです。東京電力が倒産も国有化もされずに不当に免責された場合、政府が福島第一原発事故について原子力損害賠償法であらかじめ予定されている「賠償措置額」の1200億円を超える支出をすれば、増税として納税者の負担となるのみならず、岩手県・宮城県の被災者支援や復興支援が手薄になるという不公平な結果をもたらすでしょう。

3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)を(文部科学省幹部発言のように)「隕石(いんせき)の落下」に限定するというのは裁判では通用しないでしょう。なぜなら、法律条文中にも「原子力損害の賠償に関する法律施行令」(e-Gov・法令データ提供システム参照)条文中にも「原子力損害の賠償に関する法律施行規則」(e-Gov・法令データ提供システム参照)条文中にも特に定義がないので通常の語義や法制定時の国会での議論が基準になります。しかも、政府は不完全な地震対策しか要求していなかったのです。それが巨大地震発生後に一転して、「異常に巨大な天災地変」を「隕石(いんせき)の落下」に限定する文部科学省幹部の表明した見解は法解釈の基準たりえません。

今回の東北地方太平洋沖地震は被害の規模・範囲からすれば、確実な被害記録が残存している17世紀以降では最大でしょう。そういう意味で東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は異常に巨大な天災地変」と認定すべきです。しかし、福島第一原発のあった福島県太平洋岸は岩手県太平洋岸や宮城県太平洋岸に比べ地震の揺れや津波の高さが若干緩やかだった事も考慮せねばなりません。

過去の国会答弁(注2)や内閣府原子力委員会の見解(注2)では、地震の場合には「関東大震災の3倍以上」を基準にしているので、それが基準として有力になるでしょう。3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震はエネルギー規模や地震動の陸上での最大加速度はいずれも関東大震災の推定値の3倍以上です。ただし、震源が福島第一原発から離れており福島第一原発での加速度は関東大震災の地震動の推定最大加速度は超えているものの3倍にはなりません。尚、原発周辺の震度は6強であったため関東大震災では震度7の地域もあったと推定されているので、地震動の強さだけでは原発周辺地域は関東大震災で最も揺れの激しかった地域より揺れが弱かった可能性もあります。原発周辺の震度は6強であったので地震の揺れだけでは福島第一原発敷地において異常に巨大な天災地変」との認定は困難です。(尚、福島第一原発周辺の震度は6強であったのに福島第一原発での加速度は関東大震災の地震動の推定最大加速度を超えているのは福島第一原発の地盤等に問題があった可能性があります。)

岩手県太平洋岸及び宮城県北部太平洋岸の三陸海岸ではリアス式海岸の入り組んだ地形により津波が湾奥で波高が増幅される事から、明治以降も「明治三陸地震」「昭和三陸地震」「チリ地震」で大津波を体験しています。今回の東北地方太平洋沖地震の津波の遡上高は岩手県宮古市の重茂半島・姉吉地区で38.9mが観測 (注3)され、数値上は本州の津波の遡上高の最高記録を観測しましたが、実は同じ岩手県宮古市の重茂半島・姉吉地区の津波石碑はさらに沢沿いの坂道の上方にあり、「明治二十九年にも、昭和八年にも津浪は此処まで来て」と記されている事 (注4)から、研究者が念入りに津波の遡上高を調べた今回の東北地方太平洋沖地震の津波の遡上高よりも過去の「明治三陸地震」「昭和三陸地震」の津波の遡上高が上回っていた可能性もあります。

尚、沖縄県石垣島では琉球王国時代の1771年4月24日の「明和の大津波」で遡上高85.4m (注5) を記録しています。これは今回の東北地方太平洋沖地震の遡上高の38.9m (注3)大幅に上回っています。

