4.小規模玄武岩火山にも複成火山はある。

(1) 大根島火山の火口丘である大塚山スコリア丘は複数回噴火している。

 大根島研究グループ(1975)は大根島火山の火口丘の大塚山スコリア丘のスコリア層中に炭化木片を発見した。

ただし、鹿野和彦・吉田史郎(1985)によれば、上図の露頭はコンクリートが吹き付けられて見れなくなってしまったそうである。

これは大塚山スコリア丘が休止期間をはさんで複数回噴火した事を示すものである。それにもかかわらず、「大根島は一九七五年に初めて単成火山であるとわかりました」などとデタラメな事を初学者向け解説書で述べている火山学者がいる(注1)。それ他にも山陰の小規模玄武岩火山がすべて単成火山と誤解している火山学者が多いようである。実際、大根島火山の火口丘の大塚山スコリア丘のスコリア層中に炭化木片が発見されたのは何かの間違いだと口を滑らせた中堅火山研究者すらいる。口には出さないがそう思ってる火山学者が大半(注2)であろう。しかし、個別に詳細に調べずに、山陰の小規模玄武岩火山がすべて単成火山と決め付けるのは学問の態度としては誤りであり、防災上も危険である。

 (2) 鳥取県西部の小規模玄武岩火山の高塚山は成層火山である。

 服部仁・片田正人(1964)は、2000年鳥取県西部地震震源域周辺の伯備線・根雨駅至近の日野川河床で粗粒黒雲母花崗岩の基盤岩の同じ割れ目に粗粒玄武岩岩脈と安山岩岩脈が隣り合って並存している実例を示している。

これは、安山岩岩脈の両側に急冷縁がある事から時間間隔を置いて同じ割れ目に玄武岩マグマと安山岩マグマが貫入した証拠であり、鳥取県西部地震震源域周辺の小規模玄武岩火山が複成火山になる可能性を示すと共に、安山岩溶岩流出の可能性も示すものである。

さらに、服部仁・片田正人(1964)の鳥取県西部地震震源域周辺の越敷野玄武岩台地(溝口溶岩)南部の柱状図は、高塚山(鳥取県会見町・溝口町)が時間間隔を置いて複数回噴火した成層火山である事を示している。

、越敷野玄武岩台地(溝口溶岩)北部の越敷山は地形図から見ても傾斜が非常に緩やかで、中腹の玄武岩のK-Ar年代は約121万年前(注3)であるのが妥当に思えるが、高塚山上部のスコリア丘(注4)の(頂上の非常に小さな火口を除いた)傾斜は2千5百分の1の大縮尺の地図で標高270mから標高295m間での斜面の平均傾斜を求めると約26度(注5)であり、神鍋火山群のブリ・スコリア丘(約17万年前)の傾斜の約25度(注6)に匹敵し、越敷野玄武岩台地(溝口溶岩)で複数の断層(注7)が存在し陥没(注8)も見られる事から高塚山が神鍋火山群のブリ・スコリア丘より若い可能性が高く、高塚山の最終噴火が今から20万年以内の可能性を示唆する。(尚、私はこの陥没は大量のテフラ放出による火山性陥没と考える。)

高塚山の陥没

また、高塚山中腹には活火山以外では高塚山と大根島と神鍋山にしか存在しない溶岩トンネルらしき洞窟(注9)が存在する事もそれを裏付ける。尚、越敷野玄武岩台地最南部の標高254mの丘(ゴルフ場造成により消滅?)も非常に傾斜が緩い事から、約121万年前に越敷野玄武岩台地全体が割れ目噴火によって形成された可能性が高い。すなわち、高塚山は約120万年前から20万年以内まで約100万年もの長期間、活性を保ってきた可能性を高塚山上部の傾斜は示している。

(3) 神鍋火山群についての考察

   ほとんどの火山学者は小規模玄武岩火山の密集地域のスコリア丘すべてを安易に単成火山と決め付けているようであるが、個々のスコリア丘を個別詳細に調べね ば噴火を1回しかしていないとは断定できない。また、小規模玄武岩火山の密集地域の小規模玄武岩火山で過去に1回しか噴火していなくとも将来再噴火しない と断言できないはずである。それゆえ、防災上の見地から「単成火山群」なる用語は使用すべきでないと私は考え、日本火山学会に善処を求めたい。また、小規 模玄武岩火山の密集地域全体は1個の複成火山に近い場合も有る。田倉山火山もそうである。神鍋火山群も実はそうなのである。神鍋火山群のスコリアはスコリ ア丘以外の地点でも1m以上の堆積のある地点があり、地点によっては大机火口丘由来のスコリア層の上に神鍋火口丘由来のスコリア層が覆っている場合(注10)もあり、また、地点によっては複数の火口丘由来の溶岩が重なっている場合(注11)もあるのである。これは、神鍋火山群のスコリア丘がもう少し大きくてスコリア丘どうしが互いに重なり合っていれば(広義の)複成火山と認定された可能性が高い事を示すものである。 尚、「神鍋火山群」のある日高町公式HP(注12)神鍋山について、「山の西南麓には、砂利(スコリア)を採集した跡があり、そこの断面を観察すると、スコリア層の堆積状態から、神鍋山が数回噴火したことがわかります。 」としている。 これは、先山徹・松田高明・森永速男・後藤篤・加藤茂弘(1995)が上記の神鍋山露頭観察結果として、「この露頭では少なくとも4時期のスコリアの噴出が確認される。」としているのを参考にしたものであろう。

