鳥取県西部地震と大根島火山の地震起源モデル

 

T. モデル構築の必要性

大根島火山は玄武岩溶岩でできた非常に小さな成層火山(注1)で、最終噴火時期は日本火山学会のHPのデータ(注2)では12万年前となっています(ただし、補足参照)。1999年までは噴火の危険が1年あたり100万分の1以下に見積もるのが妥当だったかもしれません。そのため、大根島では火口丘の大塚山噴火口上から300m以内に保育所・中学校・町役場が有ります。

ところが、2000年10月6日の鳥取県西部地震の余震震源域の延長線はピッタリと大根島火山に向かっています。このことにより、大根島火山の噴火の確率が上昇する可能性がないのか考察するため、大根島火山の生成原因を大地震であったとするモデルを作ってみました。そうすると、島根県東部が千年以上大地震の空白域である事と直下型地震が噴火を誘発する可能性が高い事から活火山レベルの噴火の可能性が考えられます。また、前兆現象のとらえにくいステルス的噴火をする可能性も考えられます。

 

U.モデル構築における仮定

[ 仮定1−1 ] プレート最下部まで達する断層が存在する。

[ 仮定1−2] 大根島火山は過去の大地震によって生成された。

(コメント)

従来、火山フロントでない山陰地方の小規模で(高温で固化する)粘性の低い火山の生成原因について説明が困難とされていたようです。

粘性の高いマグマの火山は地震断層の破砕帯や震源断層に誘発された開口割れ目だけでは噴火できないでしょう。しかし、大根島火山のマグマは粘性が小さいので、そういう所からも上昇可能です。

また、山陰地方の地下での和達−Benioff帯は太平洋岸より深いのでアセノスフェアの温度は太平洋側より高温で太平洋岸より玄武岩マグマは生成されやすいでしょう。(この事は太平洋岸の場合には地震で火山ができにくい理由となります。)

アセノスフェアにおける定常的熱上昇がなくとも粘性が低いマグマは一気に上昇し、また一気に上昇するため温度低下が少なく固化せずに上昇するものと考えられます。

[ 仮定2 ] 比較的少量の粘性の低いマグマは地殻下部に到達するまでは観測にかかりにくい。

[ 仮定3 ] 噴火時には溶岩は(時間当たり大きな流出量で)一気に噴出する。

(コメント)

過去の溶岩流出時において高温で固化しやすい玄武岩マグマが非定常的な噴出で比較的冷えた火道から噴出した事を考えると、いくら火山の規模が小さいからといっても時間当たりの流出量が小さければ火道の途中で固化して地上に噴出しなかったはずであるからです。つまり、地上に噴出するには一気に(時間当たり大きな流出量で)噴出する必要性があったからです。

 

V.補足

大根島火山の最終の溶岩流出年代は日本火山学会の12万年前というK−Ar法での測定数値(注2)は大山や三瓶山の火山灰が溶岩の上に積もっている事から妥当と考えられます。

しかし、今から3千年くらい前まで火口丘の大塚山から小規模な噴火があった疑念の余地はあるようにも思えます。まず、火口丘の大塚山の上には大山や三瓶山の火山灰がほとんどなかった可能性がある事(注3)が一つです。それと8世紀初頭に編纂された「出雲国風土記」(注4)における大根島と江島(大根島のすぐ横にある玄武岩溶岩の島で大根島火山と海面下の基底部分においては一体になっている)の植生・土地利用形態と比較すると、植生比較では、ほぼ同じ土壌なのに大根島の樹木は島の西端に2本の松があるだけなのに江島は草木が繁茂していたと記されています。土地利用では大きい大根島に人家が無く牧場として利用されていたのに対し小さな江島には民家・神社が存在した事です。これは、縄文時代まで大根島で小規模な噴火があって火災を引き起こしていた可能性を想起させます。

 

2002年4月5日

浅見真規 asami@mbox2.inet-osaka.or.jp

(討論用掲示板) 大根島 (御意見をどうぞ)

目次


(注1)徳岡隆夫・元・島根大学総合理工学部教授の

「大根島・弓ヶ浜の地下水問題」の論稿のある下記HPには以下のように記述されてます。

大根島は約25万年前の氷河期に陸上に噴出した成層火山

http://vege1.kan.ynu.ac.jp/nakaumi/3/tikasui.htm

 

(注2)大根島火山に関する日本火山学会HP参照

http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/tchiba/volcano/catalog/volc-43.htm

 

(注3)徳岡隆夫・元・島根大学総合理工学部教授の

「大根島・弓ヶ浜の地下水問題」の論稿のある下記HPのGIF画像参照

http://vege1.kan.ynu.ac.jp/nakaumi/3/tikasui.htm

 

(注4)講談社学術文庫「出雲国風土記」荻原千鶴 訳注・第5刷 p.111-118 (島根郡)参照