しかし、今回の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による福島第一原発事故発生まで政府が原発推進策を採ってきた事は解釈において考慮されるべき要素となりえます。また、条文の文言が「巨大」となっており局所的な強度より規模の大きさに重点を置いた表現となっている事も考慮されるかもしれません。(ただし、原発に対する地震や津波の場合には規模より局所的な強度の方が重要ですので地震や津波被害の場合には解釈において条文の「巨大」という文言を「極めて強力」と読み替えるべきという考え方もありえます。)

さらに、岩手県太平洋岸及び宮城県北部太平洋岸の三陸海岸での大津波や石垣島の「明和の大津波」 (注5) では津波が地形(海底地形を含む)によって増幅されており福島県太平洋岸のように単調な直線的海岸線に面した福島第一原発と単純比較には問題があります。また、遡上高は潮位より大幅に高くなりやすい傾向があります。ただし、瞬間的な敷地への浸水の場合には15mの高さまで浸水しても潮位が10m未満であった可能性があります。

もし仮に福島第一原発付近で標準的構造の検潮所が存在したと仮定して最高潮位が10mを越えていたであろうと今後の調査で推定され、かつ、東京電力が「明和の大津波」が石垣島の地形(海底地形を含む)の特殊性によって遡上高を大幅に増大させたと立証し、かつ、福島県太平洋岸ではそのような大幅増幅がありえないと立証できるならば、今回の東北地方太平洋沖地震による福島県太平洋岸での大津波を「異常に巨大な」大津波と認定される余地があります。

上記の条件を満たし、かつ、今後の調査によって、今回の東北地方太平洋沖地震による大津波の福島県太平洋岸での潮位が最終氷河期以降で最高の潮位であったと認定されれば、今回の福島第一原発事故について「異常に巨大な天災地変」と認定するのが妥当と私は考えます。(私は今回の東北地方太平洋沖地震による大津波の潮位が福島県太平洋岸では最終氷河期以降で最高の潮位だった可能性が高いと推測しています。)


2. 浸水対策の不備について

東京電力は、今回の福島第一原発の事故は、東北地方太平洋沖地震によって生じた大津波によってタービン建屋が浸水し、タービン建屋にあった非常用発電機が使用不能になった事が原因と主張しています。

しかし、非常用発電機はタービン建屋の地下にあり、海に面した建物の地下に十分な浸水対策もせずに安全上重要な機器を設置したのは過失です。特に、たとえ瞬間的に標高15mまで浸水したとしても、(標準的構造の検潮所が原発敷地内に存在したと仮定した場合の)津波の潮位が周囲の地面の標高10mより低かった場合、極めて重大な過失です。なぜなら、そのように浸水しやすい構造なら、大津波より発生頻度がはるかに高い大型台風の直撃を大潮満潮時に受けても浸水した可能性があるからです。

原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの「異常に巨大な天災地変」による免責は不可抗力が前提になっているので、比較的少額で済む浸水対策を怠った原因が、天災による免責規定を期待しての経費節減だったのか、それとも設計者や東京電力歴代経営者や福島第一原発歴代所長等の無能だったのかのいずれであるにせよ、重過失が存在する場合には免責されないと考えるべきです。


3. 免責規定悪用によって被害拡大させた分は免責されない

しかし、東北地方太平洋沖地震直後に東京電力が防災を最優先にして対策をすれば、放射性物質の放出・流出が少なくて済んだ事から「異常に巨大な天災地変」が起きた事をもってただちに免責とするのは不合理なのです。

問題は、東京電力が原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きによる免責を期待して防災より自社の経済的便益を優先させたために被害を増大させたのです。法的には、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きは不可抗力を明示していないので単に「異常に巨大な天災地変」が起きれば即免責されるのか、それとも「異常に巨大な天災地変」によってだけでなく重過失によって被害を拡大させ場合には不可抗力では無いので免責されないのかが問題となるでしょう。経済的には巨額の損害賠償を税金で負担するのか東京電力の株主が負担するのかの問題になります。東京電力が原子力損害賠償法・第三条の免責規定を奇貨として防災より原子炉の再使用の容易性を優先(注6)させ、被害を大幅に拡大させたなら免責されないと解釈すべきです。

