[注意]:国籍法の条文は総務省HPのe-Gov資料下記参照。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO147.html

(2012年5月19日追記)


みなし選択宣言者と16条2項

以下は、かなり難解ですが、国籍法は条文数が少ないので専門家でなくても、気合を入れて考えればわかるかと思います。ここでは「みなす」という法律用語に注意してください(注)。尚、六法を持っておられない場合には条文をプリントアウトして照合しながら読まれることを勧めます。


問題の所在

昭和59年改正国籍法の施行前から日本国籍と外国国籍を持つ者が国籍選択(14条1項)しない場合には日本国籍を選択し、外国の国籍を放棄する旨の宣言(14条2項)をしたとみなされます(改正附則3条)。

そして、16条2項は二重国籍を持つ者が外国国籍を前提とする外国の公務員に自由意志でなった場合に14条2項の日本国籍選択の趣旨に著しく反すると認められる場合には法務大臣は日本国籍の喪失の宣告をする事ができる旨規定しています。

ここで、法律上「みなす」(注)というのはそれが事実でなくても同一の法律効果を生じさせるものですが、それでも実際に自己の自発的意思で日本国籍を選択し、外国の国籍を放棄する旨の宣言をしたわけではないので、みなし選択宣言者(改正附則3条)の場合には「著しく反する」とは言えないとして、法務大臣は日本国籍の喪失の宣告をすべきでないと考えうる余地はあります。(これがここでの問題の所在です。)

「外事法・国籍法」(ぎょうせい)黒木忠正・細川清共著(いずれも当時は法務官僚) 1988年発行 p.421. はこのような考えに立つものと思われます。これは改正法施行前からの既存の重国籍者は日本国籍の喪失の宣告(16条2項)の対象とならないとしているのです。

この解釈の余地について私は、国内法上の難点・疑惑を指摘すると共に、外国から見た場合においては決定的欠陥がある事を以下に示します。

 

国内法的難点・疑惑

しかし、この書籍は逆に、地方公務員でも16条2項の対象となりうる(p.416)としており、単純労働や臨時職でないかぎり行政職であれば地位が低くてもその対象となるとしていることに着目すべきでしょう。しかも、この書籍は起草者である法務官僚が書いたもので実質的に運用指針になるものです。つまり、将来、実質的には1985年以降の出生者について実際に国籍の選択宣言した者の場合には「著しく反する」とされる外国公務員は行政職であれば地位の低い地方公務員でもその対象となることを考慮すべきなのです。

もちろん、みなし選択宣言者(改正附則3条)の場合には自発的意思で実際に選択宣言した者より甘くすべきでしょう。それゆえ、みなし選択宣言者(改正附則3条)の場合には実際に選択宣言した者より緩和して職種を大統領・国会議員・閣僚・国軍参謀総長・最高裁裁判官等の国家中枢に関する職に限定すればよいのです。つまり、総合的に「著しく反する」か否かということを判断すればよいのです。改正法施行後に生まれた者から急に厳しくするのも均衡に欠けます。

ここで、自由意思で外国の最重要の公職につくということは、外国の国籍を放棄する旨の宣言をしたとみなすこと(改正附則3条)とは絶対に相容れないはずです。

また、16条2項が改正附則3条の対象者は日本国籍の喪失の宣告の対象外と考えるのは、改正法施行の昭和60年以降に出生した者が20才になる2005年まで16条2項は実質的に空文と考えるに等しいので純粋に国内法的に考えても問題があるのです。しかも、改正国籍法の起草にかかわった法務官僚がそのような事を改正附則・省令・通達・内規等に明示せずに主張していることから、なぜ、それを改正附則等に明示しなかったのかという立法面から考えれば外国を欺く意図があったのではという疑惑が生じます。さらに、それが法務官僚の書いた専門書の最後から2ページ目にひっそりと書かれているのではなおさらです。だいたい、国籍法の適用にあっては特に過酷な仕打をする法務官僚がこの事だけに人権的で甘いのもおかしすぎる話なのです。

尚、法律学全集59−U・「国籍法」 [ 新版 ] 有斐閣 新版第1刷・江川英文・山田鐐一・早田芳郎 共著・p.149は国籍の選択に関する経過措置で既存の重国籍者には16条が適用されないとしていますが、この立論は誤りです。なぜなら、改正附則に特に規定がなければ適用されるからです。しかし、そのような明示規定はありません。(おそらく、この書籍で、適用されないというのは形式的に適用されても日本国籍の喪失の宣告の対象とならないとすべきである、すなわち、実質的には適用されないのと同様に考えるべきとの意味かと思われます。)

 

国際法的見地からの重大な欠陥・疑惑

さらに決定的なのは、外国の国籍を放棄する旨の宣言をしたと日本の国籍法上みなすと当該外国政府に無断で規定(改正附則3条)し、大統領や国会議員になった者にまでそれを押し通せば、単に対抗力がないというだけではなく侮辱です。その矛盾を16条2項は緩和する機能を持つはずなのに、既存の重国籍者でみなし選択宣言者を16条2項の日本国籍喪失宣告の対象から除外するのは許されません。

また、ペルーすなわち海外から見ると日本の国籍法16条2項からすれば2000年11月まではまさか大統領になったフジモリ氏が日本国籍を持っているとは予測できなかったことは重要です。つまり、ペルーのマスコミやフジモリ氏と対立するペルーの政治家もそれに気付かないため批判できず、したがって一般ペルー人もフジモリ氏が日本国籍を隠し持っているとは知り得ず彼を大統領に選んだ者もいるはずだからです。

さて、これが立法上の過誤(バグ)であるとの言い逃れはありえません。なぜなら、まず、憲法で制定が義務づけられている最重要法規であり、しかも非常に短い法規で、また、法務省の主管の法規だからです。

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浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp


(注)「みなす」とは「性質の異なるものをある一定の法律関係について同一のものとして、同一の法律効果を生じさせること。法律による擬制である。」(有斐閣・新法律学辞典より抜粋)「推定」の場合にはそうでないことが証明されれば予定された法律効果は生じませんが「みなす」の場合にはいくらそうでないことが証明されても予定された法律効果が生じる点で異なります。

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参照条文

国籍法は条文の一部を以下に示しますが、全文を御覧になりたい方はオンライン条文参照サイトの「法林」(入力者・河原一敏 さん) http://list.room.ne.jp/~lawtext/1950L147.html で御覧になってください。

国籍法・第14条

(第1項) 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなった時が20歳に達する以前であるときは22歳に達するまでに、その時が20歳に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

(第2項) 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによってする。

国籍法・第16条

(第1項) 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

(第2項) 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失っていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であっても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。

(第3項) 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行なわなければならない。

(第4項) 第2項の宣告は、官報に告示してしなければならない。

(第5項) 第2項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。

 

国籍法・昭和59年改正附則・第1条

この法律は、昭和60年1月1日から施行する。

国籍法・昭和59年改正附則・第3条

この法律の施行の際現に外国の国籍を有する日本国民は、第1条の規定による改正後の国籍法(以下「新国籍法」という。)第14条第1項の規定の適用については、この法律の施行の時に外国及び日本の国籍を有することとなったものとみなす。この場合において、その者は、同項に定める期限内に国籍の選択をしないときは、その期限が到来した時に同条2項に規定する選択の宣言をしたものとみなす。

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