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注釈

(注1) 守屋以智雄(1992)は、「大根島は一九七五年に初めて単成火山であることがわかりました。」とするが、これはデタラメである。なぜなら、徳岡隆夫(2001)によれば、1975年に大根島玄武岩に言及したのは大根島研究グループ(1975)だけであり、大根島研究グループ(1975)は大根島を単成火山などとは言っておらず、逆に大根島火山火口丘の大塚山スコリア丘が複数回噴火した証拠であるスコリア層中の炭化木片の存在を紹介しているからである。

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(注2) 日本火山学会の「日本の第四紀火山カタログ」が安易に「単成火山群」なる言葉を使用するのはその現われであろう。

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(注3) 年代値は日本火山学会HPの「日本の第四紀火山カタログ」 の横田・溝口溶岩

http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/tchiba/volcano/kobetsu/id-3011.htm

のUto, K.(1989)の測定結果参照。尚、K-Ar年代測定試料採取地点は測定者の宇都浩三氏からの私信による。

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(注4) 火口跡と考えられる部分が非常に小さい事とスコリア丘としての形状を持っているのが高塚山上部のみなので高塚山の純粋なスコリア丘は高塚山上部のみと考えられる。

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(注5) 高塚山の北・北東・東・南東・南・ 南西・西・北西の8方向での標高270mから標高295mの間の高度25m変化に水平距離の変化合計が418mであるので、arctan (25*8/418)≒25.6° [arctanはtanの逆関数 を意味する。] 高塚山周辺の2千5百分の1の大縮尺の地図はここをクリック。

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(注6) 古山勝彦・長尾敬介・笠谷一弘・三井誠一郎(1993), table 2 参照。

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(注7) 山内靖喜・岡田龍平(1997)、山内靖喜・岡田龍平(1996)参照。

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(注8) 岡田龍平・山内靖喜(1997)参照。

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(注9) 岡田龍平・山内靖喜(1997)参照。

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(注10) 古山勝彦(2000)の図5-7の柱状図による。

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(注11) 古山勝彦・長尾敬介・笠谷一弘・三井誠一郎(1993)のFig.4.のボーリングコア柱状図による。

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(注12) 日高町公式HPにおける神鍋山の解説

http://www.town-hidaka.com/yoogan3.html

尚、上記HPを下までスクロールすると先山徹・松田高明・森永速男・後藤篤・加藤茂弘(1995)による上記露頭のスケッチが着色されて載っている(原典は白黒) ので、先山徹・松田高明・森永速男・後藤篤・加藤茂弘(1995)の閲覧が困難な場合には参考にすると良い。

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参考文献

大根島研究グループ(1975):大根島は第四紀の火山である;地球科学29(6)p.297-299

鹿野和彦・吉田史郎(1985):境港地域の地質(地質図幅「境港」)、地質調査所

守屋以智雄(1992):火山を読む、岩波書店 p.125

徳岡隆夫(2001): 大根島玄武岩覚書, 島根大学地球資源環境学研究報告20 p.217-226

Uto, K.(1989):Neogene volcanism of Southwest Japan: its time and space based on K-Ar dating. Ph. D. Thesis, Univ. of Tokyo, 184pp.(ただし、私は見ていない。 日本火山学会HPの「日本の第四紀火山カタログ」 の横田・溝口溶岩にその年代値が載っている。)

http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/tchiba/volcano/kobetsu/id-3011.htm

古山勝彦・長尾敬介・笠谷一弘・三井誠一郎(1993):山陰東部, 神鍋火山群及び近傍の玄武岩質単成火山のK-Ar年代;地球科学47(5)p.377-390

山内靖喜・岡田龍平(1997):米子市南方で新たに見つかった活断層;地球科学51p.133-145

山内靖喜・岡田龍平(1996):会見町の活断層について、島根県地学会会誌11p.21-27

岡田龍平・山内靖喜(1997):「越敷原台地」;鳥取の自然をたずねて(赤木三郎 編)、p.201-207 築地書館


謝辞

高塚山周辺の2万5千分の1の地図のFAXをくださった会見町教育委員会事務局の宇田川学氏に感謝する。

溝口溶岩のK-Ar年代測定試料採取地点を教えてくださった宇都浩三氏に感謝する。

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2004年5月15日

浅見真規 vhu2bqf1_ma@yahoo.co.jp

(談話室)「オクトパスアイランド」 (お気軽にどうぞ)