最大の問題は事実認定です。東北地方太平洋沖地震発生当日の2011年3月11日に各原子炉に中性子を吸収し核分裂連鎖反応を抑えるホウ酸を注入しなかった(注6)事によって核分裂連鎖反応停止が遅れ発熱大幅増加を招いたか否かです。免責規定がなければ巨額の損害賠償を恐れ、安全最優先で大地震と大津波で安全上重要な設備に重大な損傷が生じればすぐにホウ酸を注入したはずです。ところがホウ酸注入が遅れたのです。そのホウ酸注入の遅れが被害増大したかの事実認定がポイントなのです。

私は3号炉について3月13日・14日に核分裂連鎖反応が起きた事を別記事[3月14日爆発時放出キセノン133は前日の弁開放後の連鎖反応で生成]で示しました。それによって、3月14日に起きた3号機建屋爆発で大気中に放出された放射性物質によって引き起こされた被害については東京電力が損害賠償責任を負うべきでしょう。

しかし、重大な漁業被害を引き起こすであろう海水への放射能汚染水流出の最大の原因が2号機の損傷と現時点では推定される事から、2号炉で核分裂連鎖反応が起きて損傷を引き起こしたか否かの事実確認が重要になります。私は2号炉でも核分裂連鎖反応が起きた可能性があると考えていますので、私は政府に対し確実な証拠を得るために福島第一原発2号機タービン建屋地下で核分裂連鎖反応で生成される気体のキセノン133の放射能濃度測定を早急に実施する事を強く要求します。(また、ついでに福島第一原発1号機タービン建屋地下でもキセノン133の放射能濃度測定を早急に実施する事を要求します。) ちなみに、私は4月11日に東京電力に福島第一原発1号機・2号機タービン建屋地下の床付近のキセノン133の放射能濃度を早急に測定・公表する事を要求しましたが、東京電力はそれに難色を示しています。

また、使用済み核燃料プールを原子炉建屋上部に造ったのは異常に巨大な天災地変」による免責を前提にした経済的理由を安全対策に優先させた結果ですが、異常に巨大な天災地変」による免責が法定されてなければ大地震発生時に重大事故を引き起こし巨額の損害賠償の原因となるような設計はなされなかったはずです。よって、たとえ国の審査で長年にわたって許容されていたとしても国の審査は最低基準である事を考慮すれば、使用済み核燃料プールを原子炉建屋上部に造った事による被害拡大も免責の対象とはなりえないでしょう。


4. 事前の過失について

尚、原子力損害賠償法第三条第一項本文が過失の有無にかかわらず責任を規定している事から、原子力災害の場合には通常の災害の過失責任より重い無過失責任を要求しているため、上記のような原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定を奇貨として悪用し事後的に被害を拡大させた場合のみならず、事前の過失によって被害を発生させていない事が要求されるとの法解釈もありうるでしょう。

この法解釈を前提とすれば、地震後に核分裂連鎖反応が起きた事が1号機・2号機で証明されなくても、地震前の過失の存在と被害との因果関係が証明されれば東京電力は1号機・2号機によって発生した被害にも負う損害賠償責任を負うことになるでしょう。この場合、少なくとも次の二点が問題となるでしょう。

まず、東京電力は事前に耐震対策が不十分である事を知りながら、東京電力が他の電力各社と共同で設立した電力中央研究所の研究員・井上大栄が不正な論文を発表(注7)した事により、東京電力が低い耐震性を正当化して耐震性が低いまま操業し、それが原因で大津波被害だけの場合に比べてより大きな被害を発生させた疑いがあるのです。東京電力は地震後に発生した大津波による電源喪失が事故の原因のすべてであるかのごとく公表していますが、実は地震発生時の地震動によって大津波到達以前に1号機の配管が破損(注8)しており、それによって1号機の冷却水の水位が低下(注9)し、電源喪失のみの場合より大きな被害を発生させた疑いがあります。

また、大津波が想定外だったと東京電力は主張していますが、産業技術総合研究所の活断層・地震研究センターの岡村行信センター長が福島第一原発の想定津波の見直しを迫ったが聞き入れられなかった事実(注10)があり、もし仮に、この事実が過失と認定され事故の被害との因果関係が認定されれば東京電力は全面的な損害賠償責任を負うでしょう。

尚、3号炉について3月13日・14日に核分裂連鎖反応が起きた原因の特定は困難ですが、もし仮に原因が制御棒不完全挿入だとすれば、安全最優先なら緊急地震速報を利用して地震波到達前に原子炉停止させるべきところ誤報で停止させると経済的損失発生するので利用せず、福島第一原発敷地内の地震計で地震波到達を感知してから停止させていた事も東京電力が原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの免責規定を奇貨として防災より自社の経済的便益を優先させたために被害を増大させた事になります。


5. 天災免責規定の危険性

尚、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定が上記の被害拡大を招いただけでなく、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定を奇貨として、東京電力は福島原発の被害拡大防止対策をせずに作業員全員の撤退をしようとして、たまたま大学時代に応用物理を専攻し「僕はものすごく原子力(分野)は強いんだ」と自負する菅首相(注11)に「撤退したときは東電は100%潰れる」と免責規定不適用を以って脅され撤退を思い止まり被害拡大防止対策をしたのです(注12)。被害拡大防止せず放置撤退しても免責されたなら撤退していたのです。

この撤退の画策も、東京電力が異常に巨大な天災地変発生なら即免責されると考えたのが原因でしょう。撤退して被害拡大させても拡大した被害についても免責されると考えたからだと推測されます。

危険を伴う作業を社員や協力企業社員にさせれば短時間の作業に対して人件費を大幅に割り増しせねばならず、死傷したり後遺障害が出れば高額の補償せねばならないからです。(外部の住民に対しては免責されても内部の従業員等に対しては免責されないとの計算が働いたものと思われます。)もし、東北地方太平洋沖地震が起きた3月11日以前に支持率低迷していた菅首相が辞めていて後任の首相が原子力に疎ければ東京電力に丸め込まれていたと思うと空恐ろしい事です。

今回の福島第一原発事故で原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの天災免責規定がいかに危険で廃止すべき規定かという事が明らかになったのです。

ちなみに、福島第一原発担当の原子力安全保安院の検査官7人全員は福島第一原発事故後に福島第一原発から約60km離れた福島市まで実際に避難していたそうです。原発の専門家は原発事故の危険性を認識しているので「敵前逃亡」するのでしょう。


6. 東京電力が天災免責規定援用と権利の濫用

東京電力は、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定の存在に安心して、防災より自社の経済的便益を優先しており、原子力損害賠償法第三条第一項但し書きの免責規定援用するのは権利の濫用として許されない可能性があります。


7. 関連学会・原子力安全委員会委員への不正な働きかけの有無の調査の必要性

電力中央研究所の研究員・井上大栄の不正な論文発表に関して東京電力の関与の有無の調査をすべきです。また、関連学会関係者や原子力安全委員会委員に何らかの不正な働きかけをしていなかったかの調査もすべきです。なぜならば、私が地学関連分野で知る範囲だけでも原子力安全委員会が制定した現行の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」にはマグニチュード7の原発直下地震対策が盛り込まれず、原発基礎岩盤に伝わる地震波到達のタイムラグによる(すなわち位相差による)基礎岩盤内での変位の差を考慮し冷却系・制御系も含めた全体としてのシミュレーションまで要求されておらず、さらには以前の昭和56年制定の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」にあった原発の重要な建物・構築物は岩盤に支持させなければならないという規定の消滅という条件緩和の改悪まであったからです。

東京電力等の電力各社は、地震が原因での原発事故では、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の条件さえ満たせば、原子力損害賠償法・第三条第一項但し書きの条文での「異常に巨大な天災地変」としての免責が受けれると考えていたと推定され、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の条件の緩和に関与したか否か考慮されるべきだからです。


8. データ隠匿・改竄の有無の調査の必要性

電力各社は過去においてデータの捏造をしています。東京電力も2002年には「原発トラブル隠し事件」が発覚(注13)し、水力発電用ダムについても2006年にデータ改竄が発覚(注14)しています。東京電力には遵法意識の低い企業風土があるのです。

そのため、東京電力が今回の事故で開示した資料に改竄がないか十分な調査が必要です。企業の存亡がかかるほどの巨額の損害賠償や刑事責任がかかってますので、通常時よりはるかに隠匿・改竄の動機が強いからです。

特に、制御棒挿入の遅れによる不具合を示すデータや3号炉以外では許可されていないMOX燃料を他の原子炉で使用していなかったかについては厳重に調べる必要があります。


9. 高濃度放射能汚染水保管場所確保のための大量の低濃度放射性廃液の意図的海洋投棄が緊急避難の要件を満たすかの確認の必要性

東京電力は高濃度放射能汚染水保管場所確保のための大量の低濃度放射性廃液の意図的海洋投棄をしました。これについて緊急避難の要件が満たされるか確認する必要があります。タンカー購入して一時保管し、その後処理する余裕がなかったのか等の他のより害の少ない方策の有無や緊急性を東京電力は十分に立証する義務があります。特に、緊急避難を口実に高額の費用を要するタンカー購入して一時保管後処理する方法を回避しようとして緊急性が低いのに意図的に海洋投棄していなかったか厳密に調査すべきでしょう。


10.  政府の過失によって被害拡大した部分がある場合について

政府の過失によって被害拡大した可能性もあります。たとえば、原子力安全・保安院は福島第一原発3号機建屋爆発直後で爆発で放出された放射性物質の大部分が降下する以前の14日午後0時すぎに記者会見し、福島第一原発3号機の爆発に関し、「(3号機)1階の建屋近くのモニタリングでは、1時間当たり20マイクロシーベルトで、年間浴びて全く問題のない数値の50分の1程度の小さなものだった」と述べ(注15)福島第一原発周辺住民を安心させた事によって、14日正午時点で避難をしていなかった福島第一原発周辺住民の一部の避難が遅れ放射性物質の大量降下時(注16)に放射性物質大量吸入した可能性があります。また、マスコミや御用学者と共に、一時間当たりの空間放射線量の値と医療検査用X線撮影やCTスキャンの被曝量を比較し、一時間当たりの空間放射線量値がガス・マスクか空気ボンベを使用した場合の一時間のみの外部被曝の数値でありガス・マスクや空気ボンベを持たない一般住民の呼吸による内部被曝や長時間被曝を考慮してない数値である事を説明せず、安全性のみ強調した事によって避難が遅れた福島第一原発周辺住民がいた可能性もあります。

しかし、この場合も、被害の直接の原因は福島第一原発事故であり、また、政府が誤った広報をした場合に東京電力は訂正可能であったため東京電力は政府の広報の誤りを訂正すべきでしたので、上記のようなケースでは政府の過失によって被害拡大した場合でも東京電力は免責されません。


2011年4月19日 (2011年4月10日当初版)

目次

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp


御意見はメールもしくは、外部リンクの★阿修羅♪掲示板における私の投稿記事[原子力損害賠償法・第三条の天災免責規定が被害大幅増大させた疑い] でコメントしてください。


(注1-1) 下記の毎日新聞社HP記事参照。

http://mainichi.jp/select/biz/news/20110324ddm008040086000c.html

>「異常に巨大な天災や社会的動乱」が原因の場合は、例外規定として電力会社の代わりに国が賠償するが、

>政府は「隕石(いんせき)の落下や戦争などを想定したもの」(文部科学省幹部)と例外規定は適用しない方針。

 

(注1-2) 下記の毎日新聞社HP記事参照。

http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110326k0000m020051000c.html

> 枝野幸男官房長官は25日の記者会見で、福島第1原発の事故を巡る東京電力の損害賠償責任について

>「安易に免責の措置が取られることは、この(事故の)経緯と社会状況からあり得ないと、個人的な見解として思っている」と述べ、

>原子力損害賠償法に定められた免責措置を東電に適用することには慎重な姿勢を示した。

 

(注2)  下記の内閣府原子力委員会HPの「第3回原子力損害賠償制度専門部会議事次第」記事参照。

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/songai/siryo/siryo03/siryo3-1.htm

>異常に巨大な天災地変は、日本の歴史上余り例のみられない大地震・大噴火・大風水災等をいう。

>過去の国会答弁では、関東大震災の3倍以上と述べられており、関東大震災は巨大ではあっても

>異常に巨大なものとはいえないと解している。

 

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/songai/siryo/siryo03/siryo3-6.htm

>「異常に巨大な天災地変」とは、一般的には日本の歴史上余り例の見られない大地震、大噴火、大風水災等が考えられる。

>例えば、関東大震災を相当程度(約3倍以上)上回るものをいうと解している。

 

(注3) 下記の読売新聞HPニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110415-OYT1T00389.htm?from=main1

> 東日本大震災の津波が、岩手県宮古市の重茂(おもえ)半島で38・9メートルの高さまで達していたことが、東京海洋大学の岡安章夫教授の調査で分かった。

> 岸から400メートル離れた同半島の姉吉漁港近くの山の斜面で、津波によって木が倒れていることを発見した。

 

(注4)  下記の河北新報社HPニュース記事参照。

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1062/20110410_21.htm

>◎宮古・姉吉地区/「此処より下に家を建てるな」 石碑の警告守る

>・・・・・(中略)・・・・・

>津波は今回、漁港から坂道を約800メートル上った場所にある石碑の約70メートル手前まで迫ったという。

>・・・・・(中略)・・・・・

>姉吉地区に立つ「大津浪記念碑」の全文は次の通り。

>高き住居は児孫の和楽/想(おも)へ惨禍の大津浪/此処(ここ)より下に家を建てるな/

>明治二十九年にも、昭和八年にも津浪は此処まで来て/部落は全滅し、生存者僅(わず)かに前に二人後に四人のみ/

>幾歳(いくとし)経るとも要心あれ

 

 

下記の読売新聞HP記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110329-OYT1T00888.htm

> 「此処(ここ)より下に家を建てるな」――。

>東日本巨大地震で沿岸部が津波にのみこまれた岩手県宮古市にあって、重茂半島東端の姉吉地区(12世帯約40人)では全ての家屋が被害を免れた。

>1933年の昭和三陸大津波の後、海抜約60メートルの場所に建てられた石碑の警告を守り、坂の上で暮らしてきた住民たちは、改めて先人の教えに感謝していた。

 

(注5)  下記の「さとやま八剣山」ホームページでのS. KAMEWADA氏作成 [ 八重山の明和大津波 ] PDFファイル参照。

http://www.raax.co.jp/sato8/yaeyamaootsunami.pdf

 

(注6) 中性子を吸収するホウ酸注入すると核分裂連鎖反応を抑えれますが、その後、(あのように原子炉が壊れなければ)原子炉を再使用するには中性子を吸収するホウ酸を原子炉から完全に除去しないと発電効率が落ちるので、原子炉へ早期のホウ酸注入をしなかったものと推定されます。

 

(注7) 私のホームページ記事[原子力発電を支持する電力中央研究所論文のウソ]参照。尚、私は当該記事の存在を電力中央研究所に通告し、地球惑星科学2006年連合大会で指摘の発表をしており、東京電力は知っていた可能性が高く、仮に知らなかったと仮定しても知らなかった事は業務上の過失と認定されるべきです。

 

(注8) 下記の読売新聞HPニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110316-OYT1T00550.htm

 

(注9) 下記の4月8日NHKニュース記事参照。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110408/t10015172911000.html

>NHKが入手した資料には、地震当日の先月11日に福島第一原発の1号機から3号機で測定された原子炉の「水の高さ」や

>「圧力」などの値が示されていますが、東京電力などは、これまで地震の翌日以降の値しか公表してきませんでした。

>資料によりますと、1号機では、地震発生から7時間近くたった午後9時半に、原子炉の中で核燃料が露出するまでの水の高さが

>残り45センチとなり、通常の10分の1程度に減っていたことが分かりました。

>1号機から3号機では、地震と津波によってすべての電源が失われ、2号機と3号機では非常用の装置で原子炉を冷やし、

>水の高さが4メートル前後に維持されていました。

>これに対し1号機では、地震当日の夜までに、すでに安全のために最も大切な「冷やす機能」を十分に保てなかったことになります。

>また核燃料が水から露出するまで、2号機と3号機では、地震から1日半から3日程度かかっているのに対し、

>1号機では18時間ほどしかありませんでした。

 

(注10) 下記の読売新聞HPニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110330-OYT1T00133.htm

>福島第一原発を襲った今回の津波について、東京電力は「想定外」(清水正孝社長)としているが、

>研究者は2009年、同原発の想定津波の高さについて貞観津波の高さを反映して見直すよう迫っていた。

>しかし、東電と原子力安全・保安院は見直しを先送りした。

>・・・・・(中略)・・・・・

>貞観津波クラスが、450〜800年間隔で起きていた可能性がある。

>産総研活断層・地震研究センターの岡村行信センター長は同原発の想定津波の見直しを迫ったが、聞き入れられなかったという。

 

(注11) 下記の朝日新聞HPニュース記事参照。

http://www.asahi.com/politics/update/0316/TKY201103160463.html

>首相「僕はすごく原子力に強い」 内閣特別顧問に語る

 

(注12) 下記の読売新聞ニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110317-OYT1T00148.htm

>14日夜、東電の清水正孝社長と枝野官房長官、海江田氏が電話で連絡を取り合った。

>政府側は「燃料棒露出を受け、東電側が作業員全員の撤退を申し出てきた」としている。

 

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110315-OYT1T00273.htm

>首相は、「(原発対応は)あなたたちしかいないでしょう。(原発からの)撤退などあり得ない。覚悟を決めてください。

>撤退したときは東電は100%潰れる」とまくし立てた。首相の叱責する声は、会議室の外まで響き渡った。

 

(注13) 下記のwikipedia「東京電力原発トラブル隠し事件」参照。

http://ja.wikipedia.org/wiki/東京電力原発トラブル隠し事件

 

(注14) 下記の東京電力ホームページ記事参照。

http://www.tepco.co.jp/cc/press/07011001-j.html

>当社渋沢ダム報告データの改ざんに関する調査報告書の提出について

 

(注15) 下記の読売新聞ニュース記事参照。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110314-OYT1T00398.htm

> 経済産業省原子力安全・保安院は14日午後0時すぎに記者会見し、東京電力福島第一原発3号機の爆発に関し、

>「(3号機)1階の建屋近くのモニタリングでは、1時間当たり20マイクロシーベルトで、

>年間浴びて全く問題のない数値の50分の1程度の小さなものだった」と述べ

 

(注16) 下記の東京電力HP資料によれば、福島第一原発と外部との境界付近にある正門付近で3月14日午後9時37分に毎時3130マイクロ・シーベルトもの高い空間放射線値が記録されています。

http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110314s.pdf